2014年02月・03月の3冊 本文へジャンプ
今回は、ソーシャルワーカーとはどのような人なのかを考えるための3冊です。


空閑浩人編著『ソーシャルワーカー論〜「かかわり続ける専門職」のアイデンティティ〜
ミネルヴァ書房、2012年


内容

 10余年前、「ソーシャルワークとは何ぞや」を語っていた人は多かったけれども、「ソーシャルワーカーとはどのような人か」を語る人はあまり多くありませんでした。そんななか、私と仲間達は「ソーシャルワーカーとは何ぞや」にこだわり、ひたすら研究を続けてきたのですが、最初は「他人のふんどしで相撲を取っている」なんてありがたくない言葉をいただいたこともありました。それでも、分断されたソーシャルワークの知識・技術ではなく、それを活用する主体に焦点を当てた生きた研究が必要だという信念を持ってやってきました。
 そして今年の6月21日、22日に日本福祉大学で、「日本のソーシャルワーク実践・理論の本質を探る=専門職(プロフェッション)としてのソーシャルワーク再考=」をテーマに、日本ソーシャルワーク学会第31回大会が行われます。ありがたいことに、私も学会企画シンポジウム『ソーシャルワークマインドとソーシャルワーカー像』に、シンポジストとして登壇させていただくことになりました。そこでこの機に、ソーシャルワーカーとはどのような人かを改めて学ぶことにしました。

 この本の編者の空閑先生も、同じくシンポジストとして登壇されます。この本は、私がずっと抱き続けた課題意識とよく似た課題意識のもとで編まれています。すなわち「ソーシャルワークの方法や技術が、ソーシャルワークを担う主体である『人』としてのソーシャルワーカーを通して具現化されるということから、そのような主体を離れたソーシャルワークの知識や方法・技術ではなく、『ソーシャルワークの方法・技術を駆使して援助の実践を行うソーシャルワーカー』とその体験に焦点を当てようとするもの」(p.237)です。
 本書は三部構成になっており、大学教員と現場実践者が実習教育や現任研修、大学教育の場で語られるソーシャルワーカーやジレンマについて、多岐にわたる「ソーシャルワーカー論」を展開されています。どの章もとても興味深い論考ばかりなのですが、なかでも今の私の関心事とリンクして面白かったのは、第3章、第8章、第10章です。
 第3章は「ソーシャルワーカーのアイデンティティ─医療機関での実習記録へのコメントから」(空閑浩人)で、医療機関での実習日誌に示された実習指導者によるコメント分析を行っています。「こんなやり方があるのか!」という思いと同時に、「これならソーシャルワーカーの生の声が抽出できるなぁ」、と感服しました。第8章は「ジレンマとの共存 ─ソーシャルワーカーとして成長するために」(上野 哲)で、筆者はジレンマについて「解消に至らなくても、状況打開につながりそうな選択肢をいくつか探しながら、ジレンマ状況を乗り越えていく」やり方を推奨しています。特に「7 多様な視点を生み出す方法」は、なかなかクールでソーシャルワーカーがもっと訓練したらいいな、と思うものでした。そして第10章は「アイデンティティを育む職場環境づくり」(岡本晴美)です。ユニークなのは、ソーシャルワーカーの現場への参画について、レイヴとウェンガーの「状況的学習論」における正当的周辺参加の概念に照らし合わせて考察していることです。読みごたえがある章でした。

 そんなかんじで今のところ、ソーシャルワーカーを論じた本のなかでの一押しはこの本です。今から学会が楽しみです。
 そして楽しみといえばもう一つ、4月8日から社会福祉協議会のソーシャルワーカーが主人公のNHKドラマが始まります!深田恭子さん主演の「サイレント・プア」。どんな展開が待っているのかわくわくしています。「ソーシャルワーク総論」の課題ドラマにしよう!


目次


まえがき
序 章 ソーシャルワーカーとその実践を支える「知」の形成(空閑浩人)
 1 ソーシャルワーク実践とソーシャルワーカー
 2 「気づき・発見の専門職」としてのソーシャルワーカー
 3 ソーシャルワーカーを支える「知」の構築に向けて

 第1部 実習教育の現場で語られるソーシャルワーカー像

第1章 ケースメソッドを活用した教育実践(久門 誠)
 1 「ソーシャルワーカー像」が浮かび上がる学びを
 2 ケースメソッドを活用したソーシャルワークの授業実践
 3 ケースメソッドによる授業で活用した資料
 4 ケースメソッドによる授業の効果測定と考察
 5 今後の課題と考察──対話のなかからこそ生み出されるもの

