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お久しぶりの文献紹介です。今回は研究方法に関する本&先日出版した本をご紹介します。


 前回、本の紹介をしたのが2018年7月だったので、すでに9ヶ月経過してしまいました。この間、紹介したい本はあるけれども、作業が追いつかず連休前の今日に至っています。今後もこのペースになる可能性はありますが、どうぞ長い目で見守っていてください。
 さて、今回は研究支援本を出版したことや今年度から大学院指導を行うことになったため、この間読んだ研究方法に関連した本と出版した本をご紹介します。



上野千鶴子著『情報生産者になる、ちくま新書 、2018年

内容

 先頃の東京大学入学式で、上野千鶴子名誉教授が祝辞を述べられました。その祝辞には、高学歴女子が置かれている現状や東京大学学生に望むことが盛り込まれており、私も日本社会福祉学会で若手・女性研究者の地位向上の活動に携わっているため、大いに共感しました。
 そんな上野先生の著書は何冊も読ませていただきましたが、とりわけこの本からは学ぶことが多かったです。
 まず「情報生産者」という言葉の使い方にひきつけられました。「高等教育以上の段階では、もはや勉強(しいてつとめる)ではなく、学問(学んで問う)ことが必要です。つまり正解のある問いではなく、まだ答えのない問いを立て、みずからその問いに答えなければなりませ.。それが研究(問いをきわめる)というものです。研究とは、まだ誰も解いたことのない問いを立て、証拠を集め、論理を組み立てて、答えを示し、相手を説得するプロセスを指します。そのためには、すでにある情報だけに頼っていてはじゅうぶんではなく、自らが新しい情報の生産者にならなければなりません」(p.9)。
 『そうそう、私が目指していたのはこれ!』と最初から共感の嵐です。そういえば、小学校時代のブラスバンドの思い出や中学時代の修学旅行の思い出など、イベント毎に自発的にノート1冊分の文集をつくっていたことを思い出し、『自分は昔から、情報を生産することが好きだったんだな』と改めて気がつきました。
 なかでも、自分にとってタイムリーだったのは、「Xアウトプットする」「14コメント力をつける」の査読コメントについて書かれている部分です。私自身が複数の学会誌や研究誌の査読委員だったり、それ以外でも研究評価に携わる機会が多いので、自身も毎年、査読論文の掲載を目指しています。ただ、このところ連続して残念な査読者に遭遇しました。というのは、最初に指摘されていなかった新たな事柄について、次の査読時に指摘してくるのです。それも「これについて書いていない」「あれはどうなのか」という具合に。その点について、この本では内在的コメントと外在的コメントという言葉で説明してあります。「内在的コメントとは、書き手の論旨や主張に沿って、それを受け入れたうえで、なおかつ論旨の非一貫性や、不徹底さ、その拡張や応用の可能性について、書き手に代わって、示唆するものです。他方、外在的コメントとは、簡単に言うとないものねだり。あれがない、これを知らない、それが見えていない……とあげつらうものです」(pp.291-292)。ぜひ、自分も含めた査読者は内在的コメントが書けるようにしたいものですね。
 ということで、本書は研究を行う大学院生のみならず、現役の研究者にとっても学びが多い1冊だと思います。


目次


1 情報生産の前に
2 海図となる計画をつくる
3 理論も方法も使い方次第
4 情報を収集し分析する
5 アウトプットする
6 読者に届ける




石川善樹著『問い続ける力、ちくま新書、2019年

内容

 では、「問い」を立てる力はどのように育てることができるのか、そんなぼんやりした疑問のなかで新聞書評に載っていたこの本を即買いしてみました。またもやちくま新書です。
 読後の感想は、『私が知りたかったこととはちょっと違う。でも全体的には面白かった』というものです。何が違うのか。この本は東大を出た後にハーバードで学んだ予防医学者の石川さんが、「問い続ける達人たち」9人と何をどう考えたらよいのかについて対談した様子をおさめているものなのですが、全てその道のスペシャリストで、大成した有名人ばかりです。そのため、私が知りたい大学院生や現場実践者がどのように「問い」を立てて育てるのか、という身近な疑問とはサイズ感が異なるのです。でも、卓越した知識や経験のもとで大成した人達の「問い続ける様」は抜群に面白く、もっとその人達の業績を知りたくなりました。
 とりわけ心惹かれたのは、南フランスのニースや原宿でレストラン経営を行いミシュランで星を獲得した、松嶋啓介氏との対談でした。タイトルは「アートとは何か?」で、「アート」の捉え方を変えてくれるものでした。「料理って、その土地で大切に育まれているアートなんですよね。その土地に根付いたアートがずっと伝承されていく。面白いことに、アートには伝統と革新という二つの要素があり、常にデザインが変わっていく」(p.238)。自分のアートの捉え方は狭かったことに気がつきました。
 また、物理数学の長沼伸一郎氏は「現在、人口知能が無限に発達したならば、果たして人間の天才とどっちが勝つのか、その最終的な対決を数学的に予測してみようという途方もないことをちょっと考えて」(p.78)いるそうです。全くもって、「???」の世界ではありますが、世の中にはこんなことを考えている人、こんな分野に生きている人もいるんだという、俯瞰的視座を与えてくれる本でした。
 一つ残念なことは、石川さんの知り合いのためか9人が全員男性だったこと。上野先生の祝辞に共感した後のため、ことさらそう思ってしまいました。


