一部内容に触れる部分があるので、ご注意ください。(2009年3月) |
原作タイトル『納棺夫日記』(青木新門,文春文庫)
映画タイトル『おくりびと』
私が最初に青木さんの本に出会ったのは、医療ソーシャルワーカーの仕事を始めたばかりの頃でした。病院での仕事は何人もの患者さんの死と直面するもので、どうしても人の死の問題は避けて通れません。そんな時、同じ富山県出身の青木さんの本が実家にあったため読んでみました。が、その時は、こんな仕事もあるんだなぁという程度の感想でした。
それが16年経った今、原作をもとに製作された『おくりびと』は2009年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞し、一気にメジャーになったではありませんか。そこで映画を観た後に、もう一度原作を読んでみました。すると、20代当時にはそれほど感銘を受けなかった部分が、人生の後半になった今とても心に響いてきます。例えば宮沢賢治の詩や、虫が輝いて見える部分などなど。
映画でも、美しい景色や生きているもの達への愛おしさが、細やかに表現されていました。また、広末涼子演じる妻が納棺師である本木さんに「けがらわしい」と言うシーンは、一般的な人々の偏見を象徴するために入れた演出ではなく、青木さん自身が実際に妻から言われた言葉であることがわかりました。現在では随分浸透してきた仕事内容かもしれませんが、残念ながらまだまだ偏見があるのは事実でしょう。
亡くなった人に敬意をはらって送り出す納棺師という仕事が、映画や本を通じて、正しく広まればいいなと思います。
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原作タイトル・映画タイトル『闇の子供たち』(梁石日,幻冬舎文庫)
2009年3月の「今月の2冊」で紹介したように、この作品は映画も原作もかなり衝撃的です。どちらも舞台はタイで子どもたちへの虐待がテーマなのですが、本と映画では力点が異なります。そのため、同時進行の2つのお話を見ているような印象を受けました。
本では、幼児売春の問題を、これでもかというくらい繰り返し繰り返し取り上げています。その背景にあるのは、富める国の一部の人たちによる貧しい国の一部の人たちへの、また、貧しい国内部での大人から子どもへの搾取の実態です。
映画ではさらに、生きた子どもの臓器売買という生々しいテーマが扱われているうえ、主人公のペドファイルという救いのない状況が追い討ちをかけました。原作以上に、映画の主人公音羽恵子の極端な正義感も、見ていて痛々しくなりました。だから、映画を観た後はその毒気にあてられて、心が疲れてしまいました。
でも、そうだからといって避けて通ってよいテーマかと言われれば、よくないと思います。フィクションだからといって、決して看過できない現状に基づいたものだからです。
ただし、くれぐれも自分が疲れている時には触れないほうが身のためですね。そして、世界の子ども達のために何が出来るかを考えさせられる作品です。
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原作タイトル・映画タイトル『かもめ食堂』(群ようこ,幻冬舎文庫)
さて、ヘビーな映画が続いたので、次はお洒落でゆる〜い作品の紹介です。
舞台はフィンランドのヘルシンキ、日本人のサチエが日本食レストラン「かもめ食堂」を開きます。最初は全く客が来ないのですが、日本人旅行者のミドリやマサコと出会い、いろいろなメニューを考案するなかでフィンランド人のなかに溶け込んでいきます。そして、最後はいつもと変わらない平穏な日常を過ごしていくというものです。
特に、これといって大きな起伏があるストーリーではありません。また、映画では説明が省かれており、設定がわかりにくい部分もちらほらあります。でも、私はこの映画が大好きです!!!それはなぜか?
