川村博文著『患者とともに〜寄り添う医療ソーシャルワーク〜』、新潮社、2016年
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内容
この本、私にとっては近来稀にみる大ヒット作品でした!読みながら何度も涙し、読み終わってものすごく感動したため、思わず会ったことがない川村先生に自分の気持ちを伝えるメールを送ったほどです。
何がそんなに感動したのか。とにかく、徹底的に患者に寄り添う医療ソーシャルワーカーの姿が、どの話からもひしひしと伝わってくるのです。プライバシー保護のため加工はしてあるものの全て真実の物語であり、医療ソーシャルワーカーの仕事とはマニュアルではなく、人と人との対人援助の過程なのだということを、改めて思い起こさせてくれるものでした。
このなかには、いろいろな人が登場します。例えば、悲しい思い出とともに亡くなった水商売の女性に付き添っていた同じ店で働く女性は、筆者にむかってこんなふうに語ります。「私らは、板一枚の下はみんな海、狭い港の中で、みんな小さな船を必死に漕いでいるんだ。灯台もない、水先案内人もいないなかで、みんな自分の船に精一杯荷を積んで、ぶつからないように生きているんだ。少しは周りをみてやって、ぶつからないかどうかみて進まないと、あんたも相手も暗い海の底に沈むよ」(p.109)。だから自分は水先案内人でなければいけないのだと。そして筆者も自問します。「現代のソーシャルワーカーも考えてみてほしい。私たちも『水先案内人』でなければならないのでは」(p.113)。
ここに出てくる医療ソーシャルワーカー(ほとんどが川村先生)は、何度も何度も葛藤し自問しながらも、それでもワーカーの原点である相手のいる場所からはじめ、相手に寄り添い続けることをやめません。
「どんなときも、患者の心に寄り添い、 どんなときも、人間の価値と可能性を信じて、 わからないことは、専門職の誇りにかけて学ぶ、
これが患者とともに学んだ、医療ソーシャルワークの原点である。」(p.218)
だから私は、このなかで貫かれているソーシャルワーカーのあり方、つまり一番ソーシャルワーカーにとって大切なことを学生達に伝えていくことに決めました。医療ソーシャルワーカーに限らず、あらゆるソーシャルワーカーを目指す人たちに、現役のソーシャルワーカーに、一般の人々に読んでいただきたい1冊です。
目次
「患者とともに」出版に寄せて 児島美都子
プロローグ これからの時代のあなたたちへ
第1話 時計屋のある坂道
第2話 誰がために鐘は鳴る
第3話 水先案内人
第4話 北の国から
第5話 ダース・ヴェイダー
第6話 黄昏どきの塗り絵
第7話 小僧の神様
エピローグ
おわりに
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