2016年4月・5月・6月の3冊+アルファ 本文へジャンプ
今回は、この間読んだソーシャルワークに関連する本+アルファをご紹介します。




熊谷忠和・長崎和則・竹中麻由美編著『多面的視点からのソーシャルワークを考える〜研究と実践をつなぐ新たな整理〜』、晃洋書房、2016年


内容

 今回は、この間読んだ本のなかから、ソーシャルワークに関連するものをご紹介しましょう。
 この本は、いろいろな大学で行われる所属教員の原稿を集めて出版したもので、川崎医療福祉大学で編集されています。たまたまフェイスブックのお友達がピーアールしていたのを見て、購入しました。
 この手のタイプの出版物には、利点と欠点があります。利点としては、同じ組織に所属するため編集会議が持ちやすく、編集方針の統一が行いやすいことです。一方、欠点は2つあります。1点目は、様々な専門の人がいるために一見まとまっているかに見えるけれども、実はいろいろな方向に向いた原稿が集まってくること。これについては、タイトルが示す「多面的視点からのソーシャルワーク」(本中ではマルチシステミック・アプローチ※)という用語で、ある程度カバーされているように思いました。2点目は、幸か不幸かそれぞれの教員の研究力量が如実に表れることです。これは同じ学校の教員同士で書いた本だけでなく、これまで紹介してきた同じテーマに関して複数の人が書いた本でも同じです。が、今回は個々人の研究能力を評価することが目的ではないので、読んでいて素直に学べた部分を紹介します。

 まず、最も主題とかみ合っていて文章表現も分かりやすかったのが、「第10章 医療ソーシャルワークの技法としてのケアマネジメントの展開」(竹中麻由美著)でした。ケアマネジメントの歴史から現在の事例までが平易に書かれています。なにより、「多面的視点からのソーシャルワーク」を表す「マルチシステミック・アプローチ」(第1章)の概念を踏まえ、事例と概念のすり合わせがきちんとできている点がわかりやすいのです。残念ながら、他章の事例紹介では概念とのすり合わせができていなかったり、ずれているものが散見されるため、この章は出色の出来栄えと感じました。
 次に、挑戦的なテーマでありながら理論面での整合性を持たせてまとめられているのが、「第4章 現象学とソーシャルワーク実践、その援用の可能性に関する考察」(植田嘉好子著)です。現象学とは何か、それをソーシャルワークに援用する場合のプロセスなどが描かれています。思わず、現象学をもっと勉強したくなり、筆者が編纂している本を購入しました。
 ということで、他の章にもいろいろと意見はありますが、本学でも今年度中に全教員が書いた原稿を載せた紀要を発行するため、今回はこれくらいで。。。

※マルチシステミック・アプローチは、クライエントも1つのサブシステムであり、クライエントが繰り返し他のサブシステムと同時一体的に関係するものと考える。したがってマルチシステミックとは、ミクロレベル(個人・家族)、メゾレベル(コミュニティ、機関、組織 )からマクロレベル(文化、法律、政治、抑圧、差別)の同時一体的相互関係を内包するものである(p.4)。


目次


第1部 理論編(マルチシステミック・アプローチとは
 日本におけるソーシャルワーク研究の到達点
 マーゴリンのソーシャルワーク批評に関する考察
 現象学とソーシャルワーク実践、その援用の可能性に関する考察)

第2部 視点編(エスノグラフィーの視点とソーシャルワーク
 スピリチュアルケアの視点とソーシャルワーク
 文化的コンピテンスとソーシャルワーク
 エンパワメントとソーシャルワーク―精神障害者家族への支援の在り方に関する一考察
 ストレングス視点とソーシャルワーク)

