2018年7月の5冊 本文へジャンプ
久々にこのコーナーに戻ってきました。2018年7月の本をご紹介します。

 前回、本の紹介をしたのが「2017年7月・8月・9月・10月の数冊」ということで、あっという間に1年の月日が流れてしまいました。この間、本の紹介ができなかった理由は「劇的に生活が変化」したためです。生活拠点を東京に置いたまま愛知県の大学まで通勤するというエリア越えの決断を行い、アパートを借りて生活必需品を揃え、研究室を引越し、新しい環境と前期の講義準備に追われるうちに、気がつけば1年が経過していました。
 おまけにホームページの更新機能は引っ越していないため、東京に戻った時にしか更新できない状況にあります。それでも心のどこかで「本の紹介をしなければ。。。」と、チクチクした気持ちを抱きながら今日に至りました。ということで、今後も定期更新は難しいかもしれませんが、できるだけ時間がある時には更新していきたいと思います。
 では、今回はこの間に読んだ本のなかから何冊かと、先頃出版した本をご紹介します。



大谷京子・田中和彦著『失敗ポイントから学ぶ PSWのソーシャルワークアセスメントスキル、中央法規 、2018年

内容

 我らが同僚、大谷京子先生と田中和彦先生の共著で、「失敗ポイントから学ぶ」というユニークな切り口で描かれた本です。目的は以下の4つです。「@アセスメントのプロセスモデルを示す。Aアセスメントプロセスで必要とされるスキルを示す。Bアセスメント力向上のための自己研鑽の方法とグループで行う場合の研修プログラムを示す。Cアセスメントスキルのチェックリストを示す」(pp.@-A)ことです。
 この本のセールスポイントは、なんといってもわかりやすさにあります。抽象度の高いアセスメントについて、現場実践者が読みやすくスキルごとに解説してあります。例えば、「スキル08 腑に落ちるまで聴く」では、「このスキルのポイントは、『繰り返し聴く』ことよりも、クライエントのストーリーを追体験できるか、自分がクライエントの立場におかれたら同じように感じるだろう、行動するだろうと思えるまで聴くことにあります」(p.54)というふうに、日頃ソーシャルワーカーが行っていることを丁寧に言語化して整理しています。そして、何よりも全編を通して筆者の先生方の「PSWの仕事が好き!」というPSW愛が伝わってきました。
 大谷先生や田中先生と同僚になれたことは、私にとって大変嬉しいことです。これから、知的刺激に満ちた時間を一緒に創っていけるかと思うとワクワクします!


目次


1章 PSWがアセスメントで陥りやすい失敗ポイント(アセスメントの困難さは何か?失敗ポイントへの着目 ほか)

2章 ソーシャルワークアセスメント(ソーシャルワークアセスメントについてアセスメントプロセスのモデル ほか)

3章 アセスメントに活用する実践スキル(アセスメントに求められる姿勢・価値―クライエントからの期待アセスメントの前提 ほか)

4章 アセスメント力研修&自己養成プログラム(アセスメント力をつけるための研修の考え方アセスメント研修を企画してみよう ほか)

5章 アスセメントスキルチェックリスト

資料



大久保幸夫・皆月みゆき著『働き方改革 個を活かすマネジメント 、日本経済新聞社、2017年

内容

 「産業ソーシャルワーク」という言葉を知ったのはいつ頃だったでしょうか。なぜか10年以上前の社会福祉学会で、私達が発表した内容が産業ソーシャルワーク部門に位置づけられ、そこで座長をしたことがあります。今から思うと、あの発表は果たして「産業ソーシャルワーク」だったのでしょうか。でもこの本は、正真正銘の産業ソーシャルワーカーである皆月さん達が書いたものです。
 この本の目的は、「働き方改革の時代の新しいマネジメントを読者とともに考えること」(p.5)です。働き方改革の時代にあり、当然ながらマネジメント方法も刷新していかなければなりません。その新しいマネジメントには、企業内でワークライフに関する悩みを抱える従業員の相談にのりマネジャーを支援する、産業ソーシャルワーカーの業務が深く関連しています。例えば、育児や介護と仕事との両立をどうするか、外国人の部下への支援をどうするか、メンタルに課題を抱えていたり障害を持った人への支援をどうするか等々、数え上げたらきりがありません。
 この本では、そのようなニーズを抱えた従業員への具体的支援方策について、事例をまじえて解説してあるため、イメージがしやすくなっています。大学と企業では働く場は異なりますが、同じ人間が集う場であり、生じるニーズに大差はない気がします。そのため、今後の大学のあり方を考えるうえでも参考になるのではないかと思いました。


