2015年4月・5月の3冊+アルファ 本文へジャンプ
今回は管理業務に役立つ3冊+アルファをご紹介します。


A.R.ホックシールド著、石川准・室伏亜季訳『管理される心〜感情が商品になるとき、世界思想社、2000年


内容

 この4月から学科長になりました。20余人の教員の取りまとめ役です。いわゆる「出世欲」が弱い私にとっては嬉しい役割ではないのですが、年齢的・立場的な面から管理業務を行わなくてはならないのが実情ですし、やるとなったら手を抜けないのが私の性分です。
 そこで今回は、管理業務を行ううえで理解しておくと良いと思った本を紹介したいと思います。私自身のため&今後組織論について研修を行う予定があるため、勉強をしたことの一端です。今回ご紹介するのは、心・人事・組織を知りそれをマネジメントするのに役立つ本です。さらに、私が年度初めの挨拶で活用した羽生結弦選手の名言集も、あわせてご紹介します(実はこっちがメインだったりする!?)。

 まず最初は、人の心の理解とマネジメントに関連するこの本です。以前から感情労働に関心があったため、次の研究テーマのための勉強の一環としていくらかの感情労働の本を読みました。この本は、このテーマに関する「原著」である必読文献です。
 そもそも感情労働とは何かについては、「公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行う感情の管理」(p.7)と定義されています。感情は私的利用だけでなく商業的利用がなされ、後者の場合には感情が管理されます。この本のなかでは、キャビンアテンダントの感情労働を取材して書いていますが、対人援助職(教師、ケアワーカー、ソーシャルワーカー等)も感情労働を行っています。筆者はアメリカで働く人の三分の一以上が感情労働への従事者であると推定しています(p.176)。
 いささかギョッとしたのは、ジェンダーと感情労働の部分で次の記述を見つけた時です。「ウィクラー(Wikler 1976)の研究では、学生たちは女性教授に対して、男性教授よりも、思いやり深く理解があるだろうと期待している。そしてこの期待との落差の分だけ、多くの女性教授たちは冷淡であると認知された」(p.193)。う〜ん、女性教授であり管理職である私には、どれほどの感情労働が期待されているのでしょうか。。。素のままでやるという手もありますが、多少なりとも感情労働、なかでも「表層演技」(自分の外見を変えようとする方法)は必要なのでしょうね。
 この本を読む前に、武井麻子氏の『ひと相手の仕事はなぜ疲れるか〜感情労働の時代』(大和書房、2006年)を読むことで、よりスムーズに理解できることでしょう。なお各論については、看護師は武井麻子『感情と看護』(医学書院、2001年)、ケアワーカーは吉田輝美『感情労働としての介護労働』(旬報社、2014年)、保育士は諏訪きぬ監修『保育における感情労働』(北大路書房、2011年)が詳しいです。



目次


第1部 私的生活(管理される心の探究
手がかりとしての感情
感情を管理する ほか)

第2部 公的生活(感情管理―私的な利用から商業的利用へ
両極の間で―職業と感情労働
ジェンダー、地位、感情 ほか)

付録(感情モデル―ダーウィンからゴフマンまで
感情の命名法
仕事と感情労働 ほか)




曽山哲人・金井壽宏著『クリエイティブ人事〜個人を伸ばす、チームを活かす』
光文社新書、2014年


内容

 次は人事です。この本の舞台であるベンチャー企業で求められる人事と、自律した教員で構成される大学組織で求められる人事は質的に違うため、大学組織では書いてある内容の多くは活用できないと思います。が、新しい事業を行おうとしている福祉機関には、少なからず参考になる部分があるのではないでしょうか。
 曽山氏は今をときめく株式会社サイバーエージェントの人事部長であり、社員のやる気を引き出し事業を成功させるための多数の方法を実行してきています。主な人事制度として15も制度があることが驚きでした。例えば「ジギョつく(事業をつくろうの略)」:内定者を含む全社員が応募できる新規事業プランコンテスト。グランプリ受賞者は賞金100万円を受け取り、希望すれば子会社社長としてプランを事業化できる(p.32)。例えば「キャリチャレ(キャリアチャレンジ制度の略)」:社内異動公募制度。現在の所属部署で一年間以上働いている人は誰でも、上司に断ることなく、希望する部署への異動を願い出ることができる(p.33)。例えば「マカロン(macalon)パッケージ」:「ママがCA(評者注:サイバーエージェント)で長く働くための諸制度。妊活休暇(月1日)、妊活コンシェル(専門医などのカウンセリング)、子どもが発病したときなどに在宅勤務を認めるキッズ在宅勤務、子どもの学校行事や誕生日などの日に休めるキッズデイ休暇など(p.35)。どれもワクワクするような制度です。
 でもこの本の面白さは制度の数々というよりも、人事部長になったばかりのやや空回り気味だった曽山氏が、社員の信頼を得るためにどのように自己変革して実践していったかの内実が書かれていることにあります。いくら制度やシステムが豊富でも、それを血の通ったものにするのかどうかは、結局「人」にかかっているということなのでしょう。そんな曽山氏の哲学については、『最強のNo.2』(株式会社文字工房燦光、2013年)で詳細に展開されています。


