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今回は、関連領域の興味深い本をご紹介します。


 鈴木翔著『教室内カースト』、光文社新書、2012年


内容

 書評を読んで興味をそそられ、読んでみました。スクールカーストとは、同学年の児童や生徒の間で共有される「地位の差」のことであり、インドの伝統的な身分制度になぞらえたものです。著者が名付けたのではなく、メディアや教育評論家の間でそう呼ばれているそうです。
 この本が秀逸なのは、誰もが皆経験したことがある学校内での目に見えない階級制度、通常は正体不明だけれどもなんとなく息苦しく感じる「縛り」について、多様な調査を通してあぶり出し可視化した点です。特に興味深かったのは、生徒側の声だけでなく教師側がスクールカーストをどのように捉えているのかをインタビューしている点です。教師はスクールカースト上位の生徒について、「自己主張して目立つ生徒」「カリスマ性があって、雰囲気を和やかにできる」「生きる力がある」等と見ており、一方、下位の生徒について「やる気がない」「長いものに巻かれているだけ」「積極性がない、向上心がない、楽している」等と捉えていました(第5章)。そして将来が不安だとも。。。
 スクールカーストについて、このように教師は「能力の高さ」を軸とする「能力」のヒエラルキーだと解釈し、生徒は「権利の多さ」を軸とする「権力」構造として解釈していることがわかりました。
 でも、私のように何度も学校を遅刻したり、補導されたり、教師から殴られた「下位の生徒」が化けることもあるのだから、教育現場では下位の生徒にそんなきっかけを沢山提供してほしいものですね。「絶対に未来をあきらめるな!」と言いたいです。


目次


はじめに
第1章 「スクールカースト」とは何か?
第2章  なぜ今、「スクールカースト」なのか?
第3章 「スクールカースト」の世界
第4章 「スクールカースト」の戦略
第5章  教師にとっての「スクールカースト」
第6章  まとめと、これからのこと
あとがき
解説/本田由紀




山崎啓支著『マンガでやさしくわかるNLPコミュニケーション』『マンガでやさしくわかるNLP』、日本能率協会マネジメントセンター、2013年、2012年


内容

 以前、ソーシャルワーク理論の本NLPすなわち神経言語プログラミングを勉強したことはあるのですが、なんとなくよくわからないままになっていました。それが、書店でこの本を見て『マンガだ!』と飛びついたのです。
 確かにわかりやすかったです。2冊の本はスーパーの社長とカフェの店長に転身した主人公がNLPを活用し、部下達とよい関係を形成していくお話でした。そして、そんなに肩に力を入れなくてもいいんだということがわかりました。だって、日頃、私が教えているコミュニケーション理論の応用編だったからです。例えば、「コミュニケーションにおける二重のフィルター」(p.92)なんて、教えていることそのまんまでした。また、全てがマンガではなく文章や図による解説が入っているので、復習しながら読み進めることができます。
 とはいえ、きっとこれも前回紹介した『深く伝える技術』と同じように、小手先のコミュニケーションだけの問題ではないのでしょうね。それ以前の考えや姿勢、人間性といった諸々のものがコミュニケーションの基本になるのだから、ただ単にNLPの技法をマスターすればよいわけではないと感じました。


目次


■Prologue NLPとは?
Story0 杏里、スーパーの社長になる!?
■Part1 コミュニケーションとは?
Story1 私の言葉はなぜ通じないの?
■Part2 ミスコミュニケーションを防ぐには?
Story2 あなたの問いかけは質問? 詰問?
■Part3 コミュニケーションのための言葉の使い方
Story3 「僕は部長に嫌われている! 」
■Part4 八方ふさがりの頭の中を解きほぐす
Story4 「力不足」は誰のせい?
■Part5 相手の無意識に働きかける方法
Story5 社長を辞めるの?続けるの?



