今回は、ソーシャルワーカーのあり方をめぐる本を紹介します。 |
木下大生・後藤広史・本多勇・木村淳也・長沼葉月・荒井浩道著
『ソーシャルワーカーのジリツ〜自立・自律・而立したワーカーを目指すソーシャルワーク実践〜』、生活書院、2015年
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内容
ある日、面白そうなタイトルの本が大学に送られてきました。執筆者の6人とは皆フェイスブックのお友達で、私より一世代(?)下の方々です。この本のねらいは「これまで行ってきたソーシャルワーク実践を振り返りながら、読み手のみなさんに『ジリツしたソーシャルワーカーとは、われわれはこのように考えるがどうであろうか』ということを問いかける」こと(p.4)とされています。全体を読んでみての感想は、着眼点がユニークで、これからこの本の内容を足がかりにし「ジリツ」の議論が深められるのではないか、ということでした。それでは、各章毎にエッセンスと面白かった点を見ていきましょう。
CHAPTER1は、全体のなかで最も「ジリツ」という主題に迫っている、まとまりのある論考でした。インボランタリーなクライエントに対する2つの対応として、クライエント自身がその状況改善に向けて動き出すよう、積極的な働きかけや介入を行うことと、本人がその状況を改善したいと思うまで見守り、本人がSOSを出してきたときにはじめて介入することです。そしてここでは、後者のケースを例にとり「支援という営みに、クライエントの意志が介在する以上、本人の状況が多少悪くなったとしても、見守るという選択しかとりえないケースがあるのもまた純然たる事実である」(p.34)との筆者の考えを述べています。これは、ソーシャルワーカーがいつどのように介入するかを考える議論の土台になり、今後、事例の収集・分析により介入のタイミングを整理する必要があることを示唆しています。
CHAPTER2は、2つのジリツ「自律」と「自立」したソーシャルワーカーとはどのような人なのかを、筆者の視点で定義しています。「自律したソーシャルワーカーとは、自分が倫理綱領に必ずしも則れていないことを自覚的に認識できている人のこと」(p.56)で、「自立したソーシャルワーカーとは、ソーシャルワーカーとして自律していることを前提として、所属組織の日常業務に加えて、そこに組み込まれていない残りのソーシャルワーク機能を、所属機関の意向や枠組みを超えて展開できる者」(p.63)です。ということは、「自立」が「自律」の上位概念として用いられていることになります。所属機関の意向や枠組みを超えてソーシャルワークを展開できる力をもったソーシャルワーカーとそれが可能になる環境が、今の日本ではどれくらいあるのかを考えさせられました。ということで、いろいろと議論を発展させる糸口を含んだ論考でした。
CHAPTER3は、自分語りの章です。筆者自身が、学生・院生、現場実践者、専門職の養成者の立場になるにつれ、何を学びどう変わったのかを振り返って書いています。そのなかで、自身の「ジリツ」の道筋を辿っていました。私の研究テーマと近いので、親近感が持てました。親近感を持ったのは「いまではこのような教育や現任者支援という活動も、ソーシャルワーク実践だとつくづく思います。マクロなレベルに視点を挙げ、主に参加者そして研修企画を立てた人という利害関係者のニーズを考えて、集団に対して働きかけを行いつつ、個人個人に介入していく」(p.90)という点です。私自身は教員の仕事をソーシャルワークとは捉えていませんが、筆者の考えは理解できますし、福祉を教える多くの教員にとって励みになるのではないでしょうか。
CHAPTER4は、「良いソーシャルワーカーとはどんな人か」を軸に展開しています。筆者はとても正直で、自身が「養成校時代に養成テキストを参考に学習を進めてきたときに受けた打ちのめされたような感覚。現在の職場で学生が口にする養成テキストへの違和感」(p.120)を包み隠さず言葉にしています。「確かにそんなことがあるなぁ〜」と共感が持てます。そして、結論的に「『良いソーシャルワーカー』にとって大切だと考えていること。それは『自在』であること。自在とは、束縛も支障もなく、心のままであることを意味します」(p.127)とあります。「自在」とはなんて素敵な言葉でしょう!ただそれ以上は展開されていないため、「この続きはまたこんど」と言われたような気になっています。事例を交えてこの続きを書いて下さることを、切にお願いしておきます。
