2015年10月・11月・12月の4冊 本文へジャンプ
今回は冬休みに読みたい4冊をご紹介します。



酒井邦嘉著『科学者という仕事〜独創性はどのように生まれるか〜』、中公新書
、2006年


内容

 秋から冬にかけて仕事に追われ、あっという間に月日が流れてしまいました。そしてとうとう年末となり、「三か月分の本の紹介をしなきゃ!」と慌ててパソコンに向かっています。
 今年は、若手研究者の研究計画を見たり指導をする機会が格段に増え、自分のことよりも多く時間を割いたといっても過言ではない状況でした。そこで、研究力とは何かを考える機会を持ちました。それは研究を遂行し、一定の質の成果を出していく力のことですが、目に見えないものです。そのため、どうすれば身につくのか、また伸ばせるのかは難しいところですが、ひたすら自分のテーマを追い求め、調べ、考え、書き、討論し、人から意見をもらい、人を模倣し、オリジナリティを見出していくというところでしょうか。
 今回は、そんなヒントをもらえる2冊と、今年読んで感銘を受けた2冊(正確には3冊)をご紹介します。

 まず最初は酒井先生の本で、科学者(研究者)という仕事はどうあるべきかを書いています。私の上記の疑問に応えてくれる印象的な部分が何カ所かあるため、ご紹介します。
 「研究者をめざす多くの人は、『何を研究するか』(what)が一番大切だと思うかもしれないが、その前に『どのように研究するか』(how)という問題意識の方がより重要だと私は考える。科学的な発想や思考、問題を見つけるチャンスから始まって、理論的な手法や実験的な手技に見られる基本的な勘所は、すべての分野に共通している。その意味で、『どのように研究するか』という考え方や方法論をしっかり身につけておけば、どんな分野の研究でもできることになる」「『どのように研究するか』は、言い換えれば模倣の段階である。そして、『何を研究するか』は、創造の段階に対応する。すでに述べたように、この順番が大切だ。『一に模倣、二に創造』である」(pp.45-46)。
 また先生は、研究者には「運・鈍・根・勘」が必要と言っています。鈍については、@先があまり見えない方が良い、A頑固一徹、Bまわりに流されない、C牛歩や道草をいとわない(pp.59-60)ことが大切ということでした。そして研究者に必要な能力は「知力・体力・精神力」(p.89)とういうことです。納得することしきりでした。
 自分自身が研究者を続けながら、研究者を育てること。なかなか両立は簡単ではありませんが、せめて模倣してもらえるような姿を示したいものだと思っています。



目次


第1章 科学研究のフィロソフィー―知るより分かる
第2章 模倣から創造へ―科学に王道なし
第3章 研究者のフィロソフィー―いかに「個」を磨くか
第4章 研究のセンス―不思議への挑戦
第5章 発表のセンス―伝える力
第6章 研究の倫理―フェアプレーとは
第7章 研究と教育のディレンマ―研究者を育む
第8章 科学者の社会貢献―進歩を支える人達




公益社団法人日本動物学会近畿支部編『すばらしい論文を書くための秘訣〜大学院生と若手研究者への助言〜、ブックウェイ、2014年


内容

 この小冊子は、2013年に行われた公益法人日本動物学会近畿支部研究発表会において行われた、英語による学術論文指導をされている中島エリザベスさんの特別講演の内容を取りまとめたものです。日本動物学会という、私にとっては全く未知の領域ではありますが、内容は福祉分野でも共通することでした。
 なかでも、自分の成果を他者に話すことの必要性に焦点を当ててみていきます。中島先生は、すばらしい論文を書くための三つの秘訣として、@自分の成果を繰り返し口頭で発表し、議論を重ねること、A論文に載せる考えやデータのアウトラインを作成すること、B論文の文章を繰り返し書き直すこと(p.4)を提唱しています。そのなかで、なぜ自分の研究についての頻繁な口頭発表と議論をするのかについては、以下のようにまとめています。「・話すことと聞くことは、経験したことや考えを伝えあう、もっとも基本的で自然な方法である。・書くことは自然ではない。書くことは、考えを伝えるための特別なスタイルの非常に凝縮された方法である。・したがって、まず、自分の研究について自然に話し、聞くことから始める必要がある。」(p.7)。
 さらに、自分の研究について他人に話すとどんなよいことがあるのかについては、以下のとおりです。「・相手が理解できるように自分の研究の流れを話すよう努力することになる。・相手が質問をし、それによってあなたは自分の話の流れにおいて何が不明瞭かを知ることになる。・相手は異なる考えをもっているので、自分の研究についての新しいアイデアを得ることになる。」(p.8)。
 まさに研究とは社会的営みであり、独りよがりの自己満足では通用しないことがわかります。いろいろな人と話をして、揉まれて、磨かれるから質が上がるのですね!
 


