2017年7月・8月・9月・10月の数冊 本文へジャンプ
      今回は「つながり」について考える数冊です。



   おかしい、気がついたらもう10月も終わりになっているではないですか。一体、いつの間に時間が経ってしまった
  のでしょう。このコーナーは3ヶ月に1回の更新が原則なのですが、すでに4ヶ月目。。。この現象はひとことで言え
  ば「さぼり」です。ということで、これ以降は身を引き締めて定期更新に励むことにします。
   今回取り上げるのは「つながり」について考える数冊です。「つながり→関係性」は良いものばかりではなく、断ち切り
  たいものもあります。何かとつながることで生きがいを感じること、何かとつながらなければ生きていけないこと、何かと
  つながっているがゆえに苦しむこと・・・そんな「つながり」について描かれている本をみていきましょう。



稲沢公一著『援助関係論入門〜「人と人との」関係性〜、有斐閣アルマ、2017年

内容

 読後の感想は、「頭の良い人がまとめると、こんなにもクリアカットで深い考察ができるものか。。。」ということでした。稲沢先生は私の博士論文の副査であり、以前から先生が書かれた御本は読んでいました。この本は、以前も紹介した『援助するということ』(有斐閣、2002年)でうならせられた先生の論考を広げ、深めたものです。
 この本は、「『人を助ける』こととはどういうことなのかといった、あまりにも素朴な問いを頭におきながら、サブタイトルにあるように、人が人を助けることとは、基本的には、『人と人との』関係性の一つであるというとらえ方に基づいて書かれている」(pp.i〜A)ものです。第1章で展開されている援助を構成する3要素である「援助対象」「援助関係」「援助過程」は、この本を通底するとても大切な用語と位置づけられています。印象に残っている箇所はいくつもあるのですが、特に「第9章 援助過程がめざすところ」「第10章 『人と人との』関係性」「第11章 『無力』であること」は、それぞれに深い考察がなされており、考えさせられるばかりです。
 「第10章 『人と人との』関係性」から1箇所だけ引用してみましょう。「援助者とは、いつでも逃げだせる者のことをいいます。・・・そして、あえて逃げ出さない決意をすることは、2人(評者注:援助者とクライエント)のあいだの非対称性をその根源において自らの意志で『選び取ること』になります。すなわち、それは、単なる構造的な枠組みとして与えられただけの非対称性、すなわち、『逃げられる者』と『逃げられない者』との関係性を新たな非対称性、すなわち、『逃げない者』と『逃げられない者』との関係性へと能動的に変換する覚悟であるといえます」(p.160)。
 稲沢先生の『援助者が臨床に踏みとどまるとき〜福祉の場での論理思考〜』(誠信書房、2015年)はいささか難解で、自分のなかにしっかり消化して落とし込めていませんでしたが、この本はとてもわかりやすく勉強になりました。なお、本の内容をより深めるには、次の3冊も同時に読むことをお薦めします。
・箒木蓬生(2017)『ネガティブ・ケイパビリティビリティ〜答えの出ない事態に耐える力〜」朝日新聞出版。
・尾崎新編(2002)『「現場」のちから〜社会福祉実践における現場とは何か〜』誠信書房。
窪田暁子(2013)『福祉援助の臨床〜共感する他者として〜』誠信書房。
 
 

目次


第1章 援助を構成する3要素
第2章 援助の「必要条件」
第3章 何が援助の対象なのか
第4章 「援助対象」を構成するもの
第5章 4つの援助モデル
第6章 他なる人
第7章 援助間計の4性質
第8章 援助関係論はどのように発展してきたか
第9章 援助過程がめざすところ
第10章 「人と人との」関係性
第11章 「無力」であること
第12章 なぜ、人は人を助けるのか



NPOいちごの会、リカバリハウスいちご編『新しい今日を生きる人びと〜依存症からリカバリーへ 地域福祉の方法と実践〜、あるほんと文芯房・アカデミア出版会、2016年

