2015年2月・3月の3冊+アルファ 本文へジャンプ
今回は、女性の貧困に関する本をご紹介します。


鈴木大介著『最貧困女子、幻冬舎新書、2014年


内容

 どのようなタイミングで本と出合うかと問われたら、書評・新聞広告・人からの紹介が主ですが、「たまたま偶然」の占める割合もかなり高いと思います。予定の時間よりも前にその場所に着いたときは、よく付近の本屋を覘きます。バッグの中に本がないと心細くなってしまうプチ(?)活字依存の私にとって、本屋は欲求充足の場でもあります。その際、必ず見るのが新書本コーナー。1,2時間の移動時間でちょうど1冊読めるので、新書は頻繁に買います。そして今回は、このたまたま出合った1冊から広がった、「女性の貧困」がテーマの数冊の本についてご紹介します。

 2月のある日のこと、たまたま覘いた本屋のベストセラーコーナーに平積みになっていたのがこの本です。記憶のどこかに、この本のタイトルは引っかかっていました。奥付を見ると、2014年9月30日に第一刷発行にも関わらず、2015年1月30日に第十一刷発行!すごい売れ行きです。
 今回、鈴木さんの本は初めて読みました。読み進めるうちに、『これは現実のことなのか』と目を疑いたくなるような話が続々と出てきます。鈴木さんは貧困を「三つの無縁」「三つの障害」と捉えています(p.10)。無縁とは、家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁。障害とは、精神障害・発達障害・知的障害です。しかしこの本のなかで描かれているのは、ただの「貧困」ではなく「最貧困」。すなわち、「世の中には、こうした分類・分析・論証や議論から外れたところで、目も当てられないような貧困の地獄の中でもがいている女性、そして未成年の少女たちがいる。セックスワーク(売春や性風俗産業)の中に埋没する『最貧困女子』」(p.12)なのです。
 何が衝撃的だったかというと、出会い系のシングルマザーたち(評者注:子どもを育てるためにやむなくセックスワークに就く母親)の「痛みの大きさも、そもそもその存在自体も、可視化されていない。分かりづらい。一見すれば本人の自己責任にも見えるし、差別や批判の対象となりがちである」(p.80)。さらに、未成年家出少女らのセックスワークの周辺者は「最終的に搾取者になろうとも、少なくともこの時点では少女らにとって非常に肌触りの良い、私的なセーフティネットを提供してくれている」(p.105)という事実です。
 この1冊だけでは整理がつかなかったため、『家のない少女たち〜10代家出少女18人の壮絶な性と生〜』(鈴木大介、宝島社、2010年)、『最貧困シングルマザー』(鈴木大介、朝日文庫、2015年)も読んでみました。そこにも確かに『最貧困女子』を裏付けるような綿密な取材に基づいた話が展開されていました。いずれにしろ、社会福祉よりももっと居心地が良いセーフティネットとなる可視化されない場所が、彼女らに存在するということが書かれてありました。これはかなりショックでした。。。
 これらの本のなかでの救いは、所々に人間「鈴木大介」の肉声が入っていることです。相手をクールに取材対象としてしか捉えないのではなく、一人の血の通った人間として向き合い、終始共感と哀しみのまなざしを向けているのです。『最貧困シングルマザー』のあとがきには、こんな一節があります。「いまも、一人一人の母親たちの顔をまざまざと思い浮かべることができる。思い出すと、泣きたくなってくる。取材当時、僕のなかで抑え切れなくなった怒りと叫びが、何もしてあげられなかった無力感と罪悪感とともに、喉にこみ上げてくる。」(p.198)。私たち福祉に携わる人間は、この無念の気持ちを少なくとも正面から受け止め、考え、対策を具体化していかなければならないという、思いが胸に広がりました。
 

目次


第1章 貧困女子とプア充女子(貧困女子=小島涼美さん(23歳)の場合
「わたしは犬以下」 ほか)

第2章 貧困女子と最貧困女子の違い(「最貧困女子」は、セックスワークの底にいる
清原加奈さん(29歳)の場合 ほか)

第3章 最貧困少女と売春ワーク(なぜ家出少女たちは売春の世界に吸収されていくのか
「非行少女」から始まる ほか)

第4章 最貧困少女の可視化(ふんわり系美女の副業
地方週一デリヘル嬢 ほか)

第5章 彼女らの求めるもの(加賀麻衣さん(21歳)の場合
母親がケツもちで売春の勧め ほか)



