2012年5月・6月の3冊+東京スカイツリー開業記念!! 本文へジャンプ
今回は、研究方法と研究倫理に関する3冊です。

 須藤康介・古市憲寿・本田由紀著『文系でもわかる 統計分析』、朝日新聞出版、2012年


内容

 博士論文が一段落したので、次なる研究テーマに取り組もうと方向性を設定しました。そして、どのようにそのテーマにアプローチするかを考えており、いろいろな研究方法に関する本を読んでいます。その中で出会った本を紹介します。
 この頃では、量的研究と質的研究をあわせて行い、複合的に結果の検証を行うMixed-methodの研究が見られるようになってきました。大谷京子著『ソーシャルワーク関係〜ソーシャルワーカーと精神障害当事者〜』(相川書房、2012年)などは、その優れた例でしょう。でもこの本の紹介は次回以降にまわし、今回はまずは量的研究と質的研究方法に関する本の紹介をしましょう。

 私は数学が苦手です。あの数式の配列を見るだけで、アレルギー反応がでてしまいます。自分としては「出来た!!」と思った共通一次試験(当時)の数学で大失敗し、点数が伸びずに号泣しました。それ以来、数学に触れることをせず、いつの間にか今に至っています。
 そんな私が意を決して、一度だけ郵送調査の結果をカイ二乗検定で分析したことがあります。最も基本的な統計分析だと思うのですが、再び使うには勉強をしなおさなければいけません。でも、そんな私にも原理や道筋が分かりやすく書かれているのがこの本です。
 東京大学教育学部・比較教育社会コースで統計分析を行った論文で博士号を取った須藤さんと、統計のことがほとんどわからない今をときめく古市さんが、対談形式で多様な統計分析方法について説明しています。さらに、これまた教育社会学者として有名な本田由紀先生が随所でコラムを書いています。本のタイトルどおり「文系でもわかる」を目指した統計分析の入門書です。
 クロス集計、相関分析、分散分析、重回帰分析、ロジスティック回帰分析等々とその内容は幅広く、よく「入門書」と書いてあるために買ったけれども、内容は数式のオンパレードという本とは、確かに違うと思いました。ただし、SPSSを活用しつつ解説を読まなければわからなくなるので、自分でSPSSを操作しながら学ぶと効果的だと思います。次回はこの本をテキストに、量的研究にチャレンジしようと考えています。

 

目次

序章 統計分析にようこそ
第1章 クロス集計の基礎
第2章 クロス集計の応用
第3章 相関分析
第4章 分散分析
第5章 重回帰分析
第6章 ロジスティック回帰分析
第7章 多項ロジスティック回帰分析
第8章 交互作用の検証
巻末対談



小田博志著『エスノグラフィー入門〜<現場>を質的研究する〜』、春秋社、2010年


内容
 
 さて、そんな文系の私は、やはり質的研究と聞くとホッとします。これまでは、生活史調査、事例検討、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチと、質的調査が中心のアプローチが多いのが現実です。そして、いつかフィールドワークをしたいという夢は、今も持ち続けています。
 そんななかで出会ったのがこの本です。エスノグラフィーとはよく耳にする用語ですが、正確な意味を述べよと言われたらどこか曖昧だったのが正直なところ。「エスノ」だから、文化人類学や民族学だけで使われている方法かと思いきや、社会学、心理学、教育学、看護学、経営学、歴史学などもっと幅広い領域で活用されていることがわかりました。もちろん、福祉も含まれます。
 筆者はエスノグラフィーという言葉を「人びとが生きている現場を理解するための方法論」(p.5)と定義しています。そして、次のようなエスノグラフィーの7つの特徴を挙げています。@現場を内側から理解する、A現場で問いを発見する、B素材を活かす、Cディテールにこだわる、D文脈のなかで理解する、EAを通してB、F橋渡しをする。ああ、これだけでも魅力的〜♪
 ただし、やはりこの方法を活用する際にも、優れた先行研究を参考にしつつ、数回は先人からのスーパービジョンを受けた方が良さそうです。なぜなら、この本に掲載されている筆者や大学院生が書いた論文例は、あまりにもスムーズに読めるため、一見簡単かのような錯覚に陥りそうなのですが、実はこの方法独自のコツやポイントがあるからです。
 ぜひ使ってみたい方法の一つです。
 


目次

1 エスノグラフィーとは
2 実例から学ぶ
3 エスノグラフィーのプロセス
4 現場を選ぶ
5 マナー・倫理・安全
6 現場に入る
7 概念力をきたえる
8 研究計画を立てる
9 現場調査をする
10 分析する
11 発表する
12 社会へとひらく
実例 ミニエスノグラフィー
付録