CHAPTER5は、ソーシャルワーカーに「専門性」は必要か、という視点からの論考です。ここでは、専門性の弊害として「専門性を身につけることは、より良い支援のために必要なことのはずです。しかし、専門性を意識して支援することで、支援は失敗し、より良い支援から遠ざかってしまう危険があるのです」(pp.136-137)とし、「当事者性を有した専門職は、死角のない支援ができると言えるでしょう」(p.151)と結論づけています。ソーシャルワーカーの有する「専門性」とは何かを考えるうえで、刺激的な提起を含んだ章でした。無知の姿勢を、従来の専門性とは異なる「新しい専門性」として位置づけていることも新鮮です。できれば、この章で書いてあることもCHAPTER4と同様に、具体的にはどのようなことなのか、そしてどうすればそうなれるのかを書いてほしいと思いました。
そしてCHAPTER6は、ソーシャルワーカーとしてジリツしていくための「評価」の捉え方を整理することが目的です。全章のなかでは最も実践のあり方に対して素直な書きぶりで、いわば直球勝負の章でした。次のような部分にそれを感じました。「私たちがクライエント(本人、家族)に対して、どれだけ丁寧に、親身に、愛情を持って、敬意を示しながら、対等な関係として関わるか、が間違いなく大事です」(p.168)、「個別化の原則は、人それぞれ感覚や条件が異なっている、ということが前提にあります。本人の人生観、……嗜好などなど。これが標準、これが間違いない、という正解がありません」(pp.178-179)。そして、「他者評価」を取り込みつつ、倫理綱領に照らし合わせつつ「自己評価」を続けていくことの必要性を説いています。この章が最後に配置されていることで、読後には前向きに取り組むための扉が開いた気分になるため、良かったのではないでしょうか。
ということで、各章それぞれに筆者の個性が現れている意欲的な一冊でした。一つ注文するならば、次回作はさらにエビデンスの裏付けと分析を掘り下げた研究書として発展させていただければいいなぁ、と思います。
目次
はじめに 木下大生
CHAPTER1 ソーシャルワークにおける「支援観」──ホームレス状態にある人々の支援の現場から 後藤広史
1はじめに
2所属機関の活動紹介
3インボランタリークライエントと二つの支援
4路上で生活するAさんの事例
5否定性の共有
6ギャンブル好きのBさんの事例
7お金の管理をやめる理由
8セーフティネット型支援とその背景にある支援観
9おわりに
CHAPTER2 ソーシャルワーカーの二つのジリツ(自律・自立)について考える 木下大生
1はじめに
2ソーシャルワーカーのジリツ
3ソーシャルワーカーの自律
4ソーシャルワーカーの自立
CHAPTER3 私はいつ「ジリツ」したのだろうか?──ソーシャルワーカーとしての自覚の芽生えと責任の育ちを振り返って
長沼葉月
1はじめに
2資格の取得に至るまで
3対人援助の場面に身を置いて
4専門職を養成する立場になって
5まとめにかえて
CHAPTER4 「良いソーシャルワーカー」について考えてみる──理想との出会いと別れ、そして付き合い方から 木村淳也
1私はダメですが、あなたはどうですか?
2良い悪い?
3本章を書いている人のこと
4福祉のテキストと難しい言葉たち
5「バイステック」ってなんだ?
6そんなの無理に決まってる
7魚の骨と身のはなし
8「良いソーシャルワーカー」へのいざない
9そして「良いソーシャルワーカ ー」とは
CHAPTER5 ソーシャルワーカーに「専門性」は必要か?──ビギナーズ・ラックとピア・サポートを手がかりに 荒井浩道
1はじめに
2専門性は高いほうがよいのか?
3誰のための専門性か?