まず、自立した女性が自分なりの創意工夫を凝らしながら、マイペースで着実に成功への道筋を歩んでいること。映画ではサチエの背景は描かれていませんが、原作を読むと彼女はかなりプロフェッショナルな料理人であることがわかります。そんな彼女が、自分の腕を頼りに異国で道を切り拓いていく姿がたまりません。
次に、出てくる全てのお料理が美味しそうなこと!!鮭のロースト、おにぎり、シナモンロール、コーヒーと、全てが輝いていました。昨年食べた物のなかで一番美味しかった、デンマークのサーモンを思い出しました。また北欧の鮭を食べたいですね〜。
そして、なんといっても映像がお洒落なこと。かもめ食堂の内装から食器、サチエ達の洋服や持ち物、街の景色まで、なんてセンスが良いことでしょう。海岸でサングラスをつけた3人がリラックスしている姿を観て、「自分もやってみたい」と思ってしまいました。
原作は登場人物の背景が詳しく書いてあるため、映画を観た後に解説書的に読むと面白いです。やはり、まずは映像で観るにかぎりますね。原作には載っていませんが、映画で出てくるコーヒーが美味しくなるおまじないを、今でもたまに行っています。
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原作タイトル『三国志』(訳本は吉川英治他多数)
映画タイトル『レッドクリフ』
高校生のときから愛してやまないのが諸葛亮孔明様。三国志にはまりにはまり、吉川英治本に飽き足らず何人かの訳本を読み、「諸葛亮孔明の…」と名のつくビジネス書を読み、漫画も読み、NHKの人形劇も欠かさず見ていました。そんな三国志の最大の山場である赤壁の戦いが映画になるというのだから、見ないわけにはいきません。
そして孔明役は金城武氏。できすぎです。頭脳明晰、容姿端麗、そのうえ主君に仕える熱い心も持ち合わせているとなれば、もう言うこと無しです。
『レッドクリフpartT』は、領土と孫権軍の司令官・周瑜の妻獲得の野望を持った曹操軍と闘うため、劉備と孫権が結束して赤壁で陣を構えるまでを描いています。雄大な自然、多数の兵士、兵法の理論に則ったフォーメーションによる敵陣への攻撃等々、見所はテンコ盛りでさぞやお金がかかっていることが想像できます。ただし、長い長い三国志のほんの一部を取り上げたので、内容はシンプルかつ平坦で、迫力でここまで持っていったかという感はあります。が、一見の価値はあるでしょう。
パート1では、これから戦いというところで「後編に続く」になってしまいました。後編は2009年4月に上映されますので、この続きもまた後で…。
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原作タイトル『ブタのPちゃんと32人の小学生』(黒田恭史,ミネルヴァ書房)
映画タイトル『ブタがいた教室』
「映画に出てくる子ども達がガチ(本気)でやっている」とは、この映画を観た共同研究者の感想でした。
新任の小学校教師が命についての教育を行うため、学校でブタを飼うことを提案し、クラス全員で飼いはじめます。臭いがある、大きい、糞尿の始末をしなければならない、おまけに本来ブタはペットではなく家畜であり、いずれ食肉となる運命…。そんなブタにPちゃんと言う名前をつけたことから、ペットなのか家畜なのかというジレンマが子ども達の中にも教師の中にも生まれていきます。そして卒業式を前に、最終的にクラスがとった結論とは…。大阪の小学校での実話に基づいた映画です。
原作では、結論を出す前にクラス全員で畜産業者の話を聞いたり、食肉センターで肉になる過程を見学に行ったり、豚肉の料理を食べたりと、豊かな教育実践がなされていたことが書かれてあります。一方映画では、卒業式を前にしてPちゃんをどうするかの1点に集中して描かれており、その分、1つのストーリーとしての気迫が増している気がしました。
また、教師役は今をときめく妻夫木君であり、熱意はあるけれども周りの教師や親への説得力がいまひとつ弱く、試行錯誤しながら進んでいる新任教師をよく演じていました。欲をいえば、もう少し内面の葛藤を描いてほしかったです。
ともあれ、子どもと一緒に観て考えるには良い素材となるでしょう。私が見た日には、映画館に小学生の子連れの親子たちが沢山来ていました。
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原作タイトル・映画タイトル『容疑者]の献身』(東野圭吾,文芸春秋)
さて、前ページで『ガリレオ』の評価を書いてから早1年、ようやく『容疑者]の献身』について触れることができました。
前回はまだキャストが発表されておらず、容疑者である孤独な数学教師が一体誰なのか興味津々でした。個人的には、古田新太さんがいいなぁと思っていたのですが、実際は堤真一さんが演じていました。福山さんに堤さんという主役格同士というはどうなのよと思いきや、なかなかいい線いっていました。人生の道半ばにして家庭の事情で研究者への道を諦めざるを得なくなり、日々、坦々と数学を教えている元天才。密かに思いを寄せる母子のために、大きな犠牲(ここでは献身と表現)を払ったのに最後はそれも破綻してしまう、なんともやりきれないラストシーンでした。
エンディングで流れる柴咲コウの曲と、東京湾に降り出した雪が、いっそうせつなさを誘いました。今回はガリレオの冷静な推理というよりも、内面の苦悩が中心的に描かれていて、テレビドラマとは異なる一面が新鮮でもありました。
数年前、人から紹介されて初めて原作を読んだ後、あまりの哀しさに号泣してしまい、その時の東野圭吾さんとの出会いを皮切りに、それ以後、何十冊もの東野ワールドを堪能することになるのです。
ガリレオシリーズは、その後も『ガリレオの苦悩』『聖女の救済』(文芸春秋)が刊行され、前者の一部はテレビ『ガリレオ』のスペシャルドラマになりました。きっと後者も、何らかの形で映像化される日は遠くないことでしょう。また福山さん演じるガリレオに会える日を、心待ちにしています!!