目次


はじめに
【序章】人事は何のために存在しているのか
【第一章】ベンチャーに「人事本部」が生まれるとき
【第二章】コミュニケーション・エンジン―― 矛盾の中に解を見出す
【第三章】個人と組織が成長する仕組み
【第四章】進化する人事
【第五章】人事クリエイターの旅
あとがき




松尾睦著『学習する病院組織〜患者志向の構造化とリーダーシップ』、同文舘出版、2009年


内容

 3冊目は、組織を対象としたマネジメントについての本です。組織論の研修とは、医療ソーシャルワーカー対象のため、病院組織の理解を深めるために読みました。組織論の本は面白いので、これまでも何冊か読んだことがあります。医療ソーシャルワーカー(に限らずソーシャルワーカー全般)にとって、メゾレベルの組織を対象にしたアプローチは大事である反面、体系的に学ぶ機会はそれほど多くないのではないでしょうか。
 この本は、患者志向の理念を持ちそれを実現する組織体制を構築した3病院(淀川キリスト教病院、聖隷浜松病院、医療生協さいたま)の事例検討を行い、「『患者志向の理念が、組織体制を伴った患者志向へと構築されていくプロセス』を理論化することを目的」としています(p.i)。どの病院にも医療ソーシャルワーカーがいるだけでなく、私の卒業生が就職しているところもあり、親近感をもって読みました。
 特に興味深かったのは、病院内に存在する「公式ルーチン」(構造・制度・システム)と「非公式ルーチン」(行動規範・行動パターン)がどのように形成されていったのか、その際にどのようなリーダーシップ形態が見られたかを解き明かしている点です。曽山氏の本とも共通しますが、目に見える制度・システムだけでなく、見えない「非公式ルーチン」をいかに構築していくのかが、患者志向の組織アプローチを行ううえでの肝であり醍醐味なのだろうと思いました。この本のなかでは、それらを構築するアクターとして医師・看護師・事務長が主に取り上げられていますが、職種横断的な役割を果たす医療ソーシャルワーカーもきっと大事な役割を果たしているのではないかと思います。
 組織アプローチを目指す医療ソーシャルワーカーが読んでも勉強になり、かつ事例検討のお手本になる1冊です。


目次


第1章 本書のアプローチ
第2章 淀川キリスト教病院の事例―カリスマ院長主導の意識改革
第3章 聖隷浜松病院の事例―医師・看護・事務の連携強化
第4章 医療生協さいたまの事例―患者参加型の組織構造改革
第5章 患者志向の構造化と連携型リーダーシップ
補論A 組織学習とリーダーシップ
補論B プロフェッショナル・サービス組織としての病院




楓書店編集部編・児玉光雄監修『羽生結弦 誇り高き日本人の心を育てる言葉』、
楓書店、2014年


内容

  さて、それでは本題(!?)に入ります。少々長くなると思いますが、どうかお付き合いください。
  先日、私は潜在的なスケートファンだったんだと気がつきました。思い起こせば、1980年のレークプラシッドオリンピックで渡部絵美選手が6位入賞を果たした時に心踊り、スケートのポーズをとるようになり、1984年のサラエボオリンピックでの伝説のボレロに心ふるえ、1989年の世界選手権で伊藤みどり選手の活躍に歓び、1998年の長野オリンピックではボナリー選手のバックフリップに驚きました。2006年のトリノオリンピックでの荒川静香選手の優雅な演技や、2014年のソチオリンピックでの浅田真央選手の6種8トリプルジャンプ着氷に涙したことは、言うまでもありません。こうして、私が少女の頃から唯一見続けているスポーツ競技がフィギュアスケートだったということに、今更ながら気がついたのです。

