ここでは映画だけでなく、テレビドラマと原作との比較も行います。(2008年4月) |
原作タイトル・ドラマタイトル『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫,文藝春秋社)
横山さんは『半落ち』でブレイクして以降、今やヒットメーカーの一人に。今、本屋には『震度0』が平積みになっている、警察ドラマに強い作家です。
そんな彼の最高傑作は、なんといっても『クライマーズ・ハイ』でしょう。横山さん自身が勤務経験がある新聞社が舞台で、1985年の御巣鷹山飛行機事故の報道現場の実態を生々しく描いています。
原作は、それこそ高い山に登っていくように、主人公とそれを取り巻く苦しい人間関係や仕事の状況が展開していく様子を、一歩一歩積み重ねるように描いています。そのような中でも、主人公が最後に将来の義理の息子と一緒に山に登った時には、一気に視界が広がるようで、すがすがしさすら感じました。
2005年に放映されたNHKドラマでは、佐藤浩市さんが骨太の主人公を演じており、脇を固めるキャストもマッチしていました。新聞社の慌しくも、タバコの煙が充満している雰囲気がよくかもし出されていて、見ているこちらまで主人公と一緒に疲れを感じるドラマでした。
ただテレビでは、どうしても御巣鷹山の悲惨さが伝えきれない限界があります。頭のなかに描く「現場」は先述の『沈まぬ太陽』のイメージがあり、相当な凄まじさがあるのですが、やはり映像で描くのは難しいようです。
2008/07/25(金)
さて、今年の7月に入り映画『クライマーズ・ハイ』が上映されました。本日観に行きましたので、感想を述べます。
まず原作と映画との違いとして、主人公の子どもの性別という初期設定が違うような…。映画では男の子がいることになっており、この映画の底を流れるテーマが父子の絆ということになっています。そうなると当然原作と映画のラストは異なるわけで、映画での主人公が外国に暮らす息子に数十年ぶりに会いに行という設定よりも、今は無き親友の息子が幼なじみである主人公の娘と結婚したい旨を、主人公と一緒に登った険しい山頂で伝えるほうがドラマティックで私は好きでした。
またいささか映画でわかりにくい点は、1985年当時のストーリーのなかに点々と現在の映像が散りばめられており、同じく映画を観た人は原作を読んでいないがゆえに「話が飛びすぎてわかりにくい」と言っておりました。
とはいえ、映画ならでは迫力も出していました。最も共感したのは「昭和の匂い」がぷんぷんするところです。電話はピンクや黄色のプッシュホン、もちろん携帯など存在せず山に入ったら連絡手段がない。皆、ぷかぷかタバコをふかし、何日も泊りがけで仕事をし、よく大声で怒鳴りあう。お酒を飲んだ後にも会社で仕事をする等々。おおらかで無神経な「昭和」がそこには再現されていました。
1985年8月12日、夏休みで帰省していた私は家族と山に遊びに行き、とても楽しくて幸せだったことを覚えています。そんな1日を送った人間がいる一方で、500名以上の命が航空機事故で亡くなった事実を、今一度見つめなければならないと思いました。決して風化させてはならない事実を伝えるには、この映画は適役でしょう。
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原作タイトル・映画タイトル『世界の中心で愛を叫ぶ』(片山恭一,小学館)
「セカチュー」として若者の間で人気を博し、「泣ける映画ブーム」の火付け役となった作品です。私も泣けるかなと思って原作を読んだけれど、泣けませんでした。むしろ、懐かしいなぁというかんじ。どことなく甘酸っぱく、気恥ずかしい、そんなお話です。
映画では、大人になってからは大沢たかおさんと柴咲コウさんが、高校時代を森山未来君と長澤まさみさんが瑞々しく演じています。が、大人になってから、実は子どもの頃の柴咲さんが長澤さんと森山君の間を取り持つカセットテープの伝書鳩役だったというのは、なんだか蛇足っぽいのです。無理やり人と人との関係性を作らなくても、原作に忠実にシンプルなストーリーのままでも良かったのに、と思いました。
それにしても、いつから私はこの手の映画を観ても泣けなくなったのでしょうか。これまでに何人もの死を経験してしまい、感覚が麻痺してしまったのかもしれません…。
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原作タイトル・映画タイトル『グリーンマイル』(スティーブン・キング,新潮文庫)
『ショーシャンクの空に』に続く、スティーブン・キング作品の第2弾で、長い長いお話です。人の過去が見え、人の病んでいる部分を自分のなかに吸い込むことにより、治療できる無実の罪の黒人死刑囚が主人公です。グリーンマイルとは、処刑室へ送られる受刑者が最後に歩む緑色のリノリウムの廊下のことです。死刑囚の彼は、最後にはある人の治療と引きかえに、自らの命を差し出してしまうのです。