内容

 この本は、フェイスブックのお友達から紹介されて購入しました。そのお友達とは、この本の一節を執筆しているアルコール・薬物依存からリカバリーした方です。
 NPO法人いちごの会は「依存症者が地域の中で回復していくことをめざし、社会参加を促進し、共生社会の実現をはかること」(p.318)を目的とした組織です。依存症の人たちは、それはそれは過酷で壮絶なアルコールや薬物との「つながり」がありました。「本当に毎晩毎晩盗んできた酒を、泣きながら身体に流し込み、狂ったようにシンナーを吸い、とにかく自分を壊したかった!自分を殺したかった。痛めつけ、痛みを感じ、狂って意識が飛んでしまう。そのためだけに酒を飲み続けシンナーを吸い続けていたように思います」(p.174)。やがてそんな人たちがいちごの会と出会い、徐々に徐々に回復の途上を歩んでいきます。
 そんないちごの会は大事な拠点であり、人とつながるための場であり、生きていくための拠り所となっていることがよく伝わってきます。「本当に必要な支援は必要な時期に与えられるということです。3年半、自分でミーティングに歩いて飲酒や薬物を断ち、その過程を経て、何らかの変化や成長が自分の心の中で起こっていたから、再度、いちご作業所を利用したいと思ったこと。・・・社会に復帰して、アル中や薬中でない人たちと共に働いたり、かかわりをもつことで新しい人生を生きていく一歩を踏み出せたのだと感じています」(p.184)。
 自分にとっての大切なつながり。生きるためのつながり。そんなことを思い起こさせてくれる1冊でした。


目次


T苦しむ痛む困る向き合う気がつく
 当事者がつづる記憶や記録による生活史や人生史
 家族がつづる記憶や記録による生活史や人生史
 スタッフがつづる記憶や記録による生活史や人生史

U「リカバリハウスいちご」の誕生
 「リカバリハウスいちご」の生誕まで
 地域生活からのニーズ
 ニーズを実現するアルコール作業所の開所

V「リカバリハウスいちご」とは
 当事者との協働的な実践
 リカバリハウスで活動する8つの部門
 共同生活を援助する「グループホーム」
 メンバーによる印象や感想ーアンケートより
 メンバーとスタッフからのひとこと

W地域生活を支援する取り組み
 リカバリーをめざす地域での生活支援の方法
 生活と就労でかかえる課題とはー当事者のインタビューより

X医療や自助グループと地域や行政との協働的な実践
 アルコール専門病院での治療
 アルコール医療での精神科の役割
 内科の疾病や依存症を患う人の治療や生活
 保健所での酒害教室に取り組む
 自助グループとの連携や協力
 地域で「リカバリハウスいちご」と共に歩む
 運営委員からのメッセージ



宮本節子著『AV出演を強要された彼女たち、ちくま新書、2016年

内容

 先日行われた日本社会福祉学会第65回秋季大会の大会校企画シンポジウムは「社会の暴力性を問う ―『包摂型社会』への提言−」でした。そのなかで、筆者の宮本節子さんが(シンポジスト名は「みやもとせつこ」)「社会の性規範・ジェンダー規範のダブルスタンダードによる暴力―アダルトビデオの中の性暴力の顕在化プロセスを例にして考える―」の報告をされており、そこで紹介された本です。会場からAmazonに注文し翌日に届きました。
 この本の趣旨を端的に表したのは次の一文です。アダルトビデオ制作は「契約というビジネスの装いをまとっているがその実、性犯罪と言ってもいい実態がある、ということである」(p.10)。そして「性犯罪被害者」という認識が弱く、でもひどくストレスをためていたり現状に困っている女性達のサポートとして「AV被害者相談支援事業」を行っている、任意団体「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)の活動状況を織り交ぜて紹介しています。
 最初に加工を交えた5人の女性の事例が登場しますが、だまされて強姦されたり、契約書をたてに言葉巧みに誘導されたりと、いずれも人権侵害が甚だしい重大な課題であることを訴えかけます。しかしながら同時に、こんなAV業界との「負のつながり」を断ち切るべく活動している団体の数は、まだまだ十分ではないことも痛感しました。そして、未だ立ち遅れているこのようなケースに対しても、やはりソーシャルワーカーの力は必要なのだということを思いしらされました。
 立場は違えど、同じ女性としてできることがあるならば、何かしたいと強く思わせられた1冊でした。