 
つい数年前まではフィギュアスケートの花形は女子だと確信していたのですが、この数年は形勢が逆転しもっぱら私の焦点は男子に移ってきました。その嚆矢は、高橋大輔選手の芸術性の高い演技にくぎ付けになったことからです。どんなジャンルの音楽も自分のものにしてワールドを作ってしまうこと、不死鳥のように怪我から復活したこと、長年にわたり日本男子フィギュアを支えてきたこと、高橋選手の貢献にはひたすら感謝です。
  そして、高橋選手の引退と入れ替わるように、日本のエースになったのが羽生結弦選手です。まだ日本にいた頃の彼は、その高い技術を常に全力で出しきるスタイルで、後半にはややスタミナが落ちるという印象がありました。でも、最初に彼の演技を見たときには天才的なきらめきがあり、一目で吸い込まれました。これは、1993年に『ギルバート・グレイプ』でレオナルド・ディカプリオが知的障害をもつ少年役を行ったときに感じて以来の感覚です。その後、カナダのクリケット・クラブに所属してからはスケーティング技術に磨きをかけ、無駄なスタミナを費やさずにベースを整えながら、ジャンプやスピンの腕を上げていきました。そして今や、押しも押されぬ大スターといえる存在になりました。
  この羽生選手の魅力といえば、高いスケート技術、端正な容姿、人を魅了する演技力、負けず嫌いなファイティングスピリッツ等々ありますが、私は人として品格がある(チャンピオンにふさわしい品格を身につけようとしている)ところにもあると思っています。この本は、そんな羽生選手の名言を集めたもので、どの言葉も体験に基づいた地に足がついたものであることに感心しました。そして、私の学科長就任後に初となる、1年生から4年生までのガイダンスでの初めの挨拶で引用させてもらいました。それぞれの学年で引用したのは次の言葉です。

1年生:「王者になる。まずそう口に出して、自分の言葉に追いつけばいい」(競技に臨むときの心構えについて、p.40)
 「良い選手になるため、そして人間的にも成長できるよう、文武両道でいろいろな世界を見たい。」
 (15歳、ジュニアの世界選手権を制したときの言葉、p.110)
2年生:「いつも心を開いているんです。見たもの感じたもの、すべてを吸収する。だから逆に自分の心も正直に出す。
 心を開いていなきゃ、何も吸収できないし、面白くないでしょ。」(羽生選手が18歳のときに語った言葉、p.74)
3年生:「自信があるないは重要ではない。自信なんて言っていると、試合前に急に不安になったときに何もできなくな
 る。ただ、常に全力を出すと考えれば良いんです。」(ソチオリンピックの団体ショートプログラムで完璧な演技を披露し
 た後で、p.118)
 「自分がやりたいことを一生懸命やる、そこには絶対応援してくれる方がたくさんいるし、サポートしてくれる方もいる。
 だから自分たちは何かを成し遂げられるんだと思います。」(ファンに対しての思い、p.152)
4年生:「難しいジャンプだから失敗してもしょうがないじゃなくて、難しいジャンプだからこそ綺麗に決めたい。」
 (ソチオリンピックのショートプログラムを終えた時点でのコメント、p.100)

 「自分がやりたいことを一生懸命やる、そこには絶対応援してくれる方がたくさんいるし、サポートしてくれる方もいる。
 だから自分たちは何かを成し遂げられるんだと思います。」(ファンに対しての思い、p.152)


 そんなかんじで、私の新年度は羽生選手の言葉とともに始まりました。そしてもはや潜在的スケートファンから顕在的スケートファンへと移行しつつあります。なんたって、今年はアイスショーに2回も行く予定ですから〜♪。たぶん、このままファンとしての調子を上げていくと、数年後には海外観戦に行っているかもしれません。
 そのためには、しっかり働きお金を貯めて、しっかり研究して論文を書き、心おきなく旅立てるようにしなければなりませんね。先々の楽しみのためにもうひと頑張りしましょう!!



目次


1 誇り高き心を育てる
2 プロフェッショナルの流儀
3 強く美しい生き方
4 人は誰でも成長できる
5 飛躍のきっかけ
6 一人では生きられない
7 勇気と希望




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