NHK「女性の貧困」取材班著『女性たちの貧困〜“新たな連鎖”の衝撃』、幻冬舎、2014年


内容

 鈴木さんの本を読んでも、なかなか自分のなかで納得できなかった私は、NHK「女性の貧困」取材班がまとめたこの本を読んでみることにしました。この中身は、クローズアップ現代やNHKスペシャルで放映された際の取材に基づき、編集されています。
 鈴木さんのルポよりは「マイルド」な印象を持ちましたが、より多様な貧困状態にある女性の姿が見えてきました。特に辛かったのは、「第5章 妊娠と貧困」の内容です。妊娠したものの、自分では育てられない女性たちが産んだ赤ちゃんと、子どもを育てたいと希望する夫婦との特別養子縁組を仲介するNPO「Baby ぽけっと」への取材に基づいて描かれています。ここでは、妊娠中の女性たちが暮らす寮を用意し、出産まで支援するのですが、出産後一度だけ女性に赤ちゃんを抱かせることにしています。それは「子どもを産んだという事実を、決して忘れないでほしいという思いから」であり、「次に子どもを産むときは、喜んで命を迎えられる暮らしをしていてほしい。『生まれてくれてよかった』と子どもにいってあげてほしい」(p.137)という職員の思いからです。
 キャバクラで働いていた女性は、妊娠しても実家に帰ることができず、ここで子どもを産むことになりました。産んだ子どもは特別養子縁組で養父母のもとに引き取られることに決まり、最後に1時間足らずの時間、我が子を抱きました。そして、出産までの間は決して心を揺らすことなく過ごしてきた彼女は、嗚咽をもらすことなく静かに静かに泣いていたそうです。そして、寮を出てからも再びキャバクラの仕事に戻っていきました。。。
 こんな現実は辛いです。でも、そこにある現実ならば見なければならないし、一度見たら見なかったことにはできないと思います。社会福祉という学問に携わって以来、そんな思いを幾度となくしたことが今更ながら頭をよぎります。
 なお、インターネットで公開されているクローズアップ現代とHKスペシャルを観ることで、より本の内容をリアルにイメージできることでしょう。


目次


第1章 見えない貧困
第2章 非正規雇用の現実
第3章 「母一人」で生きる困難
第4章 セーフティーネットとしての「風俗」
第5章 妊娠と貧困
第6章 “新たな連鎖”の衝撃
第7章 解決への道はどこに
データが語る若年女性の貧困




大和彩著『失職女子。〜私がリストラされてから、生活保護を受給するまで〜
WAVE出版、2014年


内容

 そして私にさらなる衝撃を与えたのは、鈴木さんの本にも載っていた大和さんの本でした。タイトルの通り、失職した女性が生活保護を受けるまでの道のりをリアルな生活実感に基づき書いてあるのですが、そのシビアさは半端ありません。彼女のこれまでたどってきたプロセスは、こんなかんじです。「●一昨年、正社員の職をリストラに ●リストラ後、一生懸命に職を探すも、80社から連続不採用に ●求職期間は一年に及び、貯金を食いつぶす ●やっと採用された契約社員の仕事が三カ月で打ち切りに ●その仕事の失業保険がおりず、今月のお家賃・公共料金が払えません←イマココ!」(p.42)。
 さらに言うと、結局、彼女の住んでいたアパートを取り壊すために退去を余儀なくされ、幼い頃から虐待を受けていた両親のもとへは住所すら教えておらず、何年も精神科に受診している状態です。
 それでも、この本は不思議に絶望感だけに彩られているわけではありません。それは、大和さんのユーモアセンスや文才が所々でキラリと光っており、悲惨さのなかにも少し距離を置いてその状況を捉える観察眼によるからでしょう。だから、最後の章で彼女が「生活保護申請が通ったことで、金銭ではない、大きな贈り物をいただいたからです。それは、『私なんかでも、生きていていいんだ……』という、じわじわ心に沁みわたっていくような心情です」(p.241)と書いている部分では、こちらも嬉しくなると同時に救われた気持ちになりました。
 この文才を生かしてもっともっと幸せになってほしいと、願わずにはいられませんでした。


目次


はじめに

第1章 失職女子は、お金がない!
ただ「安定」を求めていた/やっと正社員になれたのに/失われていく三つの「溜(た)め」/娘の通帳を持ち出す母親/倒産はちょくちょくある/無業者の絶対数が増える国/わりと簡単にクビになる/最後の命綱がなくなった?/家賃を払えない私が見た光明/ひとりじゃないという実感/大家さんの許可という関門/樹海で首をくくらずにすんだ/

