今回は、ソーシャルワーカーの仕事と医療を扱った本をご紹介します。 |
安道理著『走れ!児童相談所』、メディアイランド、2016年
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内容
このところ、社会福祉領域でも物語風のストーリー展開のなかで、大切なことを伝えていこうとする本を読む機会が出てきました。私自身、2004年に執筆した「第7章 高齢者への援助」『高齢社会と福祉』(朝倉美江編著、ドメス出版)で、在宅介護支援センターのソーシャルワーカーが一人の高齢女性の援助に関わる個別援助・集団援助・地域援助の過程を、物語として書きました。
なぜそうしたのかというと、テキストでよく見られる羅列的な援助技術の解説では、生きたソーシャルワーカーの働きが見えないからです。最もわかりやすいのが動画だとすれば、二次元の紙面でそれに近いのがマンガや小説、物語ではないでしょうか。執筆の際には、登場人物をどのようなキャラクターにするか、どこにどのような技術を盛り込むかを考えながら、登場人物に家族の名前をつけたりして楽しんで書きました。
そしてこの本もまた、児童相談所に異動してきたソーシャルワーカーの日常業務を、物語風に展開しています。一般行政職で県庁に勤務していた里崎君が、突如最初は不本意な児童相談所勤務を命じられます。憂鬱な日々を送るなかで、次々に出会う子どもと親の想像を超える状況、先輩や同僚のきめ細かいプロの仕事に触発され、徐々にソーシャルワーカーになっていきます。
クライマックスは、最後にある「クリスマス・ィブの立ち入り調査」と「走れ!児童相談所」で、本のタイトルの意味が明らかにされます。児童相談所が、もう何十日も姿を見せていない虐待されている子ども宅への立ち入り調査を行い、救出に向かうためです。当事者宅では、母親や継父との激しいバトルが繰り広げられ、しまいには里崎君の左胸に継父の振りかざしたナイフが突き刺さり。。。果たして児童相談所のソーシャルワーカーは、子どもを助けることができるのでしょうか。
そんなこんなで、1つ1つの章がドラマになりそうな本なのでした。子ども福祉に関心がある学生が多いため、推薦図書リストに入れています。大学1年生からも読みやすい1冊です。
目次
はじめに
人事異動
言い知れぬ憂鬱
ケースワーカーとして
小さな手のひらのために
初回面接への道
ロールプレイ
魔術師
戦慄の家庭訪問
頼れる女
職権一時保護に向けて
揺れる思い
SOSAを使え
悲しい虐待
クリスマス・イブの立ち入り調査
走れ! 児童相談所 おわりに
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川本健太郎監修・著『社協コミュニティワーカーさぽーと・ぶっく 黒子読本3』、とちぎ社協コミュニティワーク研究会、社会福祉法人 栃木県社会福祉協議会、2015年
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内容
この本は、栃木県社会福祉協議会が発行しており、これまでも2冊が刊行されてきました。インターネット上ではアップされている(http://www.tochigikenshakyo.jp/syakyo/kuroko-dokuhon3.html)のですが、冊子形態のものが手元になかったため、昨年度から同僚になった川本健太郎先生にいただいた本です。私自身は、大学院生時代に1ヶ月間、広島県社会福祉協議会での実習を行った経験はあるものの、現在の社会福祉協議会についてはほとんど知らない状態です。しかし、地域福祉や地域包括ケアが叫ばれる時代のなかで地域のことを知らないではすまされないため、細々と学んでいるところです。
この本の面白さは、豊富なケーススタディが載っていることです。支援プロセス表には、「年月日」「経過(主な事柄)」「ワーカーのかかわり(働きかけ)」に加えて、「ワーカーの意図・想い」の欄があることがポイントです。どのような意図・想い(すなわち根拠)のもとでどのようなアプローチを行ったのかは、私の現在の研究テーマである「固有性・専門性の提示を目ざすベテラン医療ソーシャルワーカーの実践行動と根拠の解明」にも共通するものであり、興味深く読みました。