原作は6巻あり、読んでも読んでも終わりません。内容も繰り返しが多く、やや中だるみしそうです。映画も長いのですが、原作よりは登場人物の個性が際立っており、メリハリがあります。
映画では、永遠の生を手にした主人公が、次々と大切な人達を見送り、それでもなお一人で生きていかなくてはならない悲哀がよく描かれています。もしかすると、古今東西、人類が求めてやまなかった「不老不死」なるものは、実は寂しいことなのかもしれないということに、気づかされる作品でした。
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原作タイトル・ 映画タイトル『スタンド・バイ・ミー』(スティーブン・キング,新潮文庫)
スティーブン・キング作品の第3弾で、大好きな映画の1つです。これまた原作以上に、映画のほうがビビッドな魅力にあふれています。
行方不明になった少年の死体を捜しに、4人の少年たちが森にむかいます。心の中一杯にコンプレックスや有り余るエネルギーを抱えた少年たちは、自分たちで食事を作り、キャンプをしたり、鹿に出会ったりしながら最後には少年の死体に出会うことになります。そして、この経験が一つの通過儀礼となり、その後に友情と訣別して大人の階段をのぼっていくのです。心の奥底にこの時の経験を大切にしまいながら。
この作品に出ていた少年の一人、リヴァー・フェニックスがその後夭逝し、本当に永遠の少年たちの物語になってしまいました。
私は、今でもたまに口ずさみ勇気づけられるフレーズがあります。「So,darling,darling stand by me Oh,stand
by me Oh,stand stand by me stand by me」(by JOHN LENNON)。そう、会えなくても心の中に寄り添ってくれる人がいれば、寂しくないから…。
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原作タイトル・映画タイトル『ハンニバル』(トマス・ハリス,新潮文庫)
『羊たちの沈黙』以来、世界を恐怖の渦に巻き込んだハンニバル・レクター博士とクラリスFBI特別捜査官が主人公のミステリーです。猟奇さの度合いでは群を抜く、「カニバリズム」を扱った作品です。
今回はイタリアのフィレンツェを舞台に、レクター博士の博識ぶりが披露されています。映画では重厚な古都の雰囲気のなかで、恐怖がより一層洗練され、研ぎ澄まされた感じを受けました。特異な形での、レクターからクラリスへの愛情も表現されています。
原作でも映画でも、最後のシーンではレクターの本領が発揮されるのですが、あまりにも生々しいのでコメントは控えます。が、映画を観てからしばらくは、肉が食べられなかったことを記しておきましょう。
レクター役のアンソニー・ホプキンスは、『日の名残り』『世界最速のインディアン』など出演する名作は数ありますが、やはり『羊たちの沈黙』でアカデミー主演男優賞を受賞したレクター役が真骨頂といえるでしょう。
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原作タイトル『ゲームの名は誘拐』(東野圭吾,光文社文庫)
映画タイトル『g@me.』
『手紙』に続く、東野さんの作品第2弾。主人公がクライアントの娘を狂言誘拐し、身代金三億円を奪うというもの。まだインターネットが今ほど流行っていない頃の作品であるにも関わらず、インターネットを駆使してお金の取引を行ったり、様々な伏線を張りながらアリバイ工作をする点に面白みがある小説です。
映画では、藤木直人さんと仲間由紀恵さんが主人公とヒロインを演じていました。あれれ、原作と映画では大筋は同じなのに、ラストの仕上げ方が違うのはなぜ?原作では主人公が心地よく裏切られているのに、映画では二人の恋愛関係を軸にして、いささか後ろ髪引かれるラストシーン。
でも、どちらもエンタテイメントとしての出来栄えは高いものでした。それにしても仲間さんの美しいこと、ヤンクミとはまた違ったキラキラオーラ全開です☆
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原作タイトル『探偵ガリレオ』『予知夢』(東野圭吾,文春文庫)
ドラマタイトル『ガリレオ』
東野さんの作品第3弾。福山雅治さん演じる湯川学准教授と、原作には出てこない柴咲コウさん演じる女刑事の軽快な掛け合いが巧妙です。女刑事が出てくる以外は原作に忠実で、物理学や化学の奥深さ、面白さを描いていました。
『どんなに変人でも、ガリレオ先生のような人が大学にいたら絶対に惚れるだろうな〜』、なんて毎回ウットリしながら見ていました。そして毎回、友達と今日のガリレオはどうだったと、ドラマの後で話すのも楽しかったです。
ちなみに、今度映画化される『容疑者Xの献身』でも、ガリレオ先生の魅力を存分に見せてくれることでしょう。せつなさとトリックの巧みさという点では、東野さんの最高傑作であり、今から楽しみにしています。それにしても、数学教師役は誰なんだろう?
