今回は冬休みに読みたい専門書と一般書のご紹介です。 |
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渡辺俊之・小森康永著『バイオサイコソーシャルアプローチ』、金剛出版、2014年
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内容
冬休みって年末年始があるためあっという間に終わってしまうのですが、それでも日頃忙しく仕事をしている人にとっては、少し時間ができるからこれまで読めなかった本に挑戦してみよう、という気になるかもしれません。そんな時に、開いてみると面白い少しクールな数冊をご紹介します。
さて、まずはソーシャルワーク実践にも生かせる理論書です。今、ソーシャルワーク理論の主流は「バイオサイコソーシャルモデル」です。国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)のソーシャルワークの定義(※2014年7月に改訂されました)にはその考えが含まれており、我々が日常的に学生に教えているものでもあります。
もともとは精神科医のジョージ・エンゲルが「生物心理社会モデル」(BPSモデル)として提唱したものです。「あれ?以前はそんなシャレた名前のモデルなんてあった???」という疑問符が聞こえてきそうですね。そう、以前はそのような名前では呼んでいませんでした、たぶんこの業界では。でも、極めて当たり前に、普通に使っていた考え方ではないでしょうか。なぜなら「病気や障害を持つ人、あるいは健康な人を、生物学的視点、心理学的視点、社会的視点と分割してみるのではなく、その相互性を考えながら統合的に理解して介入するということ」(p.5)だからです。そういえば、「生活の全体性を大事にしよう」とか「多角的に状況や人を見よう」と習った覚えがありました、数十年前に。そしてこの考え方は、システム理論とも関連が深いようです。
この本は、理論編、技法編、応用編の三部構成になっています。理論編は少々難解な部分があるものの、技法編、応用編になるにつれ臨床実践を行っている人にとっては理解しやすくなるのではないかと思います。とりわけ、興味深かったのは技法編で展開している「メディカル・ファミリーセラピー」でした。人間の問題の全てを身体心理社会システムの問題として捉え、心理社会的次元に長けた家族療法家と、生物学的次元に長けた医師や看護師との「コラボレーション」が求められるこのセラピーには、ソーシャルワーカーも参入の余地があるのではないかと思いました。
たまには理論の勉強をしたい、と思っている方にお勧めします。
目次
はじめに(渡辺俊之) 第I部 理論編 第1章 二元論からBPSモデルへ(渡辺俊之) 第2章 エンゲルが本当に書き残したこと:BPS批判に応える(小森康永) 第3章 BPSと時間精神医学(小森康永) 第4章 21世紀のBPSモデル(渡辺俊之) 間奏 第II部 技法編 第5章 メディカル・ファミリーセラピー(渡辺俊之) 第6章 メディカルナラティヴプラクティス(小森康永) 第7章 BPSSインタビュー(渡辺俊之) 第III部 応用編 第8章 高齢者(渡辺俊之) 第9章 プライマリケア(渡辺俊之) 第10章 緩和ケア(小森康永) 第11章 スピリチュアルペイン(小森康永) 補遺 私のエンゲル K/W おわりに(小森康永)
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ジェームズ・O・プロチャスカ/ジョン・C・ノークロス著『心理療法の諸システム 第6版』、金子書房、2010年
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内容
