伊藤亜紗著『目の見えない人は世界をどう見ているのか』、光文社新書、2015年
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内容
ここで、少し違った目線から当事者のリアルを見てみましょう。
この本は、視覚障害者本人ではなく、その人達と関わっている東京工業大学教員の伊藤先生が書かれたものです。日本社会福祉学会関東部会で伊藤先生を講師にお呼びした際に、企画を考えた一員だったにも関わらず当日は校務で学会には出席できず、という残念な状況でした。伊藤先生のお話は聞けなかったものの、この本はとてもインパクトが強く、講演でも紹介させていただいています。
この本の肝は、タイトルどおり目の見えない人が世界をどう見ているかについて、読み解いている部分です。例えば、伊藤先生が東京工業大学大岡山キャンパスの研究室に向かって全盲の木下さんと歩いている際に、木下さんは「大岡山はやっぱり山で、いまその斜面をおりているんですね」と言いました。毎日のようにそこを行き来していた伊藤先生にとっては、それはただの「坂道」でしかなかったため、かなりびっくりしたそうです。「つまり私にとってそれは、大岡山駅という『出発点』と、西9号館という『目的地』をつなぐ道順の一部でしかなく、曲がってしまえばもう忘れてしまうような、空間的にも意味的にも他の空間や道から分節化された『部分』でしかなかった。それに対して木下さんが口にしたのは、もっと俯瞰的で空間全体をとらえるイメージでした」(pp.47-48)。「人は、物理的な空間を歩きながら、実は脳内に作り上げたイメージの中を歩いている。私と木下さんは、同じ坂を並んで下りながら実は全く違う世界を歩いていたわけです」(pp.49-50)。
と、こんなエピソードが随所で出てきます。人それぞれの「意味」の違いを考えるうえでも、興味深い1冊です。
目次
【まえがき】 【本書に登場する主な人々】 【序 章】見えない世界を見る方法 【第1章】空 間 ―― 見える人は二次元、見えない人は三次元? 【第2章】感 覚 ―― 読む手、眺める耳 【第3章】運 動 ―― 見えない人の体の使い方 【第4章】言 葉 ―― 他人の目で見る
【第5章】ユーモア ―― 生き抜くための武器
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