例えば事例4「地域支援戸地域自立生活支援の往来」では、「ワーカーのかかわり(働きかけ)」の欄に何度も「サロンの手伝い。」が出てきます。が、「ワーカーの意図・想い」は当然のごとく全て異なることが書いてあります。「今回も多くの参加者・ボランティアが参加してくれていたが、地区社協の役員が民生委員さんだけというのが気になった」「今回初めてB地区全体のサロンAを開催したが、手伝いをしてくれる方が20名も来ていただき、とても良い雰囲気で開催されていた」「今後は、これ以上新規の方を増やさないようにするのか、開催方法を変えていくのか、ボランティアと話し合いながら決めていきたいと思う」(pp.74-80)等々。社会福祉協議会のソーシャルワーカーの思考過程を学ぶための、良い教材となるでしょう。
社会福祉協議会で実習する学生、実習した学生、就職を考えている学生には、必読文献だと思います。
目次
はじめに
Chapter1 個別支援とコミュニティワーク
Chapter2 ケーススタディ
Case Study1 貧困問題と向き合い「孤」を多様なネットワークで支える地域づくり
Case Study2 認知症になっても活き活きと暮らすことのできる地域支え合いのまちづくり
Case Study3 新たな地域の担い手と創るオーダーメイドのつながりの場づくり
Case Study4 転入者(Iターン)コミュニティが融合する新たな住民自治と地域福祉活動
Case Study5 住民主体の活動を支える社協組織(内部)の支援体制のカタチ
Chapter3 コミュニティワークを展開するための資源づくり
終わりに
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磯野真穂著『医療者が語る答えなき世界〜「いのちの守り人」の人類学〜』、ちくま新書 、2017年
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内容
「服を脱ぎ、裸を見せ、さわらせる。誰かが自分の身体に針を刺し、器具を取り付ける。自分だけの秘密をつぶさに話す。
私たちの日常において、こんなことがあたりまえのようにできる相手、もしくは、こんなことをされても平気な相手はいるだろうか。・・・しかし、このようなことが、まったくの第三者相手にふつうに行われる場所が、私たちの日常に一つある。それは医療現場だ」(pp.9-10)。こんなフレーズで始まるこの本、のっけからその世界に引き込まれました。
筆者の磯野さんは文化人類学者であり、文化人類学の視点から医療現場を見たら何が見えてくるか、という医療者の視点とは異なる切り口から考察がされています。
どの章も面白いのですが、やはりソーシャルワーカーが登場する「第7章 死守―頑固爺はパンを焼く」は心に響くものがありました。この章では、独り暮らしで頑固な高齢男性の浩司さんが退院して再び在宅生活を送るまでの、ソーシャルワーカーと浩司さんとの関わりのプロセスが描かれています。最初、病棟では「問題患者」だった浩司さんの退院・独居生活再開が可能ではないかと考えたのは、多職種のなかでソーシャルワーカーだけでした。そして、それを実現するためには、どうしても浩司さん自身の協力と成果の提示、それをスタッフと共有し在宅生活再開に合意してもらう手順が不可欠でした。それを一つ一つ実現し、在宅へ戻っていきます。
後日、ソーシャルワーカーが再び浩司さん宅を訪れた時、ストーブで朝食のパンを焼いていた浩司さんにワーカーが「おいしそうな匂いがしますね」と言った時、「いつもこうしてきたんです」という答えが返ってきました。この時、ワーカーは気がつきます。「私はこのために、この時のために『家に帰ろう!』って言ったんだって思ったんです。この瞬間のために」(p.179)。患者にとって一番大切なこと、一番の望みをワーカーは探し当て、その実現の手助けをしたワーカーの仕事の本質が丁寧に描かれています。
いつも見ている風景を、少し視点を変えて見てみることで気がつくことの豊富さに、読んで良かったなぁと思いました。
目次
プロローグ
第T部 肩越しの視点から
第1章 気付き―ナタデココとスカートのゴムについて
第2章 高齢者と身体拘束―看護師の心もきしむ)
第U部 科学が明らかにできないもの
第3章 手術と呪術―きれいな人と汚れた人
第4章 新薬―それを前に臨床医が考えること
第5章 効く薬とは何か?―漢方と科学の切れない関係