本は頻繁にアマゾンで買うのですが、この本を買う時にはさすがに購入ボタンをクリックする時にひるみました。なぜなら、値段が28,000円+税金で、1冊で30,000円を超えていたからです。洋服を買ったり、数冊の本の累積が30,000円を超える時は平気なのですが、さすがに一度ためらったうえでクリックしました。
この本は「諸システム」とあるように、心理療法で用いられる様々な理論が紹介されている、いわば事典です。そして698ページという大作なので、重くて持ち歩くのは難しいでしょう。
ここでの心理療法の定義は「説明と同意を受けた参加者の行動と認知、その他の個人的特性について、彼らが望む方向への変容を手助けすることを目的として、確立された心理学的法則に基づいた臨床的技法と対人的態度を意図的に応用すること」(p.6)です。この心理療法は、最近では400以上生まれ、さらに増加しているそうです。この本では、そのなかからアメリカのメンタルヘルス専門家が理論基盤としているシステムのうち、16の代表的な心理療法が取り上げてあります。例えば、ソーシャルワーカーが比較的多く活用している「折衷/統合療法」「精神力動的療法」「システム療法」「精神分析」(p.5)も含まれています。
とりわけ興味深いのは、同一事例を用いて16の療法でアプローチした場合、どのような結果になるのかについて紹介してあることです。たぶん短い冬休みでこの本を読破するのは無理だとは思いますが、ガッチリ理論の勉強をしたいと思っている人にはお勧めの1冊です。
目次
第1章 心理療法の定義と比較――統合の枠組み
第2章 精神分析的療法
第3章 精神力動的治療
第4章 実存療法
第5章 パーソンセンタード療法
第6章 ゲシュタルト療法と体験療法
第7章 対人関係療法
第8章 暴露療法群
第9章 行動療法
第10章 認知療法
第11章 システム療法
第12章 ジェンダーセンシティヴ療法
第13章 多文化間療法
第14章 構成主義的療法――ソリューションフォーカスド療法とナラティブ療法
第15章 統合療法と折衷療法
第16章 比較による結論――多理論統合療法に向けて
第17章 心理療法の将来
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佐藤勝彦著『眠れなくなる宇宙のはなし』(2008年)、『ますます眠れなくなる宇宙のはなし』(2011)、『気が遠くなる宇宙の未来のはなし』(2013)、宝島社
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内容
さて、次は一般書のご紹介です。理系の話題が苦手な文系の人にもお勧めの本3冊です。今回のタイトルを「2014年12月・2015年1月の数冊」にしたのは、この含みがあったからなのです。
コテコテの文系の私にとって、理系の話題で唯一(?)親近感を持っているのが宇宙の話です。小さいころから『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』、新井素子さんの『星へ行く船』シリーズ、その他SFで育った私にとって、宇宙ものはやはりワクワクします。そしてこの佐藤先生の本はとってもわかりやすく、読みやすいのです。確かに眠れなくなる&気が遠くなるような話の連続ですが、「他の動物と違って、想像力を備えた人間に生まれてきてよかったなぁ〜」と、人間である喜びを噛みしめることができます。
特に印象に残っているのは、地球の生命の起源は宇宙から飛んできた小天体のなかにある「生命の種」かもしれない、地球外知的生命は必ずしも友好とは限らない、私達の宇宙(膜宇宙)の外には高次元時空が広がっている可能性がある等々です。私の説明力ではとうてい表現しつくせないのですが、とにかく読んでみてください。面白いです!
