今月の2冊・2008年5月


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今月からは2冊の本をご紹介します。1冊は専門領域、もう1冊は隣接領域の本です。

フランシス・J.ターナー(編集),米本秀仁(翻訳)『ソーシャルワーク・トリートメント―相互連結理論アプローチ〈上〉〈下〉』 、中央法規出版、1999年


内容

 ソーシャルワークにおける諸理論を、網羅的に紹介してある1冊です。
 この本に出会った当初の感想は、「厚い、高い、スゴイ!!」というもの。医療ソーシャルワーカーの頃にキチンと理論を勉強・活用して援助をしていれば、もっと違った結果になったかなと思いますが「後悔、先に立たず」…。
 本を購入した当初はサラサラと興味のある理論に目を通しただけでしたが、今回、現場の医療ソーシャルワーカー2人とこの本をテキストにした理論の勉強会をはじめて、じっくり読んでみると、理論ってなかなか面白いことに気づきます。特に、この理論を現場実践に当てはめるとどうかと具体例を挙げると、理解度が深まりますね。 
 ただし、この本だけでは十分ではないため、私たちも各自が関連した文献を持ち寄って内容を深めるようにしていますし、この文献を基本にしつつも他の文献でさらに深めるのがお薦めです。
 たまに、納得がいかない和訳が出てくるので、次回からは原本と見比べる予定で、それがまた面白そうです。(少しオタク的ではありますが…)
 
目次

<上巻>

第1章 理論とソーシャルワーク・トリートメント
第2章 先住民の理論
第3章 行動理論
第4章 クライエント中心理論
第5章 認知理論
第6章 コミュニケーション理論
第7章 構築主義
第8章 危機理論
第9章 自我心理学理論
第10章 エンパワーメント・アプローチ
第11章 実存主義
第12章 フェミニスト理論
第13章 機能理論
第14章 ゲシュタルト理論



<下巻>

第15章 催眠の利用
第16章 ライフモデル理論
第17章 唯物論的フレームワーク
第18章 瞑想
第19章 物語理論
第20章 神経言語プログラミング理論
第21章 問題解決理論
第22章 精神分析理論
第23章 心理社会的理論
第24章 役割理論
第25章 システム理論
第26章 課題中心
第27章 交流分析理論
第28章 超個人心理
第29章 トリートメントのための相互連結的視野



ドナルド・ショーン著、佐藤学・秋田喜代美訳『専門家の知恵〜反省的実践家は行為しながら考える』ゆみる出版、2001年


内容


 専門家には2つの像があります。一つは「技術的合理性」にもとづく「技術的熟達者」、もう一つは「行為の中の省察」にもとづく「反省的実践家」です。
 そして、ソーシャルワーカーは後者に該当します。「反省的実践家」は、クライエントが抱える複雑で複合的な問題に「状況との対話」にもとづく「行為の中の省察」によって対処するのです。しかしながら、「行為の中の省察」に留まらず、「行為の後の省察」「行為についての省察」もそこに含まれます。
 私はこの三つの省察を、実践に即して考えてみました。すなわち「行為の中の省察」とは、ソーシャルワーカーが自らが関わってきた実践過程について、実践を行いながらも常に振り返って見直し続けること。「行為の後の省察」とは、実践後に記録をつける等により後から実践を振り返ること。そして「行為についての省察」とは、事例検討等自らの実践行為について相対化するなかで何かを発見することです。
 ソーシャルワーカーは、複雑な状況について常に判断し続ける実践家であり、自己との対話が不可欠な実践家であるからこそ、自分自身にも、自分の周りの状況にも豊かな感受性をもって関わっていく必要があることを、改めて教えてくれる1冊です。



目次


T「技術的合理性」から「行為の中の省察」へ
支配的な実践的認識論
技術的合理性の起源
技術的合理性の限界への気づき
行為の中の省察(Reflection-in-Action)

U実践家のための示唆と社会における専門家の位置
専門家とクライアントの関係
研究と実践


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