2015年6月・7月の3冊+アルファ 本文へジャンプ
今回は日本のソーシャルワークとソーシャルワーカーに関する本をご紹介します。


空閑浩人著『ソーシャルワークにおける「生活場モデル」の構築~日本人の生活・文化に根ざした社会福祉援助~』、ミネルヴァ書房、2014年


内容

 今回は、今日本で求められるソーシャルワークやソーシャルワーカーのあり方についてまとめた、3冊の本をご紹介します。
 社会福祉領域では、格差と貧困、虐待、社会的疎外といった問題が顕在化し、新しい法律ができたり認定社会福祉士のようなアドヴァンスト資格ができたりと、この間めまぐるしい動きがありました。
 そのなかにあり、「日本独特のソーシャルワーク」もしくは「日本の風土に根差した援助実践」ということが、私が学生の30年前からずーっと言われてきたにも関わらず、正直なところ真っ向からは取り組まれてこなかった実態があるのではないでしょうか。もちろん、個々の研究レベルでは少しでも日本の現実に根差した研究をしよう、という気概をもって取り組んできた研究はあると思います。
 そして今回最初にご紹介するのは、その点について真っ向から取り組み、一つのモデルを提唱した空閑先生の御本です。長年の停滞を打ち破った感がある画期的な本でした。以前にも、空閑先生達の研究グループの本を紹介したことはあるのですが、今回は博士論文に基づいた単著です。この本の問題意識の発端は、「ここは日本であり、私が働いているのは日本の社会福祉施設であり、日々の仕事でかかわる利用者の多くは日本人であるのに、なぜアメリカのソーシャルワーク理論ばかりが語られるのか」(p.223)という、先生が25年前に抱いた疑問でした。今に至るその疑問を解消するため、日本人の生活・文化の傾向の分析等を行っています。
 なかでも私は、数年前に空閑先生の学会発表で「世間」に生きる日本人の傾向を聞いてから、先生に会う度に「その時の話が面白かった」と伝えているのですが、それについてまとめている「第4章 『世間』に生きる日本の『個人』へのソーシャルワーク」が印象的でした。この部分のエッセンスは以下のとおりです。「これらの見解をまとめると、日本の『個人』は、societyとしての『社会』のなかではなく、むしろ『間柄』のネットワークとしての『世間』のなかで生きる存在である。またそれは、いわば『人と人との間』と表現される状況や場に内在した行為主体として、他者との関係性や自分が置かれた状況に規定されながら、そのときどきの行動や意思決定を行う人間存在である」(p.101)。
 2014年の国際ソーシャルワーカー連盟の総会で、「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」が採択されました。定義にはソーシャルワークとは何ぞやが書かれてあり、最後に「この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。」という一文が入っています。まさに日本におけるソーシャルワークの展開と、そのような文化的コンピテンスを備えたソーシャルワーカーを育てることが求められおり、その意味でこの本は今後の道行きを照らす光になると思います。



目次


はしがき
序 章 ソーシャルワークの「日本モデル」とは何か
第I部 「社会福祉援助」としてのソーシャルワークの基盤
第1章 人間の「生(ライフ)」への視点と「かかわり」の意味
第2章 ソーシャルワークにおける「ソーシャル」の意味
第3章 「生活」とその「主体」としての個人への視点
第II部 日本人の生活・文化と「生活場モデル」の構想
第4章 「世間」に生きる日本の「個人」へのソーシャルワーク
第5章 「受け身的」な対人関係と日本人の「主体性」への理解
第6章 「場の文化」に基づく「生活場モデル」の構想
第III部 「日本モデル」としての「生活場モデル」の展開
第7章 「生活場モデル」の基礎となる「生活」へのアプローチ
第8章 日本人の「生活場」としての「家族」へのアプローチ
第9章 日本のソーシャルワークとしての「生活場モデル」の展開
終 章 ソーシャルワークの「日本モデル」の発展と成熟
文献一覧
あとがき
索引




木下大生・藤田孝典著『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事、岩波ブックレット、2015年


内容

 次は、今脂がのっている聖学院大学の木下先生とNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田さんが書いたブックレットのご紹介です。実はご本を謹呈していただいたのですが、それより前に買って読んでいました。
 この本のねらいは、「社会にとって大切ではあるけれど、見えにくくその実態がつかまえにくい職業であるソーシャルワーカーがどのような職業であるのか、その像がイメージできるように努めた」(p.4)ことです。私自身が以前から感じていた問題意識と共通する部分があります。
 具体的には、藤田さんが関わってきた実践現場の事例を紹介するだけでなく、それを理論的立場から木下先生が整理をしています。特に今、日本で必要とされるソーシャルアクションについて述べている部分は重要だと思いました。これまで、テキストではその説明はされていても、具体的にどのように行えばよいのかがいまひとつわかりにくいソーシャルアクションの詳細について6ページを割いて説明しています。まさに、このような本を出版すること自体もアクションのうちなのでしょうね。
 そしてこの本は、全67ページというブックレットなので、オープンキャンパスで来校した高校生や大学1年生等を対象に、紹介したり課題図書にしやすいというメリットがあります。この本が広く読まれることで、社会全体のソーシャルワーカーへの認識も高まるといいなぁ、と思います。