目次


第1部 「問い」を問う(ぼくらのグランド・チャレンジ
問いの本質―演繹と帰納
イノベーションを生み出す問い
「信じる」ことの効用
偉大な研究者の共通点
どこから考え始めるか
考えるとは何か?
戦争と平和

第2部 問い続ける達人たち
長沼伸一郎―考えるとは何か?
出口治明―時代とは何か?
御立尚資―大局観とは何か?
寺西重郎―日本的資本主義とは何か?
岩佐文夫―直観とは何か?
若林恵―文化とは何か?
二村ヒトシ―性とは何か?
松嶋啓介―アートとは何か?
松王政浩―根拠とは何か?




近藤克則著『研究の育て方〜ゴールとプロセスの「見える化」 、医学書医、2018年

内容

 この本は医療や福祉の現場で働く社会人を中心に、60人余りの大学院生を指導教員として受け持たれた経験がある、近藤先生が「研究の初心者から中級者を対象に、研究の育て方について、そのゴールとプロセスを『見える化』し、コンパクトに伝えること」(p.B)を目的にして出版されたものです。近藤先生は、私の所属する大学に以前在籍されていらっしゃいました。
 まさに大学院生が研究に取り組んでいく際に参考になるノウハウが、系統的に述べられています。参考になることが満載すぎてどれか一つチョイスできないのですが、特に活用できると思ったのは「第5章 研究テーマの育て方」に載っている樹形図を書く方法です。「研究テーマにもいろいろな大きさと(最)上位から中位・(最)下位に至る階層構造があることだ」「階層構造を考えながら、自分の関心テーマを整理し俯瞰できる樹形図を作る」(p.52)ことは実践的で良い方法だと思います。「このような俯瞰図を作成したうえで、最下位層に焦点をあてて、本書の第2章を読み直し、いろいろな視点から条件を満たさないテーマを削除して候補を絞り込み、そして育てていく」(p.53)と良いようです。関心のある人は、ぜひ「本書の第2章」を読んでみて下さい。
 なお、印象に残ったのは「コラム31 栗ようかん・串だんご・ネコのお尻」です。栗ようかんのみ抜粋すると「修士論文を『栗ようかん』にたとえると、大事なのは栗である。栗がたくさん入った一切れがうれしい。だから栗にあたる(おいしい、ウリとなる)ところを選び、それがよくみえる論文にする。取捨選択せずに書くと、栗が見えず、普通の「ようかん」になってしまう」(p.162)。この比喩のセンス、身につけたいと思います(笑)。
 ということで、大学院生にとってこの本は必読書ですよ〜。
 

目次


第1部 総論
 第1章 研究のゴールと研究プロセス
  研究とは何か
  研究の種類
  研究のフェーズ
  研究発表の形と研究水準の高さ
  研究プロセス
  研究力
  まとめ
 第2章 よい研究の条件
  研究の質を決める2つの軸
  よい研究デザインの3条件―意義・新規性・実現可能性
  7種類の新規性
  研究構想を育てる前に
 第3章 研究の種類の選択
  研究の種類を選ぶ
  研究の種類―基礎研究・応用研究・橋渡し研究
  不足している研究人材と学部生研究室配属・社会人大学院のねらい
  意思決定の根拠と研究の位置づけ
  現場での研究の必要性
  理論主導かデータ主導か
  研究の種類選択のときに気をつけるべきこと
 第4章 論文の種類
  論文の種類
  院生や研究者を目指す人が書くべき論文はどれか

