今回は、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを活用した3冊の本を紹介します。 |
三毛美予子著『生活再生にむけての支援と支援インフラ開発―グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づく退院援助モデル化の試み―』、相川書房、2003年
|
内容
3月31日から研修休暇に入り、毎日論文を書き続けてきて、ようやく一通りのまとめを終えることができました。
その過程で良質の先行研究に出合い、参考にさせてさせてもらったため、今回はそのなかから3冊を紹介したいと思います。全て博士論文に基づいて執筆された本です。
この研究は、大学病院のソーシャルワーカーの退院援助に関する仮説的な実践モデルを提示することを目的に行われています。熟練した大学病院のワーカーの経験や考えていることをもとに、質的調査法を用いて帰納的に退院援助モデルの生成を試みています。
この本を最初に手にした時には、私自身に修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチの知識が全く無く、一体何を書いているのかがさっぱりわかりませんでした。でもそのなかにあり、「こんな方法が存在するのだ」という衝撃を受けたことは確かです。
方法論の知識を得た今、読み返してみると、実に情報量が多くよくまとまっていると感じます。私の研究と同じく、熟練した医療ソーシャルワーカーを対象にしているため、内容も馴染みやすかったです。
論文構成と、研究論文のまとめ方の参考にさせていただきました。ちなみに、ソーシャルワーク学会での学会賞も受賞されています。
目次
序章
第1章 大学病院のソーシャルワーカーによる退院援助
T.医療ソーシャルワークにおける退院援助の位置づけと今日の課題
U.退院援助の内容と方法に関する先行研究とその問題点
V.大学病院のソーシャルワーカーによる退院援助の実践モデル構築のための視座
第2章 調査設計
T.採用する調査方法とその採用理由
U.調査協力者としての熟練ソーシャルワーカー
V.調査上の問いかけ
W.収集したデータの種類
X.データ収集と分析のプロセス
Y.調査協力者に対する調査者のスタンス
Z.研究結果の質担保の方法
第3章 生活再生にむけての支援と支援インフラ開発としての退院援助
T.ソーシャルワーカーのコンテクスト
U.生活再生にむけての支援
V.支援インフラ開発
第4章 結論-ソーシャルワークへの示唆
T.ソーシャルワーク実践理論に関して
U.医療ソーシャルワーカーに対して
V.社会福祉の制度に関して
W.今後の調査課題
|
|
山井理恵著『利用力/提供力を促進するケアマネジメント―支援困難なクライエントに対する実践活動の質的研究―』、相川書房、2010年
|
内容
この研究では、介護保険下の在宅介護支援センターのケアマネジャーが、支援困難なクライエントに社会資源を結びつけるために、いかなりケアマネジメントを展開しているのかを、ジェネラリスト・ソーシャルワークの枠組みから明らかにすることで、業務の全体像を描き出したものです。ソーシャルワークを、クライエントの利用力と供給主体の提供力を促進する過程ととらえ、ソーシャルワーク過程で展開される実践活動を明らかにすることが目的です。
私にとって、ケアマネジメントは専門外なのですが、まとめ方がとても完結で、とにかくわかりやすいのです。そのため、この本を手にとってすぐに購入しました。
何がわかりやすいかというと、適度に具体例が挿入されており、具体的なイメージが持てるようになっています。また、論文の構成も起承転結のメリハリがあり、研究論文執筆のテキストのような1冊だと思いました。
具体例を交えた執筆方法について、参考にさせていただきました。
目次
序章 問題の所在と研究の目的 第1節 問題の所在と研究の目的
―利用力/提供力の促進― 第2節 支援困難なクライエントを研究対象とすることの意義
第3節 本研究の対象としての介護保険下のケアマネジメント
第1章 支援困難なクライエントに対する先行研究の検討と問題点 ―ジェネラリスト・ソーシャルワークの枠組みから― 第1節 ジェネラリスト・ソーシャルワークと利用力、提供力 第2節 先行研究の概観 第3節 先行研究に対する検討
第4節 本研究におけるリサーチクエスチョン
第2章 調査設計 第1節 調査対象の選定 第2節 調査方法の選定 第3節 本研究における調査デザイン 第4節 本研究における分析手順と分析例の提示 第5節 分析過程の質を確保するための方法
第6節 結果の記載方法
第3章 クライエントの利用力を促進する実践活動 第1節 結果の概要 第2節 ケアマネジャーから見たクライエントの状態 第3節 クライエントが在宅介護支援センターにつながるルート 第4節 〈クライエントの認識化〉を促すケアマネジャーの実践活動
第5節 〈クライエントの認識化〉についての総合的な考察
