上野千鶴子著『情報生産者になる』、ちくま新書 、2018年
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内容
先頃の東京大学入学式で、上野千鶴子名誉教授が祝辞を述べられました。その祝辞には、高学歴女子が置かれている現状や東京大学学生に望むことが盛り込まれており、私も日本社会福祉学会で若手・女性研究者の地位向上の活動に携わっているため、大いに共感しました。
そんな上野先生の著書は何冊も読ませていただきましたが、とりわけこの本からは学ぶことが多かったです。
まず「情報生産者」という言葉の使い方にひきつけられました。「高等教育以上の段階では、もはや勉強(しいてつとめる)ではなく、学問(学んで問う)ことが必要です。つまり正解のある問いではなく、まだ答えのない問いを立て、みずからその問いに答えなければなりませ.。それが研究(問いをきわめる)というものです。研究とは、まだ誰も解いたことのない問いを立て、証拠を集め、論理を組み立てて、答えを示し、相手を説得するプロセスを指します。そのためには、すでにある情報だけに頼っていてはじゅうぶんではなく、自らが新しい情報の生産者にならなければなりません」(p.9)。
『そうそう、私が目指していたのはこれ!』と最初から共感の嵐です。そういえば、小学校時代のブラスバンドの思い出や中学時代の修学旅行の思い出など、イベント毎に自発的にノート1冊分の文集をつくっていたことを思い出し、『自分は昔から、情報を生産することが好きだったんだな』と改めて気がつきました。
なかでも、自分にとってタイムリーだったのは、「Xアウトプットする」「14コメント力をつける」の査読コメントについて書かれている部分です。私自身が複数の学会誌や研究誌の査読委員だったり、それ以外でも研究評価に携わる機会が多いので、自身も毎年、査読論文の掲載を目指しています。ただ、このところ連続して残念な査読者に遭遇しました。というのは、最初に指摘されていなかった新たな事柄について、次の査読時に指摘してくるのです。それも「これについて書いていない」「あれはどうなのか」という具合に。その点について、この本では内在的コメントと外在的コメントという言葉で説明してあります。「内在的コメントとは、書き手の論旨や主張に沿って、それを受け入れたうえで、なおかつ論旨の非一貫性や、不徹底さ、その拡張や応用の可能性について、書き手に代わって、示唆するものです。他方、外在的コメントとは、簡単に言うとないものねだり。あれがない、これを知らない、それが見えていない……とあげつらうものです」(pp.291-292)。ぜひ、自分も含めた査読者は内在的コメントが書けるようにしたいものですね。
ということで、本書は研究を行う大学院生のみならず、現役の研究者にとっても学びが多い1冊だと思います。
目次
1 情報生産の前に
2 海図となる計画をつくる
3 理論も方法も使い方次第
4 情報を収集し分析する
5 アウトプットする
6 読者に届ける