第2部 構想・デザイン・計画立案
 第5章 研究テーマの育て方
  何を決めなければならないのか
  研究テーマの大きさと俯瞰図
  博士論文・研究者を目指す人のテーマの育て方
  初心者における研究テーマの育て方
  初心者は相談を
 第6章 研究構想・デザイン・計画
  着想から計画まで
  構想や仮説を育てるための関連要因図
  よい計画書とは
 第7章 原著論文の構成
  原著論文の構成・構造
 第8章 背景と文献レビュー
  「背景」の構造と書くべきこと
  レビューですべきこと
  まとめ
 第9章 目的
  「目的」に書くべきこと
  リサーチ・クエスチョンと仮説の違い
  よいリサーチ・クエスチョンの条件
  よい検証仮説の条件
  まとめ
 第10章 対象と方法
  同じ目的でも達成する方法はいろいろ
  「方法」の構成
  研究デザインとセッティング
  対象
  方法
  研究倫理
 第11章 採択される研究助成申請書の書き方
  研究助成を得るメリット
  研究助成の探し方
  主な公的研究費助成団体と研究費の種類
  科学研究費補助金(科研費)の審査方法
  研究助成申請書作成上のポイント
  不採択になる研究計画書の共通点と対策
  ないのは研究費だけ
 第12章 研究倫理に関する指針
  ヘルシンキ宣言
  日本における医学研究に関する指針
  まとめ

第3部 研究の実施・論文執筆・発表
 第13章 データ収集
  重要な予備的調査・実験・分析
  データ収集
 第14章 データ分析
  記述統計とデータクリーニング
  2次データ・分析
  3次分析
  研究目的達成に向けた(4次)分析
  主な所見のまとめ
 第15章 期待した結果が得られないとき
  仮説を巡る問題
  分析上の問題―「見かけ上の関連」でないか
  データの問題
  まとめ
 第16章 結果の記述
  主な結果の示し方
  言葉を選ぶ
  図表の活用
  まとめ
 第17章 考察・結論の考え方・書き方
  考察の目的・位置づけ
  分析に有用な視点・ツール
  考察の書き方とチェックリスト
  結論の考え方・書き方
  まとめ
 第18章 共著者・謝辞・文献リスト
  共著者の決定
  謝辞(Acknowledgment)
  文献リスト
 第19章 全体の推敲と要旨
  全体の推敲
  要旨の書き方
  まとめ
 第20章 研究発表―学会発表
  学会発表の事前準備―発表資料・リハーサル・Q & A
  学会発表の当日
  まとめ
 第21章 研究発表―論文発表
  学会発表と論文の位置づけ
  論文掲載までのプロセス
  まとめ

第4部 研究に関わるQ & A
 第22章 研究を学べる場の条件
  寄せられた質問から
  「学びの共同体」が必要
  研究「方法」を知るだけでは研究はできない
  大学院の勧め
 第23章 臨床と研究の両立
  臨床と研究のスペクトラム
  臨床家が研究することの意義
  臨床と研究の両立のためのタイムマネジメント
  重要性と緊急性からみた優先順位
  ポートフォリオの勧め
  まとめ
 第24章 研究者の成長プロセス,ライフワーク
  4段階の成長プロセス
  研究者のライフワーク
  まとめ

巻末資料
 STROBE声明(要旨)

あとがき―私のポートフォリオ
索引

コラム
 (1)研究活動とは
 (2)研究と勉強の違い
 (3)技術論の3段階
 (4)理論は仮説から始まる
 (5)2つの妥当性―内的妥当性と外的妥当性
 (6)下村教授のノーベル賞
 (7)研究の意義
 (8)パラダイム(認識の枠組み)の重要性
 (9)実装科学・橋渡し研究
 (10)新しい科学
 (11)査読制度
 (12)「悩む」ことと「考える」こと,問題解決プロセス
 (13)臨床研究デザインに有用なフレームワーク
 (14)おいしいミカン
 (15)医学雑誌における学術研究の実施・報告・編集・出版のための勧告
 (16)批判的吟味とエビデンスレベル
 (17)ピクセル(画素)によるたとえ話
 (18)95%信頼区間
 (19)平均年齢や回収率を記載するのは,方法それとも結果
 (20)変数の呼称
 (21)標準化された尺度
 (22)尺度の種類
 (23)私の経験―研究助成獲得と審査委員
 (24)見落とされていた温度条件
 (25)異常値や外れ値発生の原因
 (26)理論仮説の適用限界とメタ認知
 (27)バイアスによる「見かけ上の関連」の一例
 (28)多重共線性(multicollinearity)
 (29)高度な統計解析手法―傾向スコア・多重代入法
 (30)p値よりも実数を知りたい
 (31)栗ようかん・串だんご・ネコのお尻
 (32)研究者の説明がわかりにくい理由
 (33)3色だんご
 (34)「ない」ことも情報になる
 (35)引用・転載許諾
 (36)謝辞の書き方―科学研究費補助金の記載例
 (37)インパクトファクター
 (38)文献欄の書き方の例
 (39)長い文章だとわかりにくくなる
 (40)添削前の論文要旨
 (41)添削の視点・修正した理由
 (42)添削後の要旨
 (43)ポートフォリオ登場の背景