第2章 施設職員が伝える援助者像(黒田由衣)
    ──ケア現場での実習記録へのコメントから
 1 「援助者」の姿を伝えるということ
 2 利用者とのかかわりにおける姿勢を伝える
 3 利用者と家族の間にいる援助者の姿を伝える
 4 利用者の生活を支援するということを伝える
 5 援助を行う「人」を伝えるということ

第3章 ソーシャルワーカーのアイデンティティ(空閑浩人)
    ──医療機関での実習記録へのコメントから
 1 ソーシャルワーカー自身によって紡がれた「言葉」への着目
 2 実習指導者によって書かれたコメントの分析と考察
 3 「ソーシャルワーカー」を伝えるソーシャルワーク実習

 第2部 ソーシャルワーカーであり続けるために

第4章 悩みを共有できる職場環境の重要性(田中希世子)
    ──悩むことを悩まないために
 1 ソーシャルワーカーにとっての現任研修
 2 問題や課題を個人化させないチームワークづくり
 3 悩むことを支える現任研修と職場環境づくり
 4 職場の組織力と自身の可能性への信頼

第5章 現任研修におけるケースメソッドの有効性(野村裕美)
 1 「対話」が育むソーシャルワーカーの実践力
 2 ケースメソッドと現任研修
 3 現任研修におけるケースメソッドの意義と効果
 4 現任研修におけるケースメソッドの可能性

第6章 ソーシャルワーカーである自分を語る─ケースメソッドの実際(野村裕美)
 1 自分らしいソーシャルワーカー像の構築を目指して
   ──定例カンファレンスの取り組み
 2 定例カンファレンスの実際
 3 ソーシャルワーカーであり続けるために

 第3部 「かかわり続ける専門職」としてのソーシャルワーカー

第7章 ソーシャルワーカーとジレンマ(樽井康彦)
 1 「ジレンマ」と「フラストレーション」
 2 根源的な価値のジレンマ
 3 適切な介入レベルというジレンマ
 4 居心地のよさと世間の厳しさ
 5 援助の組織で生じるジレンマ
 6 ジレンマに「ゆらぐ」ことの意味

第8章 ジレンマとの共存(上野 哲)
    ──ソーシャルワーカーとして成長するために
 1 ジレンマの「解消」ではなく「うまく付き合う」ための方法
 2 誠実なソーシャルワーカーであることの証
 3 専門職としての意思決定プロセス
 4 専門職の視点に固執することの弊害
 5 私たちの見方に含まれる偏り
 6 社会福祉専門職のジレンマの特徴
 7 多様な視点を生み出す方法
 8 合理化する作業の否定とソーシャルワーカーにとっての意義
 9 対人援助の際に生じるジレンマを乗り越えるために

第9章 「状況との対話」を可能にする専門性と実践力(孫 希叔)
 1 ソーシャルワーカーに求められるもの
 2 現任ソーシャルワーカーへのグループインタビューの実施
 3 ソーシャルワーカーとしての自らの成長につながる実践経験
 4 実践のなかから育まれる専門性と実践力
 5 「状況との対話」を可能にする専門性と実践力

第10章 アイデンティティを育む職場環境づくり(岡本晴美)
 1 「現場に身を置くこと」を通して形成される専門性と実践力
 2 「現場に身を置くこと」の意味──「現場の状況」と「身の置き方」
 3 ソーシャルワーカーになることを支える学び──アイデンティティの形成
 4 職場における「実践の意味」の共有──「実践のなかで語る」
 5 ソーシャルワーカーの育ちを支える職員集団の形成

終 章 ソーシャルワーカーを支える「知」の集積(空閑浩人)
 1 その時代のソーシャルワーカーを「論じ続ける」こと
 2 ソーシャルワーカーの体験と実践をめぐる現実を知ること
 3 ソーシャルワーカーの「かかわり続ける」営みを支えること
 4 「ソーシャルワーカー論」の意義と課題