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原作タイトル・ドラマタイトル『華麗なる一族』(山崎豊子,新潮文庫)
いわずと知れた巨匠、山崎豊子さんの名作の一つです。『白い巨塔』『大地の子』等々ドラマ化された作品も数知れません。
2007年のTBSドラマ『華麗なる一族』は、キムタク、北大路欣也、原田美枝子、鈴木京香というキャストの華麗さでも話題になりました。
しかしなんというか、原作に比べてドラマでは「いやらしさ」が足りないのです。北大路さん演じる銀行頭取の父は、色々な欲にまみれた人間です。金銭欲、名誉欲、性欲…。原作では、したたかで存在感のある一族を描いています。ともすると、自分自身の中にあるダーティーな部分を覗かされてしまうようなトラップが、ところどころに仕掛けてあるのです。
しかしドラマのなかの登場人物は、皆あまりにも清廉潔白すぎて、さらさら・淡々としていたのが残念です。キャストの豪華さで最後まで高視聴率を保ったのでしょうね。
ちなみに、山崎さんの作品の中で衝撃を受けたのは『沈まぬ太陽』です。御巣鷹山の日航機事故を扱ったものですが、ナショナルフラッグの不祥事と労働組合が焦点のためドラマ(映画)化は難しいと思っていましたが、2008年夏に映画化の話も。ぜひ、実現することを願っています。
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原作タイトル・映画タイトル『飛ぶ夢をしばらく見ない』(山田太一、新潮文庫)
とてもせつないお話です。人生に疲れた中年男性が出会ったのは、最初は老女でした。そして、次に会った時には熟年女性になり、その次には妙齢の女性に、そして次には…。時間の流れに逆行して生きている女性と、恋に落ちてしまうのです。この世には、いくら愛し合っていても引き裂かれてしまう恋もあることを、教えてくれた1冊でした。
映画では、石田えりが変身するヒロインを、細川俊之がその人を愛してしまう主人公を演じていました。その頃でも30代前後の石田さんが10代の女性を演じるシーンは少々辛かったけど、はちきれそうな雰囲気が出ていて、よく健闘していました。
医療ソーシャルワーカー時代の行き帰りに、現実逃避がしたくて読み出した小説の1冊目がこの本でした。山田さんといえば『ふぞろいの林檎たち』『岸辺のアルバム』等々多くの名作がありますが、私にとってはいまだにこのお話がナンバーワンです。
それ以降、何十人の作家と千冊以上の本が私のなかを通っていきましたが、一番最初に読書の楽しみを教えてくれた1冊でもあります。
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原作タイトル・ドラマタイトル『人間の証明』(森村誠一,角川文庫)
「母さん、ぼくのあの帽子 どうしたでせうね? ええ、夏碓氷から霧積へ行く道で、渓谷へ落としたあの麦藁帽子ですよ」ではじまる西条八十の詩が印象的な話です。私は子どもの頃にテレビで見た、この詩と渓谷にヒラヒラと落ちていく麦藁帽子の映像が強く心に残っています。
何度も映画やドラマになったこの作品ですが、2005年にはフジテレビのドラマとして棟居刑事を竹野内豊さんが、黒人の息子を殺した容疑者役を松坂慶子さんが演じました。全ての回は見ていないのですが、森村作品に特徴的な「点→線→面」へと繋がっていく展開を、毎週小出しに見せていたように思います。また、影のある棟居刑事と華やかに活躍する容疑者を、竹野内さんと松坂さんが上手に演じていた印象がありました。そして、最後に棟居刑事が西条八十の詩を読みながら、彼女を落とすシーンは圧巻でした。
関係者の方へ、せひ今度は『人間の証明21Century』を映画(ドラマ)化してください。元職業軍人の主人公の暗さは、きっと浅野忠信さんが出してくれるでしょう。もちろん棟居刑事は竹野内さんでお願いします!!
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