安藤寿康・安藤典明編『事例に学ぶ 心理学者のための研究倫理 第2版』、ナカニシヤ出版、2011年


内容
 
 さて、以上のような量的・質的研究を進めるにあたって留意しなければならないのは、研究倫理です。数年前から研究発表や論文執筆の際には、一言研究倫理を遵守していることを明記するのが、研究の品質保証の必須要件になっています。
 かく言う私も、つい最近、この点に関して嫌〜な濡れ衣を着せられました。論文を投稿した先から中味の検討をしないうちに「二重投稿」ではないか、との疑いをかけられたのです。これは心外と、二重投稿とはどのような状態かを様々な学会の倫理規定で調べてその根拠を示し、私の論文は二重投稿にあたらない旨と、以前に公表した2つの学会誌論文とこの論文はどこがどう異なるのか、という対比表を作成して送りました。その結果、二重投稿疑惑は晴れ、論文も採用していただきました。が、つくづく研究倫理に関しては、慎重であらねばならないことを肝に銘じた次第です。

 そんな出来事があり、研究倫理に関する関心が高まっている折に、この本を読んでみました。心理学研究と社会福祉研究とは性質が異なるとはいえ、人間を研究対象にする点では共通すると思いました。
 各トピック毎に実例やコラムが掲載されており、わかりやすいのに加え、随所で思わずアンダーラインを引いた名言が見られました。例えば、「不自由と呼べる状態や制約、抵抗があるからこそ、逆に自由というものが可能になる。倫理規範があるからこそ、それに守られ、自由な研究ができるのである」(p,10)。「倫理問題は等しく、全員のことであり自分のことである」(p.21)。「倫理教育は非常に大事なことですが、基本的には社会人としての常識や自分がかかわる対象に対しての敬意があれば守れるはずのことであると思います」(p.27)。「倫理問題についてうぶであること自体が、反倫理的である」(p.51)等々、挙げたら際限なく出てきます。
 いずれにしろ、社会福祉研究でもさらに研究倫理を明確に掲げ、意識し、遵守することが不可欠であることは言うまでもありません。


目次

序章 研究者倫理とは何か

第T部 研究協力者・参加者に対する倫理
第1章 研究についてどう伝える?
第2章 どこまでやって許される?
第3章 報告はどうすればいいの?
第4章 プライバシーはどう守られる?)

第U部 研究者に対する倫理・発表時の倫理
第5章 研究者とどうつきあったらよいのか?
第6章 人のものを借りるには?
第7章 研究結果をいかに表現するか?
第8章 論文はどのように審査されるのか?




東京スカイツリー開業記念!!

 2012年5月22日に、東京スカイツリーが開業します。自称「スカイツリーの周囲を最も多く歩いた社会福祉研究者」である私の、ささやかな開業記念として、スカイツリーに関連する本の紹介とこれまで撮った写真の一部を公開します。
 ちなみに、なぜ私がスカイツリーの周囲を最も多く歩いた社会福祉研究者かと言うと、2011年度の研究休暇期間の4月〜10月までのほぼ毎日、墨田区の自宅から徒歩5分のスカイツリーの周囲を30分かけて散歩をし続けたからです。多い日には、2回まわった日もあります。11月からは隣の台東区に引っ越してしまったので、残念ながら月1回程しか周囲を歩けていません。でも今は、上野・浅草の町を満喫しています。
 スカイツリーの建設中には、いつも「上を向いて がんばろう日本」という横断幕を見て、自分の状況を重ね合わせながら、自らを奮い立たせていました。こんなにも建造物に愛着を持ったのは、生まれて初めてです。
 これからも、日本と下町のシンボルとして、青い空に屹立し私達を励ましてほしいものです。
 
 そんなスカイツリーとその周辺を理解するのに適した本をご紹介します。
 まず、ツリーの場所、名前、かたち、素材、工事、光、歴史について総合的に理解したいのあれば、『東京スカイツリーの秘密』(瀧井宏臣著、講談社、2012年)がお勧めです。小学校の上級学年から読めるようにフリガナがふってあり、専門性や抽象性が高い用語解説があるので、とてもわかりやすいです。
 また、ツリーの建築工法に興味がある場合には、『東京スカイツリー 完成までの奇跡』(日本経済新聞出版社編・発行、2012年)が良いでしょう。様々なツリーの工法の特徴が、図解してあります。東京スカイツリー公認書籍でもあります。
 そして、そんなツリーのある下町散歩には、次の本がお勧めです。『スカイツリー東京下町散歩』(三浦展著、朝日新書、2011年)。ツリーのお膝元である、押上・両国・錦糸町・亀戸のみならず、少し足を伸ばした周辺地域の向島・曳舟・京島や北千住、日暮里、小岩あたりに及ぶ下町風景が写真と文章で綴られています。
 最後に、スカイツリーとは直接関係しないのですが、やはり下町風情を味わうなら『池波正太郎の東京・下町を歩く』(常磐新平著、ベスト新書、2012年)がお勧めです。池波小説の読み手として定評がある常盤氏が、小説に出てくる舞台を丁寧に紹介しています。どこも私の自宅の近所なので、本に出てくる場所を通る度に、池波さんもこの光景を目にしたのだなぁと、感慨深い思いがします。

 テレビの映像や本だけでなく、ぜひこの地に足を運んでみてください。下町の懐かしく味わい深い風情に包まれると、なぜだかほっとして落ち着いた気分になれますから。。。






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