第3部 実践編(医療ソーシャルワークの技法としてのケアマネジメントの展開―脳血管障害の高齢者を地域で支えるための地域包括ケアのあり方
 地域における子ども支援拠点の開発とソーシャルワーク―子どもの貧困問題とマルチシステミック・アプローチ
 在日外国人に対する福祉NPOの多元的な実践
 自閉症者の家族のエンパワメントを図るソーシャルワーク
 発達障害者の就労を通じた自立支援とソーシャルワーク
 学校で粗暴な行為をする秋雄(仮名)のケース(スクールソーシャルワーク)
 若年性神経難病患者の地域生活を見据えた退院援助におけるソーシャルワークの展開
 権利擁護領域におけるソーシャルワーク
 公私協働によるソーシャルワークの展開)




シヴォーン・マクリーン、ロブ・ハンソン著、木全和巳訳『パワーとエンパワーメント
クリエイツかもがわ、2016年


内容

 私が大学教員になってから最初に書いた研究論文は、エンパワーメント志向のソーシャルワーク教育についての考察・序論」 というタイトルでした。「序論」を書いたのに、その後「本論」が書かれていないという隠したい過去には目をつぶるとして、今でもエンパワーメントという言葉には素直に反応してしまいます。そのため、新聞で紹介されていたのを見て即購入しました。
 まず最初に、様々な角度からパワーが解説されています。例えば、「パワーはどのように構築されるか?」「パワーの領域」「パワーの形式」「パワーの階層」「エンパワメントとは」等々です。例えば「パワーの形式」とは「堅いパワー」と「柔らかいパワー」がある、といった具合です(p.19)。
 次に、パワーとエンパワメントがソーシャルワーク実践において、なぜ鍵になる問題となるのかが解明されています。そこでは、本質的な問いに対して次の回答を述べています。「ソーシャルワークの本質は、パワーそのものであり、……他者の生活への介入は、パワー(権力)関係のネットワークへの介入である」(p.40)。
 最後は、どうしたらソーシャルワーカーはエンパワメント概念を自分の実践に適用できるか、について展開されています。ここで大事なのは、「パワー(権力)の問題は、パワーそのものにあるのではなく、パワーの責任ある使用により、いかに成し遂げるかにある」(p.73)ということに尽きるでしょう。
 一つ気になったのは、タイトルは「エンパワーメント」なのに、本文中では「エンパワメント」に統一されていることです。私は論文で「エンパワーメント」を使いましたが、昨今の業界では「エンパワメント」が主流になっています。
 とはいえ、とても原則的な見解が述べられており、ソーシャルワーカーのみならず教員にとっても一読の価値ある本だと思いました。


目次


1 なに?
パワーとはなにか?
パワーを定義すると
パワーはどのように構築されるのか? ほか

2 なぜ?
なぜ?
なぜ、ソーシャルワーカーは、パワーとエンパワメントへの理解を発展させていく必要があるのか?
パワーとソーシャルワーク ほか

3 どうしたら?
どうしたら
エンパワメントは、願望か、現実か
ミクロ、メゾ、マクロ ほか




岩本操著『ソーシャルワーカーの「役割形成」プロセス〜「違和感のある仕事」から組織活動への実践モデル 』、中央法規 、2015年


内容

 最初にお伝えしておきます。この本は岩本先生の博士論文に基づいて執筆されたものであり、修正版グラウンデッド・セオリーアプローチが活用されているため、一定の研究方法論を学んだ大学院生や、このテーマに特に関心がある人にお勧めしたいアドヴァンスト向けの本です。そのため、学部生には厳しいと思います。
 ソーシャルワーカーが実践上経験する「違和感」を、組織(雇用され所属する機関)との関係に焦点を当てて論じています。それゆえ、本書の目的は「組織に所属するソーシャルワーカーが現実的に組織の規制を受け、ジレンマや葛藤に直面したとき、どのような視点をもち、どのように働きかけることによってソーシャルワークを具体的に展開できるのか―この問いを明らかにすること」(pp.44-45)です。
 これ以降、少し専門的な話になりますがご容赦ください。本研究で活用している修正版グラウンデッド・セオリーアプローチの分析テーマは「精神科病院のソーシャルワーカーが組織から要請される違和感のある仕事をソーシャルワーカーとして『役割形成』していくプロセス」であり、分析焦点者は「精神科病院に勤務するソーシャルワーク経験(精神科病院での経験)10年以上のソーシャルワーカー(PSW)」(p.87)と設定し、12名の調査協力者のデータを分析しています。その結果は、結果図とストーリーラインとして結論づけていますが、ここでは部分的な抽出で誤解を招くと困るので結論を書くのは差し控えます。
 私が以前行っていた医療ソーシャルワーカーの実践能力変容過程の研究では、「院内外からの要請への対応」が実践能力の向上・抑制に作用するコンテキストであることを明らかにし、現在行っている離職・退職の研究では、組織的背景が大きなことが示唆されています。その点から、学ぶべき知見が詰まった研究書だと思いました。