あとがき
巻末資料
索 引




宮本節子著『ソーシャルワーカーという仕事、ちくまプリマー新書、2013年


内容

 これまでも、ソーシャルワーカーという仕事については、何度もこのコーナーで紹介してきました(詳しくはここからアクセスを)。今回は、地方公務員上級職を16年間行ってきた宮本先生の実感がこもったご本を紹介します。
 この本は、宮本先生が「ソーシャルワーカーとして四苦八苦しながら、自分では処理しきれない生活課題を抱えて苦しむ人やその人を取り巻く環境と向き合った活動を伝え」「若い方々にソーシャルワーカーの仕事の魅力や面白さを伝えられたら」(p.27)という願いがこもっています。そして、ソーシャルワーカーにとって大切なのは、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の一節「ヨクミキキシワカリ」ということを述べていらっしゃいます(pp.23-25)。すなわち「ヨク見:この人はどのような人なのかよく見、観察する」、「聞キ:この人は何を言いたいのか、訴えたいのか、聴き取る」、「分カリ:この人の訴えたいことを総合的に理解する」です。
 また興味深いのは、多様な事例にまじって、相関している生きる意欲と生きる手段を手掛かりに、ソーシャルワーカーを必要とする人たちの4類型を作成されていることです(pp.42-48)。第1類型は生きる意欲もあり、生きる手段も持っている人々、第2類型は生きる意欲はあるが、手段を持たない人々、第3類型は意欲はないが、手段は持っている人々、第4類型は生きる意欲もなければ手段も持たない人々です。それぞれにどのような対応が望ましいのかが提示されています。
 ソーシャルワーカーとは何をする人なのか、という原点に返ることができる本なので、「ソーシャルワーク総論」の課題図書に加えます!
 


目次


第1章 ソーシャルワーカーが対象とする人々

第2章 ソーシャルワーカーがやっていること
第1話 “なかなか死ねない、のですか?”
第2話 “その人、確かに放火はしたけど、でも、手加減してます!”
第3話 “その小屋には藤棚があって、手作りベンチがあって”
第4話 “お願い、わたしを施設に入れて”

第3章 ソーシャルワーカーの力

第4章 ソーシャルワーカーの仕事の広がり




三島亜紀子著『社会福祉学の〈科学〉性〜ソーシャルワーカーは専門職か?』、勁草書房、2007年


内容

 さすがにこの本は学部生の課題図書には難しいでしょうね。アドヴァンスト・コースなので、大学院生向けの本として最後に紹介します。
 この本は、ソーシャルワーカーの専門職化への期待が高まるなか、「ソーシャルワーカーの専門職化へ向けた取り組みとその実践を支える理論研究の変遷をたどることで、現在ソーシャルワーカーが置かれている状況を明らかにしようとするもの」(p.ii)です。それを読み解く鍵として設定されているのが、反省的学問理論(エンパワーメント、ストレングス視点、ナラティブ理論等の新しいソーシャルワーク理論)です。
 論考の出発点は福祉の研究をやっていれば誰もが一度は聞いたことがある、有名なアブラハム・フレックスナーの1915年の講演「ソーシャルワークは専門職か?」であり、次いで障害者と子どもという社会的弱者が学問の対象とされた経緯を論じ、専門家の介入のあり方に及びます。最終的には、反省的学問理論とエビデンス・ベイスト・ソーシャルワークという「実践モデルの二分化」の考察によって、現在のソーシャルワーカーの専門家としての立ち位置を論じています。
 一章一章の咀嚼には、時間と背景となる知識が必要ですが、挑戦する価値ありです。社会福祉理論を勉強した大学院生にとっては、知的刺激が得られると思います。ちなみにこの本で三島先生は、第5回日本社会福祉学会奨励賞及び2007年度の日本ソーシャルワーク学会の学術奨励賞を受賞されています。



目次


はじめに

第一章 専門職化への起動
第一節 全国慈善矯正事業会議におけるフレックスナー講演
第ニ節 フレックスナー講演に先行するフレックスナー報告
第三節 「進化」する専門職

第ニ章 社会福祉の「科学」を求めて
第一節 援用される諸学問の理論
第ニ節 最初の「科学」化――精神力動パースペクティブ
第三節 ラディカルなソーシャルワーク
第四節 社会福祉統合化へむけて――システム-エコロジカル・ソーシャルワーク理論

第三章 弱者の囲い込み
第一節 障害者というまとまりの具体化
第ニ節 福祉の対象となる子ども
第三節 子どもの権利と専門家の権限

第四章 幸福な「科学」化の終焉
第一節 反専門職主義の嵐
第ニ節 脱施設化運動
第三節 新たな社会福祉専門職への再調整

第五章 専門家による介入――暴力をめぐる配慮
第一節 ソーシャルワーク理論と政治
第ニ節 理論と政治の連動――イギリスにおける児童福祉の展開・1
第三節 「自由の巻き返し」――イギリスにおける児童福祉の展開・2
第四節 自由か安全か

終 章 専門家の所在
第一節 一九九〇年代以降
第ニ節 エビデンス・ベイスト・X
第三節 反省的学問理論と閾値

参考文献
索 引


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