4 専門性を問い直す
5結びにかえて──「新しい専門性」を展望する
CHAPTER6 ソーシャルワーク実践の「評価」──ジリツしたソーシャルワーカーになるには 本多勇
1ソーシャルワーカーの仕事に「正解」はあるのか
2ソーシャルワーカーの支援に対する「評価」
3ソーシャルワーク支援の「評価」を難しくさせる要素──クライエントの「生活」
4「自己評価」する、しつづける 5ジリツへ向けた「評価」のとらえ方
おすすめの本
おわりに 後藤広史
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新野三四子著『福祉マインド教育実践論』、ナカニシヤ出版、2007年
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内容
この間、福祉マインドについて話す機会があり、勉強をするために読みました。タイトルに「福祉マインド」と名がつく本は2冊あります(論文はもっとあります)。1冊は私達が出版した『高校福祉科卒業生のライフコース〜持続する福祉マインドとキャリア発達〜』(田村真広・保正友子編著、ミネルヴァ書房、2008年)で、もう1冊がこの新野先生の御本です。むしろメインタイトルに入っているので、この本こそが福祉マインドを正面から語るものだと思います。
福祉マインドとは、なんと曖昧模糊とした用語でしょうか。でも、今、インターネットで検索すると福祉マインドという用語があちらこちらに散りばめられています。福祉マインドの主体者は、@福祉ワーカー、A福祉ワーカー以外の職種の者、B市民・地域住民、C集合体・組織体(pp.164-165)と、実に様々です。
そして本書のなかで、先生は福祉マインドを4つに分類しています。@価値・倫理としての福祉マインド、A援助実践の姿勢としての福祉マインド、B専門職の条件としての福祉マインド、C援助実践の契機(大儀)としての福祉マインド(p.C)です。そして、Cの何のために援助を行うのかというワーカーを援助に向かわせるモチベーションが強調されています。
今、ソーシャルワーカーの業務範囲が広がるとともに、ある部分はボーダーレス化してきています。本来はソーシャルワーカーの業務が妥当であると考えられることも、他職種が行う例が徐々に増えてきています。そんなとき、今一度、福祉マインドとは何で、福祉マインドを持ったソーシャルワーカーを育てるためにはどうすれば良いかについて、押さえ直す必要性を感じています。そのために、学ばせていただけた本でした。
目次
まえがき
第I部 福祉マインドを探る
第1章 福祉改革とワーカー養成―市場原理と福祉マインド―
第2章 福祉ワーカー養成におけるジェンダー教育
第3章 生涯学習としての福祉実習の可能性
第II部 福祉マインドを啓く―自作教材『小説・夏子』を用いて―
『小説・夏子』
第4章 プロセスレコードを用いた対人援助学習法
第5章 利用者理解を深める実習学習の展開
第III部 福祉マインドを伝える
第6章 福祉マインド実践論 第7章 明日のワーカーたちに贈る―チャペルアワー奨励より―
あとがき
人名索引 事項索引
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空閑浩人著『ソーシャルワーク論』、ミネルヴァ書房、2016年
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内容
空閑先生の御本をこのコーナーで紹介するのは、今回で3回目です。よほど、私の研究関心や領域が似ているということでしょう。今回は、新しく出版されたテキストについてみていきます。
この本は、おそらくソーシャルワークについて初めて学ぶかそれに近い人、大学でいえば1、2年生向けの本として執筆されたのだろうと思います。一言でいえば、「読みやすく分かりやすいソーシャルワークのテキスト」です。その理由は、「ですます調」で書かれていること、既存テキストのようなカタカナ言葉のオンパレードではなく平易な日本語で書かれていること、日常の出来事や様々な本とソーシャルワークを結びつけたコラムが効果的に挿入されているためです。
特に感銘を受けたのは、『下町ロケット』(池井戸潤、小学館、2010年)を引き合いに出したコラムでした。下町ロケットの主人公は以下のように言っています。「俺はな、仕事っていうのは、二階建ての家みたいなもんだと思う。一階部分は、飯を食うものだ。必要な金を稼ぎ、生活していくために働く。だけど、それだけじゃあ窮屈だ。だから、仕事には夢がなきゃならないと思う。それが二階部分だ。夢だけ追っかけても飯は食っていけないし、飯だけ食えても夢がなきゃつまらない」。そして空閑先生は次のように問いかけます。「ソーシャルワークは、人々の、その唯一無二のかけがえのない一度の人生にかかわる営みです。そのなかにたくさんのやりがい、魅力、喜び、そして夢、すなわち『二階部分』がある仕事だと思います。ソーシャルワーカーの仕事の『二階部分』……あなたもぜひ、たくさん見つけてください」(p.164)と。とても明るい呼びかけだと思いました。
この本なら、安心して1年生のソーシャルワーク総論の参考図書にできそうなので、さっそく4月に配布する参考図書リストに加えることにします!
目次
はじめに
序章 ソーシャルワーク(社会福祉援助)の体験
第1部 ソーシャルワークを知る
第1章 ようこそソーシャルワークの世界へ
第2章 ソーシャルワークって何?
第3章 ソーシャルワークが必要な理由
第2部 ソーシャルワークの実際
第4章 さまざまな領域でのソーシャルワーク
第5章 ソーシャルワークを実践する人々
第6章 ソーシャルワークの歴史と発展
第7章 ソーシャルワークの定義と方法
第8章 ソーシャルワークの過程と価値・倫理
第9章 援助関係と権利擁護
第10章 ソーシャルワークの専門性
終章 そしてあなたも「ソーシャルワーカー」に
資料編
参考文献
あとがき
さくいん
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