目次


第1章 働き方改革の始動

第2章 働き方改革は人事改革×業務改革

第3章 働き方改革はマネジメントの進化を求める

第4章 業務効率を高める「ジョブアサイン」

第5章 多様な人材をありのままに活かす「インクルージョン」

第6章 個々の抱える問題に踏み込む

第7章 すべてのマネジャーが直面する悩み

第8章 さらなる多様化に向き合う

第9章 ひとりで抱え込まない




メアリー・E・リッチモンド著、門永朋子・鵜浦直子・高地優里訳『貧しい人々への友愛訪問〜現代ソーシャルワークの原点〜、中央法規、2017年

内容

 学会時にジャケット買いした10冊程の中から、最初に読もうと思ったのがこの本でした。読んでみると、「やっぱり」というか「さすが」というか、感嘆と安堵感の入り交じった心境に着地しました。「やっぱりリッチモンド」「さすがリッチモンド」、知性と度胸とリーダーシップを兼ね備えたケースワークの創始者であり、福祉の学校を出てこの名前を知らない人はいない(はず)。でも、彼女が体系化した内容についてどれくらい知っていたのだろうと、恥ずかしく思いました。
 1899年に刊行されたこの本は所々に時代の制約が垣間見られるとはいえ、現代に活きている知識、継承されている知識を随所で発見することができます。例えば「第5の救済の原則は、救済を施すか差し控えるかについて、我々の側の根拠を明確に示すことと、貧しい人々の状況の改善に向けてなされる、あらゆる努力において、貧しい人々の積極的な協働を求めることによって、彼らが物事の適切な結びつきについて理解することを支援すべきである、ということである」(p.123)という一節からも、エビデンスベーストでクライエントとの協働をうたうリッチモンドの先見性がうかがえます。
 なお、訳者解説を見ると、この本は2011年4月に大阪市立大学大学院において、故岩間伸之先生が院生に紹介されて3人の訳者が外書購読したことからはじまったそうです。岩間先生、こんなところでも私達にプレゼントを残してくださっていたのですね。。。

 