第V部 傍らにいるということ
第6章 いのちの守り人―医療者の仕事の本質
第7章 死守―頑固爺はパンを焼く
第8章 共鳴―旅する言語聴覚士)
エピローグ
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花戸貴司著『ご飯が食べられなくなったらどうしますか?〜永願寺の地域まるごとケア〜』、農文協、2015年
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内容
この本は優しさと温かさに満ちています。筆者の花戸医師は、外来に通っている患者さんに「ご飯が食べられなくなったらどうしますか?」「寝たきりになったら、病院に行きますか?それとも施設に入りますか?」と問いかけます。そうするとほとんどの人が「そうなっても家に居るわ。そのときは、先生、往診してくださいな」と答え、花戸医師も「わかったわ、なんかあったら往診するから呼んでや」と返します。そんな永願寺地域における、命を受け継ぐ場面のベストショットを描き出した一冊です。「地域包括ケア」が展開される今日ですが、この地域も源流の一つであったことを教えてくれます。
なんといっても、執筆している花戸医師の目線が優しさと温かさに満ちているのです。「『歳をとっても、独り暮らしになっても、障がいを抱えていても、認知症になっても安心して生活できる地域』。自分たちの住んでいる地域が、そんな地域になればと考えながら今日も往診に向かっている」(p.64)、「最近では、外来に元気に通っておられる方にも『ご飯が食べられなくなったらどうしますか?』と私のほうから聴くようにしている。皆さん思慮深く、そして雄弁に自らの終末期の迎え方について語ってくれる。そんなときは、他の年代の人が夢を語るときと同様に、とても目が輝いているように思う」(pp.67-70)という言葉に優しさと温かさがにじみ出ています。
そしてまた、随所に挟まれる國森康弘さんの写真が良いのです。高齢者の姿を写した写真が多いのですが、なかにはひいおばあちゃんを看取った隣で眠るひ孫の姿、在宅ケアを受けているおじいちゃんの背中をさする孫娘、棺のなかのおばあちゃんに手を合わせる幼児など、命の連鎖を感じさせられるショットが沢山載っています。永願寺地域での医療のスタイルを、他地域にそのまま応用することはできないのかもしれないけれど、大切にされるべき地域医療のスピリットは通底している気がします。昔、ほんの一時期だけ携わった地域医療の現場を思い出しました。
目次
第一章 病気が治らなくても元気に暮らす人たち 永源寺診療所の一日 重度の認知症でもあたりまえに生活するタエさん 進行がんの弘一さんは魚釣りの毎日 認知症で幻覚のあるトラさんは、「このままそっとね」 四歳のてっちゃんは、ひいおばあちゃんの最期をおぼえていた 永源寺は全国よりも一〇年進んだ地域
第二章 なぜ自分らしい死を迎えられるのか? 大病院ではできないことが地域ならできる 私が白衣を脱いだわけ 死を通して子どもたちへ伝える 認知症になっても安心して暮らせる地域に 「早く死にたい」という言葉の意味 地域の子どもは地域の皆で育てる 笑って人生を終えるために 暮らしのなかにある「いのちの授業」 「元気に老いる」ということ 「お互いさま」で支えあう暮らし 畑に行ける楽しみが最高のリハビリ 最期までいつもと同じように
第三章 住み慣れた家で最期を迎えるために 幻の名医よりも、近くのかかりつけ医 ご近所さんも介護チームの一員 病院と在宅ケアをつなぐMSWという仕事 治療の限界を認めた総合病院の先生 病と生きる人生に寄り添うケアマネージャー 薬剤師さんが薬の飲み忘れを解決してくれた クラスメートがサポーター ヘルパーさんは縁の下の力持ち お坊さんの存在 地域になくてはならないボランティア 在宅ケアを支えてくれる訪問看護師さん 地域の皆で支える「命のバトン」リレー
第四章 永源寺の「地域包括ケア」の歩み 永源寺は日本の未来図 小串輝男先生との出会い 三方よし研究会の始まり 永源寺地域における地域包括ケア 農村部と都市部の地域包括ケアの違い これから医療・介護を受けられる方に必要なこと 今、皆さんに伝えたい
現世で病気を生きる人を扱った絵本 小串輝男
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