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原作タイトル・ドラマタイトル『流星の絆』(東野圭吾,講談社)
東野圭吾作品の第二弾です。昨年の秋にドラマ化され、高視聴率を保ちました。それもそのはず、なかなかキャストが豪華です。三兄弟の長兄に二宮和也君、次兄に錦戸亮君、妹役は戸田恵梨香さん、妹が好きになる「仇の息子」に要潤さんが扮していました。三兄弟が子どもの頃に殺された両親の仇討ちのため、詐欺をはたらき画策するというものです。
しか〜し、初回を見たときに「なんだこれは?」と全身の力が抜けてしまいました。なんだかB級おちゃらけテイストになっている。それからキャストが、原作を読んでイメージしていた人とは違いました。洋食屋「とがみ亭」の御曹司で、仕事はできるが女性に免疫のない男性役は、要さんのようなクールで線の細さを感じる人よりも、ガッチリとしたスポーツマンタイプを想像していました。また、二宮君演じる長兄役も、もう少し大人で「お兄さん」タイプの人が良かったです。
そのなかにあり、戸田さんはなかなか魔性の女をよく演じていました。東野さんの一連の小説のなかでも惹かれるのは、『白夜行』や『幻夜』のヒロインのような謎を秘めた美女の存在です。その点、戸田さんの可愛くてちょっと触れると引っかかれそうな猫のような雰囲気がマッチしていました。また、子ども時代の長兄役の斎藤隆成君は、数年前に放映された『光とともに…』の頃から先日の『銭ゲバ』まで、いつ見ても演技が上手で感心させられます。
そして、随所で出てくるハヤシライスも美味しそうだっだので、全体的には良しとしましょう。
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原作タイトル『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』(筒井康隆,新潮文庫)
ドラマタイトル『七瀬ふたたび』
世は超能力ブーム、ユリ・ゲラーがスプーン曲げを行い、壊れた時計を動かしていた時に、御多分に洩れず私も「超能力少女」を目指していました。愛読書は『ムー』、毎回見ていたドラマが『七瀬シリーズ』です。もちろん「七瀬三部作」も読みました。多岐川裕美さんの儚げな七瀬と、「まるでヒヤシンスみたいに愛を知らない〜♪」というせつない歌が子供心に響き、きっといつか七瀬のような超能力者になると、自分なりの修行に励んでいました。結果はご存知のとおりですが…。
さて、そんな『七瀬』がまたドラマになり、数ヶ月前にNHKで放映されていて、何度か観ていました。黒人のはずのヘンリーを日本人が演じていましたが、七瀬をはじめ他のキャストはけっこうはまり役だったのではないでしょうか。特に七瀬の父・火田精一郎役の小日向文世さんは適役でしたね。
今回、改めて「七瀬三部作」を読んでみたのですが、人の心がわかるとは怖いことですね。特に身震いしたのは『家族八景』の最後の作品「亡母渇仰」です。生きたまま棺桶に入れられて火葬されるお手伝い先の母の意識を、七瀬だけがキャッチしたのだけれども、ここで母を助けると自分が超能力者であることが露呈してしまう危険にさらされ、七瀬はお経を唱えることしかできませんでした…。知らないほうが良いことが、きっと世の中には沢山あるのでしょう。特に人の心の裏側なぞは。
筒井康隆さんはいわずと知れたSF界の巨匠であり、シュールで大胆な傑作を数多く生み出していますが、個人的にはジュブナイルが好きです。『愛のひだりがわ』(新潮文庫)も、心温まる作品でした。
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