目次


はじめに いまアダルトビデオ業界では何が起っているのか
I アダルトビデオに出演させられてしまった彼女たち
1 Aさん*それでも彼女は言い張った。「親には知られたくない」。
2 Bさん*未明のメール。「助けてください」。
3 Cさん*「家の外になんだか変な男たちがいる」。真夜中の支援活劇
4 Dさん*渡された一日の撮影スケジュール表。「もういまさらバラせない」。
5 Eさん*「あなたは特別」「だからがんばれ」と言われその気になった
6 アダルトビデオの世界に引き込まれていく共通のプロセス

II なぜ契約書にサインをし、なぜそこから抜け出せないのか
1なぜ契約書にサインをし、なぜそこから抜け出せないのか
@なぜスカウトマンの勧誘にのってしまうのか
Aなぜ契約書にサインをするのか
Bなぜ撮影現場から逃げ出せないのか
Cなぜ辞められないのか
D彼女たちに共通していること
E相談内容から見えること

2どのように支援をするのか
@窓口を設け、SOSのメールを受けとる
A面接をし、相談を聞く
B解決したいことは何か、自分で見つける
C弁護士と連携して法的に対抗する
D警察と連携して暴力に対抗する
E主訴が解決しても残る問題はある

3アダルトビデオ産業の構造――スカウトからDVD発売、動画配信まで

補遺 契約書には何が書いてあって、何が書いていないのか



狭間香代子著『ソーシャルワーク実践における社会資源の創出〜つなぐことの論理〜、関西大学出版部 、2016年


内容

 さて、最後はソーシャルワーク実践の核となる、社会資源とのつながりを考える本で締めくくりましょう。この本は、「社会資源を創出するには『つなぐこと』が大きく関わっているという質的調査の結果とソーシャルワーク実践論における先行研究とを比較研究し、支援活動においてソーシャルワーカーの中で働く論理についての解明を試みたもの」(p.i)です。社会資源の創出がソーシャルワーク論での学びのポイントになっているにも関わらず、そこに焦点を当てた本が少ないなかでの貴重な1冊です。
 とりわけ面白かったのは、「第3章 基幹相談支援センター相談員の社会資源創出プロセス」の質的調査の結果です。基幹相談支援センターの相談員7名へのインタビューデータを質的データ分析法で分析した結果、「社会資源の境界スペクトラム」と「つなぎ力の強化プロセス」という2大カテゴリーが見出されました。前者には「境界線の背景化」「制度/非制度の区分」「境界線の柔軟な移動」が、後者には「相談員の持つ社会資源の活用」「相談員に必要な調整力」「社会資源情報の共有」が含まれました。社会資源創出プロセスの内実まで明らかにしたことは、今後につながる研究成果と思います。
 厚生労働省の社会福祉士養成課程シラバスでは社会資源の活用をはじめ、いくつかの抽象的な作業(アウトリーチ、ネットワーキング等)内容を教えることが含まれていますが、そんなときにこの本のようにそれぞれに特化した内容の本があると助かるなぁ、と思っています。


目次


第1章 環境のストレングスと社会資源の創出

第2章 基幹相談支援センターの機能と役割

第3章 基幹相談支援センター相談員の社会資源創出プロセス

第4章 ジェネラリスト実践におけるエンパワリングアプローチと社会資源の創出

第5章 社会資源の創出とつなぐ役割

第6章 社会資源の創出とつなぐことの論理


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