目次


序章 ソーシャルワーカーの専門職性をめぐる問題

第1章 ソーシャルワーカーの専門職性と自己規定

第2章 病院組織とソーシャルワーカー

第3章 ソーシャルワーカーの「役割形成」プロセス

第4章 PSWが成し得たこと―組織改革とアイデンティティ再考

第5章 「役割形成」モデルの意義と課題




円城寺雄介著『県庁そろそろクビですか?〜「はみだし公務員」の挑戦〜 』
小学館新書 、2016年


内容

 さて、ここからはプラスアルファのご紹介です。
 この本は、以前からタイトルは知っていたところ、本屋で平積みになっていたため買って読みました。
 前回『ソーシャルワーカーのジリツ』という本を紹介し、その際にCHAPTER2で「所属機関の意向や枠組みを超えてソーシャルワークを展開できる力をもったソーシャルワーカーとそれが可能になる環境が、今の日本ではどれくらいあるのかを考えさせられました。」と書いたのですが、まさに佐賀県庁職員である円城寺氏は所属組織の枠組みを超えて仕事をする公務員でした。本の内容を、出版元の小学館のホームページ(http://www.shogakukan.co.jp/books/09825257)から引用してみましょう。
 「佐賀県庁職員でありながら、行政発信の救急医療改革を全国に広める活動を続けている著者は、県庁舎の席に座っていることも少なく、『そろそろクビか?』『はみ出し過ぎ』と揶揄される毎日。それでもくじけずに目的に向かって歩いていくのは、『助けを求める人がいる』『助けられる命がある』という現実を実際に目にしているからに他ならない。自ら救急車に乗り込み、救急搬送に時間がかかるのは受けいれる病院探しのシステムが確立されていないことが原因と知った彼は、周囲の反対と冷たい目にもひるまず、県内の全救急車両にiPadを配備、病院とのネットワークを構築し、全国で初めて救急搬送時間短縮に成功する。また、協力する人がほとんどいない中でドクター・ヘリ導入に奔走し、すでに多くの命を救うことに成功している(以下、略)」。
 本のなかにはいろいろな名言も飛び出してきます。すなわち、「この人と一緒に何かやり遂げてみたい。この人と変革を共にすれば、面白い未来が待っている、という共感があってこそ、人は最大のパフォーマンスを発揮する」(p.156)、「組織の中と外に一人ずつでいいから、自分のことをわかってくれる仲間がいれば、大概の事は耐えられる」(p.158)等々です。
 自分のいる組織、立場、役割に行き詰ったとき、そこから抜け出す方法とプロセスを体感した人の経験を知っていれば、いつか何かの役に立つときが来るかもしれないと、この本を読んで思いました。ただし、行き詰まりから抜け出すには、自分自身の覚悟と勇気が不可欠であることは言うまでもありません。



目次


序章 はみだす覚悟が世の中を変える

第1章 県庁職員の知られざる日常

第2章 はみだし公務員への道

第3章 命を救う救急医療変革

第4章 地方から全国への変革

第5章 次なる挑戦

終章 はみだし公務員が伝えたいこと




 
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