冨山和彦著『結果を出すリーダーはみな非情である〜30代から鍛える意思決定力』、ダイヤモンド社、2012年

内容

 大学院時代の恩師が新聞紙上でこの本を推薦しており、タイトルが気になり買ってみました。
 この本の目的は「気概ある若手・ミドル世代に、人間のダークで醜い部分を含め、現実経営で『実行力』となるリアルなリーダーシップ、リーダー力の鍛錬・習得の要諦を伝えること」(p.1)とされています。そして、リーダーに不可欠の条件で外せないのは「合理的思考」力であり、若いうちから意識的に訓練して強化したほうがよい、という課題意識のもとで書かれています。様々な場面で中間(末端)管理業務を担う私にとって、興味深い記述が多かったです。
  例えば、以下のような記述に大きく頷きました。「ミドルマネジメントになったら社長になったつもりで判断し、行動しておかないと、将来社長になったときに何も決められなくなってしまう」(p.37)、「古い仕組みが末期を迎えているならば、新しくつくり直さなくてはならない。それを実行するのは若い人たちであり、若い人たちが自分の好きな日本をつくればよい」(p.64)、「中間管理職の人たちは、こういう流動性の高い時代だからこそ、部下の育成に真剣にエネルギーを投入すべき」(p.81)、「ミドルマネジメント世代よ、まだ間に合う。徹底的に頭に汗をかき、考えて考えて、考え抜け!」(p.155)。
 はい、頑張ります!何年か中間管理職を行ってきたなかで、ようやくマネジメントがなんたるかが実感でわかるようになってきた今の私にとって、まだまだ経験値が足りないことは明白です。管理職としての自己を鍛える道のりは始まったばかりであり、この本から沢山の叱咤激励を受けました。


目次


はじめに
第1章 なぜ若いうちからリーダーシップが必要なのか
時代を動かすのは課長クラスの「ミドルリーダー」である
上下から1次情報が集まる強みは大きい
名君は下っ端をうまく使う
トップリーダーと現場リーダーの違い
現場が権力を握ると会社はつぶれる
ただのミドルマネジメントとミドルリーダーを分けるもの
逃げ場の多い中間管理職の覚悟
ストレスの中で学ぶリーダーシップのリアリズム
上司も社長もチームメンバーとして“使う”
中間管理職教育のワナ──リーダー型「経営職」育成プログラムのススメ

第2章 現実を直視する 日本と日本企業と「ニッポンの課長」の命運
企業は寿命を迎える
悲惨な老後を迎えないために
優秀なやつほどリスクを取る──ニッポンの「課長」に明日はない!?
格差が広がる本当の理由──国もカイシャも耐用期限切れ?
国も企業も最大の害悪は格差の固定化
カネは人を幸せにするか──これからのミドルリーダーは「カネと人間」の問題から逃げるな

第3章 リーダーシップの条件1 論理的な思考力、合理的な判断力が不可欠である
情緒的直感は人を殺す
合理的思考とはリアリズムの思考
ミドルリーダーが「合理」と「情理」の矛盾、相克に立ち向かう方法論
サンクコストに重きを置きすぎない──英霊20万人のために犠牲になった300万人
サンクタイム≠ヘもっと危険──日本企業がテレビから撤退できない理由
社長のような課長になれ──トンボとアリの視点を持つ
リーダーシップには度胸が不可欠──度胸の必要条件とは?
私が大企業に就職しなかった理由
コラム:日々のニュースで合理的思考を訓練する法

第4章 リーダーシップの条件2 コミュニケーションは情に訴え根負けを誘う
しつこく根負けを誘うのが王道
訓練としての論争・論駁の重要性
実践としての論争・論駁のリスク──改革派が分裂し、守旧派は団結する理由
デジタル・ネイティブ世代の行動様式を理解する
英語の呪縛から解き放たれる

第5章 リーダーシップの条件3 実戦で役立つ戦略・組織論を押さえる
マネジメントリーダーの必須科目──その第1は事業の経済構造を理解すること
経済構造の変化を見定める──日本の半導体産業が敗れた理由
「引き算」の戦略思考──「あれもこれも」から「あれかこれか」へ
組織論とは人間学
常に「与党」の立場で考え、行動せよ
真のグローバル&アウェイ型を目指せ
これからの「カイシャのかたち」を考える
ブレーキが必要な組織とアクセルがない組織──欧米と日本のガバナンスの違い
実質的な意思決定に必要なのは3人だけ──少数のトップリーダーとミドルリーダーで会社を回せ
戦略は組織に従う──トップリーダーとミドルリーダーは共闘せよ
トップレベルの権力構造を知っておこう──株主主権? 取締役会主権? ステークホルダー主権?

第6章 リーダーシップの条件4 評価し、評価されることの本質を知る
「成果」と「能力向上」は切り分けて捉える
コミットして取り組んだか? 負けっぶりはよかったか?
下から見たほうが人間の本質はよく見える
薄情けは人のためならず
善人は人を不幸にする
ケミストリーから入るのが一番危険──その背景にある人間の性格、価値観を洞察せよ

あとがき

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