2011年7月・8月の3冊 本文へジャンプ
今回は、ソーシャルワーカーと組織との関係を考える3冊です。


田尾雅夫著『ヒューマン・サービスの組織−医療・保健・福祉における経営管理−』、法律文化社、1995年


内容

 私は今、「医療ソーシャルワーカーが新人からベテランになる過程で、何からどのような影響を受けて、どのように実践能力を変容させていくか」という研究を行っています。そこでは、患者・家族というミクロレベル、医療機関というメゾレベル、医療政策というマクロレベルから影響を受けていることがわかりました。
 今回はそのなかでも、重要であるにもかかわらず、比較的学習機会が少ない組織の理解に役立つ(私が役立った)3冊をご紹介します。

 田尾先生は、日本における組織研究の大家です。私もこれまで、何冊かの先生の御本を読ませていただき、日本医療社会福祉協会のテキスト執筆の際に、組織論の部分について依頼させていただいた経験があります。
 この本は、「医療や保健、福祉など、ヒトがヒトに対して、いわば対人的にサービスを提供する組織」である「ヒューマン・サービス組織」(p.9)の経営管理に焦点が当てられています。
 この本で特に興味深い点は、医療機関と福祉施設の違いについて書かれてある部分です。「病院という組織には、多くのプロフェッショナルな職業集団が並立している」「つまり、病院とは、非常に多くの職種が複合的に合わさってできた組織であり、これらの関係に機能的な連携が成り立つことが、組織の成果の是非や可否を決定する最大の要因でもある。」(pp.17-18)。「福祉施設の組織が病院と相違するのは、規模の小さい組織がほとんどであること、たとえば、老人ホームなどについても、事務職員を含めて10人にも満たないところがある。このようなところでは、集団内部での機能的分化はそれほど必要ではない」(p.114)そして、病院などに比べた場合の福祉施設全般の特徴は次の3点が挙げられています。@職場の規模が概して小さい。Aそのために、役割関係が互いに曖昧になり、自分がどこまですればよいのかが分からなくなる。B職場の人事交流が少なく、閉じられた職場空間をつくりだしがちである(p.114)。
 この本が書かれたのが1995年と介護保険導入前であり、その後の時代の流れのなかで上記の特徴は変わってきている部分はあると思います。とはいえ、医療機関と施設での勤務経験がある私は、この部分を読んで「ごもっとも!」と頷きました。
 自分が所属する組織はどのような特徴をもつのか、そして、その組織から自分はどのような影響を受けているのかを把握することは、スムーズな業務遂行にとって欠かせない課題だと思います。その一助になる本ではないでしょうか。


目次

はじめに

第1章 問題の所在
 1 高齢社会、そして、超高齢化社会の到来
 2 組織科学の貢献
 3 医療と保健、福祉のための組織論―その必要性
 本書の構成

第2章 ヒューマン・サービスの組織
 1 ヒューマン・サービス組織とは何か
 2 ヒューマン・サービス組織の特異性
 3 ヒューマン・サービス組織の経営管理
 4 新しい管理機制の構築のために

第3章 ヒューマン・サービスの環境
 1 環境への依存
 2 社会の組織化、組織の社会化
 3 環境依存のポリティックス
 4 環境へのシステム適合

第4章 ヒューマン・サービスの技術
 1 組織における管理システムと技術
 2 ヒューマン・サービス技術の特異性
 3 ヒューマン・サービス技術の区分
 4 技術の選択

第5章 プロフェッショナリズム
 1 プロフェッションと組織
 2 階層としてのプロフェッション
 3 プロフェッショナリズムの態度構造―比較分析の試み
 4 プロフェッション管理

第6章 職場の人間関係
 1 職場集団のダイナミズム
 2 医師との関係
 3 職場集団の人間関係
 4 人間関係の改善は可能か

第7章 クライエント関係(1) クライエント支配の構造
 1 支配と応諾
 2 ストリート・レベルの官僚制
 3 クライエント支配の構造
 4 管理の方策と再組織化

第8章 クライエント関係(2) 共働関係の形成と維持
 1 相互作用の視点
 2 クライエント関係の成り立ち―葛藤分析の視点
 3 クライエント関係における自己開示の効用
 4 信頼関係の構築

第9章 クライエント関係(3) バーンアウトとストレス対処
 1 バーンアウトとは何か
 2 バーンアウトにおける因果関係
 3 看護婦の場合
 4 バーンアウト対処としてのコーピング

第10章 ボランティア活動
 1 ヒューマン・サービスとボランティア活動
 2 ボランティア活動の条件
 3 ボランテイズムの心性
 4 ボランティア活動の支持要因の分析