目次


はじめに
I ソーシャルワーカーの仕事① 実践現場の事例から
1 いくつかの事例から
2 ソーシャルワーカーの支援の対象――どのような人々と関わるか
II ソーシャルワーカーの仕事② 理論的立場から
1 生活課題がある人へのソーシャルワーカーの関わり方
2 生活課題がある人へのソーシャルワーカーの視点
3 ソーシャルワーカーの姿勢
4 社会に対する働きかけ
III ソーシャルワーカーの実際
1 ソーシャルワーカーがいる場所
2 ソーシャルワーカーは何をしている?
3 資格と広がる活躍の場
おわりに――ソーシャルワーカーの課題と未来
お薦め本一覧
資料 「ソーシャルワーカーの倫理綱領(抜粋)」




高良麻子編著『独立型社会福祉士~排除された人びとへの支援を目指して~
ミネルヴァ書房 、2014年


内容

 最後は、日本における開業形式のソーシャルワーカーの活動をまとめたこの本です。これについては、『ソーシャルワーク研究』160号に掲載された私の短評をもって、紹介とさせていただきます。

2013年現在、公益社団法人日本社会福祉士会会員では798名が独立型社会福祉士として登録している。実際には会に所属していない社会福祉士も開業している可能性があるため、上記の人数よりも多いだろう。しかしながら、これまでテキスト以外では独立型社会福祉士に関する出版がなされていなかった。その点で、本書は独立型社会福祉士の現状と課題について、調査データと実際の活動両面から立体的に描き出した待望の書である。
本書では独立型社会福祉士を「独立型社会福祉士の呼称を使用し、地域を基盤として独立した立場でソーシャルワークを実践する者」(p.2)と定義している。そして、「第Ⅰ部 理論編」では、立型社会福祉士の変遷、実態、課題と対応、特徴と役割、定義や議論、「第Ⅱ部実践編」では、11人の独立型社会福祉士の活動の紹介、想いを実践に移す方法について展開している。
 本書を手にした時の一番の関心事は、独立型社会福祉士で生計が立てられるのかどうかであった。これについては「第3章 独立型社会福祉士の課題と対応」で、2009年度に209人に実施した調査では、年間所得が300万円以下の人が71%となっており、安定した対価確保に課題が残ることが報告されている。そのため、成年後見受任、居宅介護支援、講師業等、多様な収入源を得ているのが実情である。
それでもこの仕事には、自律性が最大限に発揮できるという強みがある。組織に属さないがゆえに、地域に根ざした中立的で柔軟な対応ができ、制度の谷間に陥った人々へも包括的に対応することができる。そのような、高い知識と技術のもとで生き生きと新しい領域を切り拓くソーシャルワーカーの姿が、11人の活動紹介から伝わってきた。
以上のように、本書は現時点での独立型社会福祉士についての理論と実践の集大成であり、今後独立したい人達が現状と課題を把握しながら準備を進めるうえでの必読文献といえよう。        (保正友子:立正大学)


目次


はじめに

 第Ⅰ部 独立型社会福祉士の理解——理論編
第1章 独立型社会福祉士の変遷
 1 自然発生期(2000年以前)
 2 契約制度における活動注目期(2000年〜2002年)
 3 活動基盤の整備期(2003年〜2006年)
 4 専門的実践の質の担保期(2007年〜2010年)
 5 役割の確認期(2011年〜2013年)
 6 独立型社会福祉士の人数の推移
 〔コラム〕アメリカのプライベイト・インディペンデント・プラクティス

第2章 独立型社会福祉士の実態
 1 独立型社会福祉士の個人属性
 2 独立型社会福祉士の事業形態
 3 独立型社会福祉士の活動内容
 4 独立型社会福祉士の実態
 〔コラム〕地域の良き社会資源になるために

第3章 独立型社会福祉士の課題と対応
 1 独立型社会福祉士の課題 
 2 独立型社会福祉士の課題への対応
 〔コラム〕都道府県社会福祉士会独立型社会福祉士委員会活動——2003年から始まった埼玉県の取り組み

第4章 独立型社会福祉士の特徴と役割…
 1 専門職としての自律性を最大限確保できる活動形態
 2 独立型社会福祉士の強み
 3 独立型社会福祉士の役割
 4 役割を果たすことを可能にする要因
 〔コラム〕独立型社会福祉士と協働して

第5章 独立型社会福祉士とは
 1 日本社会福祉士会による定義 
 2 社会福祉士養成実習先としての定義
 3 独立型社会福祉士に関する議論
 4 独立型社会福祉士の必須説明要素
 5 独立型社会福祉士とは
 〔コラム〕Start where the client is.

