萱間真美著『質的研究のピットフォール〜陥らないために 抜け出るために』、
医学書院、2013年
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内容
ピットフォールとは「落とし穴」のことだそうです。すなわち、看護師資格をもつ大学教授の筆者が、目の前で院生が落ちたことがある、または筆者もろとも落ちたことがある質的研究の落とし穴について、具体的・日常的な事象を取り上げて解説してあります。読みながら、「そうそう」と思わずうなづくところが多いのです。
例えば、「『私はどこに、なぜ、行きたいんでしょう?』というような疑問を発する人がたまにいる。しかし、その質問には、筆者は答えられない。それは、本人のみが知っていることだから。」(p.30)。これは、研究テーマの設定のみならず、将来の進路を決める分かれ目や就職活動中の学生からもたまに出てくるフレーズです。相談援助の場面では「クライエントの自己決定」という言葉を学びながら、なかなか実践できない現実。私自身も大学院に入学が決まった時、当時のゼミの先生にこんな疑問を投げかけたことがあるので、決して人ごとではありませんが。。。
「研究方法の項によく書かれているのは、ある研究方法を『参考にした』という1文だ。この書き方では透明性が確保できないと筆者は考える」(p.46)。全く同感です。たまにそんな書き方をしている院生やそのような指導をしている教員がいるのですが、私からみると無責任極まりないと思ってしまいます。その方法のどこまでをどのように参考にしたのかを厳密に書かないと、研究方法の妥当性が担保できないのではないかと思います。
というように、自身や指導院生の研究プロセスを見直すのに役立つ1冊です。文面が茶色で書かれてあったり、ところどころにおしゃれなイラストが入っていたり、最後にタスマニアの動物の写真が載っていたりと、スタイリッシュな本でもあります。
目次
はじめに
chapter 1 テーマを決めるのがむずかしい テーマが決まらない(拡散するタイプ) 質的研究なのだから、テーマは大体でOK? 文献検索はしなくていい? 理論的サンプリングをするのだから、対象は決められない? 帰納的な分析をするのだから、関連する概念の検討はいらない? インタビューガイドは1度作ればOK? データ収集の方法は、インタビューだけ? テーマを語れない(考えの枠組みが強く、柔軟性がないタイプ) 1回質的研究をしてみたかった 先生は質的研究が専門だから 現象への理解に自信がない
chapter 2 研究計画を立てるのがむずかしい 方法論の記載は、ほかの論文の通りでよいのか (質的研究はみな同じか) よく使う単語を頻回に使うが、読む側には通じない (臨床の言葉と研究の言葉の違い) 「頭の中に計画がある」と言うが、文字には書いていない 多すぎる対象設定 グラウンデッド・セオリー法を「参考にした」と書くことについて
chapter 3 むずかしくないMixed Method 古くて新しいMixed Method トライアンギュレーション型Mixed Method −研究報告書の場合など 埋め込み型Mixed Method −質的研究のある一部分として量的調査を組み込む場合など 説明型Mixed Method −調査の一部をより詳細に述べるために組み合わせる場合など 探究型Mixed Method −測定用具の開発のためにインタビュー調査を先行する場合など
chapter 4 データ収集がむずかしい フィールドが、受け入れてくれない インタビューが、うまくいかない 非現実的なスケジュール
chapter 5 分析がむずかしい テープ起こしがつらくてできない データの切片化(スライス)は正しいのだろうか 対象者の言葉を、研究者の言葉に置き換えてしまう 研究の問いに向かわない分析 大切な言葉や表現を見逃す どこかで聞いたことのある言葉 新しいことが出てこない、結果がおもしろくない 概念がばらばらな方向を向く 概念図が書けない
chapter 6 論文を書くのがむずかしい 文献検討には「同じテーマの質的研究がない」ことだけを書けばいい? 質的研究だから、研究方法は先輩のコピーでOK? 分析の方法に関しては、なんらかの数字を示したほうがいい? 定義なし概念と生データだけが並んでいる データの引用と概念が合っていない データの引用が長すぎる、切れない 考察が書けない 結果と考察が関係ない 概念図はどこまで細かく描く? 質的研究の論文を英語で発表すること
おわりに 索引
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