日本ソーシャルワーク学会監修『ソーシャルワーカーのための研究ガイドブック〜実践と研究を結びつけるプロセスと方法、中央法規 、2019年

内容
 
 では、最後に我々の本を宣伝させていただきます。
 この本は構想から2年半をかけて、何度も何度も議論をして編み込んできたものです。私はその取りまとめを行いました。近藤先生の本との端的な違いは、タイトルにもあるように現場実践者であるソーシャルワーカーが、現場実践を行いながら研究に取り組めるように、実践のなかからの「問い」の立て方・育て方、研究の取り組み方について解説した点です。
 今やソーシャルワーカーも実践研究に取り組む時代になり、所属組織の「研究発表せよ」というプレッシャーを受けながらも研究能力をつけたい・つけなければと焦っている人が、実は多いのではないでしょうか。そのような疑問に全て答えられているかはわかりませんが、かなりの部分はフォローできているのではないかと思っています。
 特に読んでいただきたいのは、私が執筆した「読み方ガイド」(pp.E-ID)です。ある医療ソーシャルワーカーが、現場で働くなかで感情の揺れに関する「問い」を見つけて模索し、その後大学院に進学して感情労働についての修士論文を執筆し、修了するまでの過程を描いています。それぞれの過程で、本書のどの部分を読めばよいかも掲載しているため、まさにガイドとして活用していただければと思います。また、今後は職能団体とコラボしてワークショップも行う予定にしています。
 しかしながら、本の出版後に現場実践者の研究支援ゼミを行っている時に、次のことに気づいてしまいました。本格的な研究の実施は、大学院に進学しなければ難しいことです。なぜなら、研究は生半可にできることではなく、現場実践とは全く質の異なる作業のため、本を読んだり少々教えを請うただけでは本格的な研究能力は身につかないからです。また、それゆえにかなり辛い部分もあるので、定期的に教員から指導が受けられ、かつ、支え合える仲間がいる大学院のような環境は不可欠だと考えます。
 とはいえ、そのための第一歩としても、まずは本書に目を通していただけたら幸いです。


目次


第T部 研究の基礎
 第1章 研究することの大切さ
   ・実践のなかで疑問をもとう―問いへと開かれる研究
   ・疑問をどのように解決すればよいのだろう
   ・現場実践者が研究することはなぜ大切なのだろう
 第2章 研究活動にはどのようなものがあるのか
   ・研究活動とは何か
   ・研究活動の実際とはどのようなものか
 第3章 研究ができる環境をつくろう
   ・いつどこで誰と研究を行うのか
   ・研究資源を活用しよう

第U部 研究プロセスの実際
 第4章 研究をデザインしよう
   ・リサーチクエスチョンを明らかにしよう
   ・自分の関心についてどんな研究があるかを調べよう
   ・研究計画書を書こう
 第5章 研究の倫理・ルールを知ろう
   ・研究倫理とは何か
   ・研究倫理の実際
 第6章 データを集めよう
   ・質的データを集めよう
   ・量的データを集めよう
 第7章 データを分析・考察しよう
   ・質的研究のデータに基づき結果を整理しよう
   ・質的研究の結果の分析・考察をしよう
   ・量的研究のデータに基づき結果を整理しよう
   ・量的研究の結果の分析・考察をしよう
 第8章 学会発表をしてみよう
   ・抄録を書いてみよう
   ・学会発表を行おう
 第9章 研究論文を書いてみよう
   ・作法に則って論文を書いてみよう
   ・研究誌に投稿しよう

第V部 研究の実際
 第10章
 ・評価研究
 ・政策研究
 ・実証研究@
 ・実証研究A
 ・プログラム評価研究
 ・理論生成研究
 ・事例研究
 ・国際研究
 ・文献研究@
 ・文献研究A
 ・文献研究B
 ・歴史研究
 ・アクションリサーチ





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