要約

引用文献



鈴木竜太著『組織と個人―キャリアの発達と組織コミットメントの変化―』、白桃書房、2002年


内容

 以前はキャリア論の本が大好きで、「キャリア」という言葉がタイトルに入っている本は片っ端から買っていました。そのなかでも、個人が組織にどのように関与していくのかという「組織コミットメント」に焦点を当てたこの本は、興味深く読んだ記憶があります。
 なかでも印象的な点は、新人期のリアリティ・ショックについて書かれた部分でした。リアリティ・ショックとは「入社前の期待と入社後に経験する現実の間のギャップによって生じる組織への幻滅感」(p.133)とされています。このリアリティ・ショックは2つに分類され、一つ目は組織イメージと現実のギャップによるもの、二つ目は仕事内容へのショックです(pp.134-136)。そのため、新人への支援は、2つの側面から考える必要があります。
 また、組織のなかの立場の変化によって、扱う情報の質量が変わり自分の価値観も変わる、という点も印象的でした。「組織における立場が変わることによって、情報の質や量が変わってくる。また、情報を伝える関係も変化する。自分に入ってくる情報が、自分の知らなかった組織の情報であることや、組織の側に立った情報であることを通して、自分の価値観が修正され、組織の価値観に近づく。また、それらの情報を自分より外側の人に伝える立場は、自分の価値観を組織の価値観へ修正させる必要が出てくる。このようなプロセスを経て、扱う情報の変化は組織コミットメントを変化させるのである」(p.170)。
 この部分は、中堅からベテランにかけてのソーシャルワーカーの参考になると思いました。


目次


第1章 本書の目的と立場

第1部 先行研究の検討
第2章 見過ごされてきた課題―組織コミットメント研究における組織コミットメントの変化に関する研究の位置づけ
第3章 日本的なものと普遍的なもの―日本における組織コミットメント論の展開

第2部 キャリアにおける組織コミットメントの変化に関する実証研究
第4章 調査の概要
第5章 組織コミットメントとキャリア変数―定量的調査による組織コミットメントとキャリア変数の関係
第6章 7年目の転機
第7章 キャリア上の転機による組織コミットメントの変化
第8章 変わるコミットメントと変わらぬコミットメント―組織の節目と組織コミットメントの関係)
終章 結論




金井壽宏・高橋潔著『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト―』、東洋経済新報社、2004年


内容
 

 「キャリア論」が好きな私は、くまなく金井先生の御本も読ませていただいています。そのなかで、この本は「組織のなかで起こるさまざまな人間の行動を科学的に理解しようとする学問分野」(p.2)である、「組織行動」が主題です。
 この本のなかでビビッときたのは「第5章 成果を意識した組織行動を目指して」です。活動のプロセスと結果の両方を指す言葉に「パフォーマンス」がありますが、「個人レベルのパフォーマンスは結果の側よりも振る舞い(仕事の遂行行為そのもの)の側に力点が置かれて定義されている」一方で、「チーム・レベルや組織全体レベルになると、プロセスよりも成果に近い意味として、パフォーマンスが語られる」(pp.108-109)と述べられています。なぜなら、「集団レベルでは、常にメンバー間の相互作用を伴っているので、個人のように振る舞いと結果を分けて定義することが難しいから」(p.109)です。
 それでは、1人か2人しかいない医療ソーシャルワーカーがパフォーマンスをした場合、それは個人としての評価になるのでしょうか、それとも集団レベルの評価になるのでしょうか。おそらく、医療福祉相談室レベルでの評価になるため、プロセスより結果が重視されることでしょう。そして、そんな結果(成果)を組織内外に示してくことは、とても大切です。なぜなら、周囲からは「『何ができるか』ではなくて、『何をもたらしているか』が重要」(p.111)なのですから。

 組織論を学んで、周囲に「何かをもたらす」パフォーマンスを展開しましょう!!
 

目次


第1部 組織行動という分野への招待
第1章 経営学と組織行動の間柄―なぜ組織行動を学ばなければならないのか

第2部 組織の中の個人
第2章 コンピテンシーとは何なのか―コンピテンシーの学習プロセスこそが力になる
第3章 モティベーション論のミッシング・リンク―仕事に打ち込む「元気の素」を探る
第4章 「キャリア・デザイン」のデザイン

第3部 成果と評価の問題
第5章 成果を意識した組織行動を目指して―何のため、誰のための成果か
第6章 人事評価をめぐる根本問題―評価は涙か、溜め息か
第7章 360度全方角からのフィードバック

第4部 個を活かし組織の力を高める
第8章 変革の時代におけるリーダーシップの求心力―課題vs.対人関係の微妙な絡み合いでフォロワーはついてくる
第9章 職務満足と組織コミットメントから見る職場の幸福論―賢き者は幸いであるか、会社を愛する者は救われるか 
第10章 現実を変えることから生まれる知識創造のパワー―組織行動の研究と実践の明日を目指して



2011年5月・6月の3冊へ

2011年9月・10月の3冊へ