第2章 失職女子とハローワーク
売春するしかないのかな/最低ラインを見上げていた/どんな仕事がしたいのか?/真実だけを聞きたいんだ/応募書類がこっぱずかしい/求人票の真意を読み取る/一〇〇社落ちるのも納得/お祈りメール・コレクション/転職エージェントとの違い

第3章 失職女子のライフライン
大家さんとの闘い、再び/クレームを言っていいんだ/アンジェリカじゃない私/趣味は神社めぐりです! /職種や業務を問わない理由/ほとんど質問をされない面接/ライフラインが途絶えた! /孤独死上等と思っていたけど/不安の無限ループが始まる/主治医からのアドバイス/増えていくのは不安だけ

第4章 失職女子、生活保護を申請
生活保護申請の分かれ道/公的な支援に頼ってもいい/ダークサイドに沈みたくない/働いてもいいのでしょうか?/背水の陣で始めた物件探し/あー、もう言っちゃおう! /オーナーさんは鬱を気にする/私は生活保護を知らない/抑えきれない妬みと、衝動

第5章 失職女子、住まいを探す
生活保護とは何ですか?/思いっきり引っかかっていた/福祉課職員さんたちの実態/ワンランク上のハードルへ/ケースワーカーとの初面談/扶養照会という障(しょう)壁(へき)を前に/死ななかったお祝いをした/なんでそんなことを聞くの?/死にたいときに頼るもの/二週間以内に引越さなきゃ/貧困ビジネスの魔の手が……

第6章 失職女子の現在と、未来
頭のしびれと耳鳴りがつづく/生活保護は不足を補うもの/失職女子の究極節約作戦/利息に幸せはあるのか?/死神のアリアが聞こえたら/

おわりに




鈴木大介著『老人喰い〜高齢者を狙う詐欺の正体〜』、ちくま新書、2015年


内容

 最後はプラスアルファの1冊です。鈴木ファンになった私は、次々に鈴木さんの本を買っては読みました。そしてこの本もまた、かなりのインパクトを受けたためご紹介します。
 この本の主題は「振り込め詐欺」をはじめとする特殊詐欺犯罪です。そして、被害者の約8割が60歳以上の高齢者であり、被害総額は毎年ワースト記録を更新し続けているといいます。それが「老人喰い」なのです。
 この本のなかで脅威的だったのは、なぜ老人喰いは減らないのかの問いに対して、詐欺集団の理路整然と統制されたシステムが構築されていることと、そこで働く人たち(本のなかではプレイヤーと表現)の上昇志向やモチベーションが人並み外れて高いことです。それらについて、具体的な事例を描いて説明しています。もしもプレイヤーが運とタイミングに恵まれて、表社会でその実力を発揮できたなら、きっとトップセールスマンになれたことでしょう。そうならなかったことやそれを阻む社会の歪が、悔やまれてなりません。
 今から30年前に、認知症初期の祖母が豊田商事の餌食にされ、金塊を買わされました。といっても、家族がそれに気がついた時には、お金だけ支払わされて現物は手元にありませんでしたが…。会長が殺され会社が倒産する少し前に、すんでのところで親族が結束して会社と交渉し、いくらかの金塊を奪還することができたことは、今でも我が家の語り草となっています。それでも、泣き寝入りをした数万人の高齢者は、この振り込め詐欺の被害者とダブります。騙された後に、いかに悔しくやり場のない気持ちになったかを思うと、暗澹たる気分になります。
 だから、絶対に「老人喰い」は許せません!!
 少しでもこの本の内容が浸透し、被害に遭う人が少なくなることを願っています。


目次


第1章 老人を喰らうのは誰か―高齢者詐欺の恐ろしい手口(会社員風の若者たち
彼らは誰を狙っているのか ほか)

第2章 なぜ老人喰いは減らないか―(株)詐欺本舗の正体(なぜ老人喰いは減らないか
(株)詐欺本舗の企業概要 ほか)

第3章 いかに老人喰いは育てられるか―プレイヤーができるまで(平手打ちの飛ぶ研修
「ダミー研修」による選抜 ほか)

第4章 老人喰いとはどのような人物か―4人の実例からみた実像(激変するプレイヤーの素性
ケース1 闇金系融資保証金詐欺プレイヤーからの転業 ほか)

第5章 老人喰いを生んだのは誰か―日本社会の闇のゆくえ(老人喰いはダークヒーローなのか
カスになるまで使い尽くせ ほか)



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