 第Ⅱ部 独立型社会福祉士の理解——実践編
第6章 独立型社会福祉士の活動
 1 地域で豊かな子ども時代を過ごすために
 2 障がいをもつ子どもの声を聴く
 3 包み込む支援——精神障がい者,アジア人留学生を軸に
 4 障がい者と高齢者の権利擁護の一助として
 5 後ろから見まもり支える
 6 地域変革から社会変革への挑戦
 7 在宅での看取りにおける自己実現を支える実践
 8 高次脳機能障がい者・家族への支援 
 9 貧困問題に対峙するソーシャルワーク実践
 10 貧困の最果てにある “罪”との対決
 11 日本で働く外国人への医療支援を

第7章 想いを実践に移す方法
 1 事業を計画する前に
 2 事業計画作成の目的
 3 事業計画作成のステップ
 〔コラム〕私がNPO法人を選んだ理由

おわりに
索  引




篠田桃紅著『百歳の力 』、集英社新書、2014年、
『一○三歳になってわかったこと~人生は一人でも面白い~』、幻冬舎、2015年


内容

 さてさて、今回のプラスアルファは、今ベストセラーになっている篠田桃紅さんの本です。以前書いたように、私はプロフェッショナルな女性の書いたエッセイなどを読むのが好きで、興味をもつと手当たり次第読んでいます。それでハズレることもあるのですが、今回のこれらの本は感銘を受けました。篠田さんは美術家なので、芸術のプロではありますが、それよりもなによりも超長生きしているという点だけでも尊敬に値します。
 この間、私はコーネンキという女性は誰でも通るありがたくない時期に突入し、日々、体調の悪さにさいなまれていることもあり(そしてこの時期はまだ数年続く。。。)、私よりも長生きしている人達全てに尊敬のまなざしを向けるようになりました。ましてや、私の2倍以上生きている篠田さんは、もはや神のような存在であります。
 そんな篠田さんの本のなかで感銘を受けたのは、ハッとするほどリベラルな姿勢とクールな視線です。例えば、「自由になるというのは、超越するというのとはちがいます。客観視することができる、ということです。」(『百歳の力』p.26)、「私は長く生きてきて、自殺するほどの、だめな世の中でもないと思うけど、生きていてほんとうによかった、と賛美するほどの世の中でもないと思いますね。それほどの期待を持たなければいいんです、この人生というものに。」(『百歳の力』p.37)、「私は歳には無頓着です。これまで歳を基準に、ものごとを考えたことは一度もありません。なにかを決めて行動することに、歳が関係したことはありません。」(『一○三歳になってわかったこと』p.44)、「人生は、道ばたで休みたいと思えば休めばいいし、わき見をしたければわき見をすればいいと思っています。」(『一○三歳になってわかったこと』p.81)等々、挙げたらきりがありません。
 せめて篠田さんの姿勢にならい、先の見えないトンネルのなかにいる今を、ゆとりをもって客観視できるようになりたいものです~。


目次


『百歳の力』
第1話 常識の世界に生きなかったから、長生きできた
 ・自らに由って生きるのが本当の「自由」
 ・人生気楽に、無責任くらいがちょうどいい
第2話 苦労なんかしてないわね。したいこと、してるだけ
 ・結婚はくじびき。だから私は一人で生きる
 ・人とうまく強調できなくてもいい
第3話 人間としてできることはもう全部やっちゃったみたい
 ・人生何がよかったかなんて分からない
 ・学校はお手本通りにできる人を褒める。でもそれは複製=偽物をつくっているだけ
第4話 人生というものをトシで決めたことはない
 ・基準や規格に従わない
 ・試練に堪えてこそ、腕が磨かれる
第5話 “美”とは、相反する両極を持つこと。そこに一切がある
 ・思い通りにならないから、面白い
 ・火と水のように相反する両極を持つ
第6話 人生の予測は立てられない。すべてなりゆきまかせ
 ・どんどん変わっていく価値観に従う必要はない
 ・自分の世界を広げないのは、人としてもったいない

『一○三歳になってわかったこと』

第一章 100歳になってわかったこと
・百歳はこの世の治外法権
・古代の「人」は一人で立っていた
・いい加減はすばらしい
第二章 何歳からでも始められる
・頼らずに、自分の目で見る
・規則正しい毎日から自分を解放する
・1+1が10になる生き方
第三章 自分の心のままに生きる
・自分が一切である
・危険やトラブルを察知、上手に避ける
・あらゆる人に平等で美しい
第四章 昔も今も生かされている
・よき友は、自分のなかで生きている
・悩み苦しむ心を救った日本の文学
・唯我独尊に生きる



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