日常生活から、思いっきり知的トリップしたい人にお勧めです。ただし、お休みが終わり日常生活に戻るのにいささかのギャップを感じても責任はとれません。。。
目次
『眠れなくなる宇宙のはなし』
はじめに
第一夜 ひとはなぜ宇宙を想うのか
宇宙の存在に気づく夜
われら何処より来たるや、われら何者なるや
「天からの文」を読み解く学問 ・・・ほか
第二夜 神の手による宇宙の創造
交通事故を起こしやすい星座
地域の特色が反映された古代の宇宙観
古代の人が思い描いた天と地の形 ・・・ほか
第三夜 合理的な宇宙観の誕生
ギリシャ人とトロイ伝説
ギリシャ神話における宇宙観
民主主義への移行がもたらした神話への疑問 ・・・ほか
第四夜 天動説から地動説への大転換
神に代わって宇宙の玉座に就いた「合理性」
キリスト教の誕生と発展
「無からの宇宙創造」を唱えたアウグスティヌス ・・・ほか
第五夜 広大な銀河宇宙の世界へ
見えないものを見たくて望遠鏡を覗き込む夜
ハレー彗星の再接近を見事に予言
未知の惑星の存在まで言い当てる人類の英知 ・・・ほか
第六夜 ビックバン宇宙論の登場
大きさや形を変えるダイナミックな宇宙
科学者たちを悩ませた光の速度の謎
光時計を使った思考実験 ・・・ほか
第七夜 新たな謎と革命的宇宙モデル
宇宙誕生の謎を解く「究極の理論」
宇宙の始まりは物理学が破綻する「特異点」
宇宙背景放射が同じ強さになる謎 ・・・ほか
『ますます眠れなくなる宇宙のはなし』
はじめに
第一夜 みんな、どこにいるのだろう
人類の「幼年期」の終わり
宇宙生命の存在を夢見た古代の人びと
宇宙人存在説の「ルネサンス」
宇宙人熱狂時代の到来と終焉
「みんな、どこにいるのだろう」とつぶやいた物理学者
…ほか
第二夜 火星に生命は棲んでいるのか
日本と火星に憧れたアメリカ人青年の夢
火星運河論争と火星ブームの勃発
探査機の撮影で明らかになった火星の素顔
期待から失望に変わったバイキング計画
火星からの隕石に生命の痕跡を「発見」
…ほか
第三夜 地球の生命はどこからやって来たか
地球の生命をつくったのは宇宙から来た「生命の種」?
超新星爆発がきっかけとなって生まれた太陽系
継続的なハビタブルゾーンに生まれた地球
ジャイアント・インパクトで誕生した月
地球に広大な海をもたらした後期重爆撃期
…ほか
第四夜 第二の地球はいくつあるのか
続々と見つかる太陽系外の惑星たち
幻となったバーナード星の惑星
系外惑星探しの第一人者も揚げた白旗
ついに発見された系外惑星の思いもよらぬ姿
異形の惑星その一・青く輝く灼熱の巨大ガス惑星
…ほか
第五夜 私たちは宇宙人と出会えるのか
なぜ誰もメッセージを送ってくれないのか
宇宙人探しの先駆者たち
地球外知的生命探査の復権
史上初のSETI・オズマ計画
これまでに実施されてきたSETI
…ほか
『気が遠くなる未来の宇宙のはなし』
第1夜 宇宙に終わりはあるのか
第2夜 地球と太陽の近未来
第3夜 地球と太陽の遠い未来
第4夜 天の川銀河と宇宙のはるかな未来
第5夜 縮んで1点に潰れてしまう宇宙の未来
第6夜 子ども宇宙・孫宇宙が生まれる未来
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リチャード・バック著『かもめのジョナサン 完成版』、新潮社、2014年
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内容
そして最後は、1970年代に世界中で大ベストセラーになった『かもめのジョナサン』です。今から20年以上前に初めてこの本を読んだ時には、特に強く印象に残る本ではありませんでした。が、今回、再び五木寛之氏創訳の「完成版」が出版されたため、再びこの本を手にしてみたところ、いくらか考えさせられる点がありました。たぶんそれは、それまでになかった「Part
Four」という最終章が付加されたことと、私自身が様々な体験を経て今に至っていることによるのでしょう。
飛ぶことの歓びを追求し、仲間から追放された一羽のかもめジョナサンの生涯と、天に召した後の話が書かれたものなのですが、この作品の主題は一体何なのだろうと思いながら読みました。宗教なのか、イデオロギーなのか、時代なのか、はたまた別の何かなのか…。たぶん、読む人のその時の心境や置かれている状況に応じて、捉えるものが異なるのではないかと思います。
今回の私は、ジョナサンの修行僧のような飛行の鍛練に、ほんの少しだけ以前よりは感情移入できるような気がしました。
冬休みに、思索にふけりたい人にお勧めの1冊です。
目次
完成版への序文
Part One
Part Two
Part Three
Part Four
ゾーンからのメッセージ
1974年版あとがき
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