目次


はじめに

一家の主人

家庭における一家の主人

主婦

子ども

健康

消費と節約

レクリエーション

救済

教会

友愛訪問員



小西加保留編著『HIV/AIDSソーシャルワーク―実践と理論への展望―』、中央法規、
2017年

内容

 この本については、日本社会福祉学会学会誌の文献紹介に掲載されたものを引用します。
 掲載誌:『社会福祉学』59(1),148ページ

本書の目的は、@HIV/AIDSソーシャルワークの様々な領域における実践を取り上げて、先駆的に豊富な経験をもつ執筆者により実態を紹介し、背景となる知識や支援のポイントを整理すること、Aこのような実践を社会福祉の理論と結びつけて考察することである。
 全体は三部構成であり、内容は以下のとおりである。第一部HIV/AIDSソーシャルワークの変遷と課題では、HIV医療・体制の変遷と課題、HIV/AIDSソーシャルワークの変遷の枠組、価値・倫理的課題、各論(第2部)に向けた社会福祉学の射程について述べている。第二部HIV/AIDSソーシャルワーク実践では、HIV/AIDSソーシャルワーク実践の枠組と各テーマの知識・理論とその実際について多角的に論じている。第三部社会福祉学としての理論的考察では、多様なテーマの社会福祉学としての構図と課題、アドボカシーの概念とHIV/AIDSソーシャルワーク、HIV診療チームと連携、地域福祉への展望を論じている。
 現時点でのHIV/AIDSソーシャルワークに関する知見が幅広く系統的に述べられた、類書に例をみない説得力のある本であり、とりわけ次の3点について考えさせられた。
まず、HIV/AIDSに関する課題は重層的で、解決が急がれる多様な論点が存在することである。第2部の各論では、スピリチュアリティ、セクシャリティ、メンタルヘルス、薬物依存、就労支援、外国人支援、薬害エイズ等々の多様な切り口からHIV/AIDSソーシャルワークを論じている。それぞれが一つの研究領域をなすテーマであり、それらが患者自身やその置かれている環境下で集約的に表れている。
次に、HIV/AIDSソーシャルワークに関わる専門職自身の価値観が問われることである。それについて筆者は「こうした問題の払拭には、基底にセクシャル・マイノリティに対する正確な知識(医学、歴史、制度、発達課題等)が必須であり、『自業自得』に代表されるような価値観に対して、多様な個別性の中にあるそれぞれの人生に向き合い、自分事として考え抜く姿勢を大事にすることが専門職には特に求められると感じている」(p.17)と述べている。まさに、専門職自身が自らのあり方を問い直すことなしに、関われない課題である。
そして、強力な職種間連携チームによる、ミクロ・メゾ・マクロにわたる総合的支援が必要なことである。「HIV診療体制やチームは拠点病院制度に則り、限定的な場で当事者に向けられる社会的排除に対して、チームが一丸となって対応してきた歴史がある。このチームは凝集性が高く、差別に晒されやすいHIV陽性者に対する社会的認識と倫理的姿勢の吟味が常に行われてきた」(p.306)経緯があるが、今後もますますこのようなチームを増やして取り組むのと同時に、一般市民の認識も高めていく活動が求められるのだろう。
焦点はHIV/AIDSソーシャルワークだが、その切り口を通して社会問題について考えさせられる一冊であり、とりわけ医療福祉領域の研究に携わる人には必読書といえよう。


目次


第1部 HIV/AIDSソーシャルワークの変遷と課題(HIV医療・体制の変遷と課題

HIV/AIDSソーシャルワークの変遷の枠組み

価値・倫理的課題

各論(第2部)に向けた社会福祉学の射程)

第2部 HIV/AIDSソーシャルワーク実践(HIV/AIDSソーシャルワーク実践の枠組み

各テーマの知識・理論とその実際)

第3部 社会福祉学としての理論的考察(多様なテーマの社会福祉学としての構図と課題

アドボカシーの概念とHIV/AIDSソーシャルワーク

HIV診療チームと連携

地域福祉への展望)

資料編 制度・施策



ソーシャルワーク演習研究会編『すぐに使える!学生・教員・実践者のためのソーシャルワーク演習、ミネルヴァ書房、2018年

内容
 
 最後は私達が出版した本の宣伝をさせてください。
 2012年11月に、私は関東近県の教員達に呼びかけて、ソーシャルワーク演習研究会を立ち上げました。そこでは、ソーシャルワーク演習の模擬授業、授業展開の困難性、実習指導に関する悩み、現場で抱えている課題の交流と、フラットな関係での教員のピアスーパービジョンの会を展開しました。
 そのなかの有志が集まり、実際に研究会で行った演習を中心に、90分で展開できる教材開発を意図して作成したワークブックです。この本は「学生・教員・実践者のための」とあるように、いろいろな方にすぐに使っていただけることを目的にしていますが、実は教員向けの指導案も別に作成しています。購入された希望者にのみ、ダウンロード版をお送りすることになっています。また、ソーシャルワークのグローバル定義を扱った演習教材や、私達で作ったワンストップ型支援についての事例を掲載していることも、セールスポイントの一つです。
 今後、ソーシャルワーク演習の時間が増えるかどうかはまだ明確ではありませんが、多様な演習教材について求める人は多いと思います。ぜひこの本もその一端として、活用していただけたら嬉しいです。


目次


まえがき

オリエンテーション(契約)

第1章 ソーシャルワークの価値と視点

第2章 ソーシャルワークの技術

第3章 地域を基盤としたソーシャルワーク

第4章 事例でみるワンストップ型ソーシャルワークプロセス

あとがき

巻末資料

索 引

コラム



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