第4章 供給主体の提供力のアセスメント 第1節 結果の概要 第2節 ケアマネジャーから見た供給主体の状態 第3節 〈供給主体の確保〉を促すケアマネジャーの実践活動
第4節 〈供給主体の確保〉についての総合的な考察
第5章 供給主体の提供力を促進する介入 第1節 結果の概要 第2節 ケアマネジャーから見た供給主体の状態 第3節 供給主体の選択や利用に対するクライエントの意思 第4節 〈供給主体の最適化〉を促すケアマネジャーの実践活動
第5節 〈供給主体の最適化〉についての総合的な考察
終章 結 論 第1節 利用力/提供力を促進するケアマネジメントの全体像 第2節 本研究のオリジナリティと貢献 第3節 ソーシャルワーカー養成・実践への示唆 第4節 内容面の検討
―GTAの評価基準を手がかりに― 第5節 本研究の限界と残された研究課題
|
|
三輪久美子著『小児がんで子どもを亡くした親の悲嘆とケア―絆の再構築プロセスとソーシャルワーク―』、生活書院、2010年
|
内容
この研究は、小児がんで子どもを亡くした母親および父親の悲嘆プロセスを当事者の視点から明らかにした上で、親の立場に立った、より実践的で具体的な援助を導き出すことを試みています。また、ソーシャルワークの視点からの援助の検討も行っています。
この本は、ソーシャルワーク学会誌の書評を書くために、熟読しました。小児がんで子ども亡くした親は、こんな辛い思いをするのかという悲嘆のプロセスが詳細に描かれています。
そして、この本では様々な図が描かれているのですが、全てがわかりやすく、その章の内容にフィットしています。結果図の描き方はとても参考になりました。
また、ストーリーラインのみならず、母親と父親の違いを概念の比較によって明らかにする点は興味深かったです。
全体を通して、学ばされることの多い1冊でした。
目次
第1章 小児がんで子どもを亡くした親の経験 第1節 問題の所在 (1)親にとっての子どもの死 (2)子どもを亡くした親をとりまく社会的状況 (3)悲嘆研究への期待 第2節 主観的経験をとらえる (1)当事者の視点から (2)母親と父親の両方の視点から 第3節 子どもを小児がんで亡くすということ
第2章 悲嘆に関する先行研究 第1節 キー概念の定義 (1)悲嘆 (2)悲嘆プロセス 第2節 悲嘆プロセスに関する研究 (1)海外における研究 (2)日本における研究 第3節 子どもを亡くした親の悲嘆プロセスに関する研究 (1)海外における研究 (2)日本における研究 (3)残された課題と本書の位置づけ
第3章 質的研究法による調査設計 第1節 質的研究法の視座とその特性 (1)データに密着したグラウンデッド・セオリー・アプローチ (2)修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ 第2節 調査の概要 (1)調査協力機関 (2)調査データの収集 第3節 データの分析 (1)分析の手順 (2)概念生成の例示 (3)信憑性と妥当性確保のための方法
第4章 子どもの闘病と死をめぐる親の主観的経験──子どもとの絆の再構築プロセス 第1節 親の語りを分析する 第2節 プロセスの全体像 (1)ストーリーライン (2)結果図 第3節 カテゴリーと概念によって親の内的変容プロセスを描き出す (1)一体化 (2)混沌 (3)諦念 (4)内在化
第5章 母親と父親の違い 第1節 違いが見られた概念 (1)ともに闘う (2)闘病インフラ整備 (3)精神状態の安定化 (4)医療者との葛藤 (5)悲しみの緘黙 (6)悲しみの表出と共有 (7)現実の直視 (8)現実世界から手放す (9)内なる実在として新たに生かす (10)悲しみの社会化 (11)悲しみの発作 第2節 他者とのかかわり方の違い (1)「特別な他者」を求める母親 (2)自分自身で対処しようとする父親 (3)父親の変化 第3節 子どもとの絆の安定化における違い (1)他者とのつながりの中で安定化していく絆 (2)父親は時間を要する 第4節 夫婦間のすれ違い
第6章 絆の再構築を支える援助 第1節 分岐点と類型化 (1)プロセス上の二つの分岐点 (2)三つの類型 第2節 プロセスに影響を及ぼす要因 (1)第一の分岐点 (2)第二の分岐点 第3節 援助モデルの提示 (1)援助の目標 (2)援助の内容 (3)援助の担い手 (4)担い手間のネットワーク (5)中心的役割を担うソーシャルワーカー 第4節 絆の再構築を支えるソーシャルワークの五つの視点 (1)生態学的アプローチの視点 (2)人間の変化と成長を見据えた視点 (3)パートナーシップの視点 (4)媒介的役割を重視する視点 (5)アウトリーチの視点
第7章 援助実践にむけての展望と課題 第1節 包括的な援助の取り組みにむけて 第2節 当事者が担い手になることへの期待 第3節 援助モデル応用への可能性 第4節 本書の意義
第5節 今後の課題
|
|
|
|
|