目次


はじめに
1 学術論文を書くことの重要性
2 すばらしい論文を書くための三つの秘訣
 2.1 自分の研究について 頻繁に口頭発表し議論を重ねる
 2.2 論文に掲載するアイデアとデータのアウトラインを作成する
 2.3 論文の文章を繰り返し書き直す
3 科学的な校閲―校閲者が訂正すべき間違い
4 論文を書く能力を高めるさらなるヒント
 4.1 質の高い学術雑誌の論文を定期的に読む
 4.2 サーチエンジンを使う
 4.3 ビデオを見て文や段落を改良する
 4.4 本を読んで作文能力に磨きをかける
5 最後の助言
英語の原文




ヤマザキマリ著『国境のない生き方〜私をつくった本と旅〜、小学館新書 、2015年


内容

 さて、ここからは私が好きな2人の女性が書いた本をご紹介します。
 一人目はヤマザキマリさん。漫画『テルマエ・ロマエ』の作者、と言ったらわかりやすいでしょうか。彼女の半生を綴ったエッセイなのですが、とにかく生き様が破格で素晴らしい!の一言に尽きます。
 ヴィオラ演奏者の母をもつ彼女は、14歳で欧州一人旅、17歳で絵描きになるためのイタリア留学、27歳でイタリア人との間に子どもを儲けるも、恋人と別れて息子を出産、そして日本への帰国後に漫画家デビューを果たし、10足のわらじをはく生活を7年続け、13歳年下の比較文学研究者の夫と結婚しシリア、ポルトガル、アメリカを経て現在イタリア在住。そんなぶっちぎりの生き方を貫いている彼女は、「現住所・地球」と言ってのけます。「単純に地球があって、太陽があって、この環境の中で生きていける生命体として、私たちは命を授かったのだから、まず『生きてりゃいいんだよ』。これが基本。生きてていいから、生まれてきたんですよ。それなのに、なぜ生きているのかとか、仕事がどうとか、人間関係がどうだとか、私にいわせれば、そんなものは、あとからなすりつけたハナクソみたいなものです」(p.252)。なんという豪快さ、なんという潔さ!
 また、次のところが好きでした。「旅に出て、自分のことを誰も知らない場所に身を置くと、そのことがよく実感できます。それまでの経験や価値観が通用するかどうかもわからない場所で、人は自分を試される。ましてそれがひとり旅なら、何かをするたびに自分で判断しなければならないもので、まっさらな場所で『お前は何者なのか』と問われているような気持ちになるはずです。そうやって自分で考え、自分で感じ、自分の手と足を使って学んでいくことを『経験』と言うのだと思います。囲いの外に出なければ、血肉となるような経験は得られないでしょう」(pp.57-58)。旅でなくても、生きていくことそのものに置きかえられると思いました。家族や友人がいても、やはり最後は自分自身が考え、判断して生きていかなければならないことは同じです。
 私にはヤマザキさんのような生き方は到底できません。が、だからこそ惹かれてやまないものがありました。

 


目次


第1章 野性の子
 (本の虫/「旅する主人公」になりたかった ほか)
第2章 ヴィオラ奏者の娘
 (審美眼を持つことの大切さは『暮らしの手帖』で教わった/他人の目に映る自分は ほか)
第3章 欧州ひとり旅
 (「自由に生きる」ってどういうこと?/十四歳のヨーロッパひとり旅 ほか)
第4章 留学
 (『フランダースの犬』暮らし/「ガレリア・ウブバ」の人びと ほか)
第5章 出会い
 (パゾリーニの洗礼/教養に経験を積ませる ほか)
第6章 SF愛
 (SFの国/超常現象に胸をときめかせた七〇年代 ほか)
第7章 出産
 (母になったのは/人生最悪の時だった ほか)
第8章 帰国後
 (一〇足のわらじ/移動して生きることえをデフォルトに ほか)
第9章 シリアにて
 (『千夜一夜物語』/シリアで暮らしてわかったこと ほか)
第10章 一九六〇年代
 (青春の作家・三島由紀夫/音楽喫茶「ウィーン」と雑誌『ビックリハウス』 ほか)
第11章 つながり
 (『思い出のマーニー』と母/ここではないどこかとつながる ほか)
第12章 現住所・地球
 (気持ち悪い果実/ネコ、サル、けもの ほか)





群ようこ著『パンとスープとネコ日和 』、角川春樹事務所、2013年・群ようこ著『福も来た』角川春樹事務所、2014年


内容

 そして最後は、より私の実生活に近い&とても感性にフィットした群さんの本です。群さんは『かもめ食堂』で有名ですが、それ以外にも沢山のエッセイや本を書いています。ゆる〜い空気感が今の私にはとても心地よく、今年読んだなかでのヒット作品。WOWOW連続ドラマのDVDも買いました。
 唯一の身内である母を突然亡くしたアキコさんが、永年勤めていた出版社を辞め、パンとスープのお店を開きます。そんな彼女の元にネコのたろがやってきて、同居生活が始まります。『福も来た』はそのお話の続編です。
 さて、ここからは私が好きなポイントを書きます。
 @食べ物が主題である。もうこれだけで私のツボにはまっています。このホームページで何度も書いていますが、私は実際に食べることよりも食べ物の写真や食べ物の描写が大好きです。頭で想像するだけで満足するのです。そんな描写が満載。特にサンドイッチとスープのお店という、ゴールデンコンビです。描写の一部を書き出すと…「はじめての休みの日の朝食は、それらの少しずつ余った野菜と豆腐を使った。具だくさんの味噌汁、こぶりな鯵の干物、ご飯になった。豆腐は見せで出した、水切りした豆腐にオリーブオイル、にんにく、レモンを搾った汁などで作るスプレッドを作ったときに余ったものだ」(パンとスープ、p.92)。

 Aネコが出てくる。ネコが好きな私にとって、ポイントが高かった点です。今は外泊する機会が多いためネコは飼えませんが、老後の目標の一つはネコを飼うことですから。
 B女性の日常を楽しいことも葛藤も含めて描いている。日常生活に潜むドラマが描かれており、ジワジワと心を揺り動かすのです。『かもめ食堂』とよく似たコンセプトなので、あの世界が好きならこの作品もきっと好きになるに違いありません。ちなみに、DVDの主演は『かもめ食堂』でも主演した小林聡美さんです。

 ということで、冬休みにほっこりと温かい気分になりたい方にはお勧めの作品です〜♪





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