2011年11月・12月の3冊 本文へジャンプ
今回は、広い意味での「介護」に関連した本をご紹介します。



梅沢佳裕著『生活相談員〜その役割と仕事力〜』、雲母書房、2011年


内容

 私が、病院のソーシャルワーカーから老人保健施設の相談員に転職した今から15年以上前、その仕事内容の違いに大きな戸惑いを感じました。
 相談員ではあるのですが、人手が足りない食事時などは食事介助を行い、入浴の際の着脱介助を行い、事務の仕事も兼務していたため利用者や家族からの集金を行い、行事の運営を行い、幾種類もの書類を作り、そして介護相談にのるという、とても幅のある仕事をやっていました。病院のソーシャルワーカー時代には、ほぼ相談のみ。もちろん、一人暮らしの人の家に行って必要な物を取ってくることはあっても、「それも相談援助のうち」と自分のなかで括れたのですが、「どうも施設の相談員の仕事は違うらしい」と思い、自分のなかではスッキリと整理がつかず、なんとなく違和感を感じながら日々の業務を行っていました。
 この本を読んだ最初の感想は、もしその当時にこの本を読んでいたら、もっとスッキリできたのではないかということです。筆者は、ソーシャルワーカーの業務と相談員の業務、両方に共通している業務を図を使いながら説明しています(p.21)。そのなかで、「相談員の業務」としては@施設事務(契約・経理その他)、A組織としての業務を挙げています。さらに、生活相談員業務の本質を次のように述べています。「私たちの意思決定は、『白』と『黒』の2種類ではありません。その間にさまざまな色合いの『グレー』が存在します。何でも白黒をつける見方をせず、いかにグレーなままをあるがままを容認しつつ生活を送っていただくか、が相談員業務の真価であると痛感しています」(p.54)。そして、「介護現場では、この『よろず屋』的な存在の相談員が、とても重要な役割を担っているのです」(p.126)とも仰っています。
 生活や介護の場は雑多だから、様々なグレーな領域があることは分かっていたはずなのですが、改めてこのように整理してもらえるとストンと落ちるものがありました。「そうか、自分がやっていた業務の多くは、施設の相談員としては相応の範囲だったのかもしれない」と思いました。
 施設実習に行く学生や、施設の相談員として働きたい学生にお勧めの1冊です。
 

目次

第1章 相談員の役割とは何か
1)相談員の出発点に起つ
2)相談員のすべき役割はこれだ
3)相談員の理想と現実のギャップ
4)相談員の迷い・悩み

第2章 相談員業務を理解しよう
1)ソーシャルワーカーとの関係
2)入所施設の業務の留意事項
3)契約と重要事項説明
4)退所に関する相談
5)入所・利用中の相談援助業務
6)家族や利用者との連携・調整業務
7)コミュニティ・ソーシャルワーク業務
8)施設内の連携・調整業務
9)苦情の窓口調整業務
10)個別援助計画の作成業務、作成の援助業務

第3章 自分を理解し個性を活かす相談員
1)相談員として業務に向き合う
2)自分の性格を理解する(自己覚知)
3)自分のスタンスを決める
4)相談員の型を知り、自分のスタンスを確認する

第4章 もう迷わない、これが相談員だ。
1)相談員に期待される役割…その1
2)利用者のニーズとは何か
3)相談員に期待される役割…その2

第5章 相談員に必要な9つの視点
1)相談員固有の地域アセスメント視点をもつ
2)視点1…ミクロ視点
3)視点2…マクロ視点
4)視点3…トータル・マネジメント視点
5)視点4…ストレングス視点
6)相談員固有の個別アセスメント視点をもつ
7)視点5…全体性の視点
8)視点6…主体性の視点
9)自律支援のための関わり
10)視点7…個別性の視点
11)視点8…継続性の視点
12)視点9…社会性の視点

第6章 相談員に必要な7つの仕事力
1)仕事力1…自己管理力―self management
2)仕事力2…時間活用力―time management
3)仕事力3…総合調整力―total coordinate
4)仕事力4…発想力―idea
5)仕事力5…実行力―action
6)仕事力6…企画力―planning
7)仕事力7…洞察力―insight

第7章 相談員としての役割を発揮するために
1)「思うように仕事ができない」を克服するために
2)事例1…「何でも屋」の称号?
3)事例2…業務をこなしきれない
4)事例3…今、対応できません
5)事例4…他職種との連携
6)権利擁護と権利侵害の境界線
7)事例5…利用者の気持ちの受け止めと対応
8)事例6…認知症という一括りにした関わり



 外岡潤著『おかげさま 介護弁護士流老人ホーム選びの掟』、ぱる出版、2011年


内容

 東大卒の弁護士であり、ホームヘルパー2級を取得、そのうえ日舞やマジックが特技で福祉施設でパフォーマンスを展開し、介護業界のトラブルを解決するイケメンときたら、そりゃあマスコミも放っておかないでしょうね。各テレビ局から引っ張りだこのようです。
 筆者は、たまたま出合った『ヘルプマン!』(くさか里樹、講談社)という介護現場が舞台の漫画に魅せられ、自分も介護に関わりながら介護現場で起きるトラブル解決に特化した「介護弁護士」になろう、と決意しました。
 この本では、実際に起こりうる介護現場での骨折事故の事例に基づき、どのようにトラブルが悪化していくのかという過程をわかりやすく展開しています。架空の事例ではありますが、「いかにもありがちだな〜」と思うことしきり。最後は訴訟に踏み切るかどうかまで行くのですが、そこで事態は一転…という流れです。
 2000年の介護保険施行後から介護現場でも権利擁護システムが導入されてはいますが、まだまだ利用者の立場は強くないなかで、法曹に携わる専門職との連携が求められる場面も多くなることでしょう。このような介護現場に理解ある弁護士が増えることは、介護職・相談職にとっても心強いことだと思いました。
 巻末では、外岡さんとくさかさんが対談しており、読み物としても面白かったです。こんな若者が介護現場でどんどん活躍してほしいと、願わずにはいられません!


目次

  
序章 「おかげさま」と和の心
〜介護業界のトラブルは他人事ではすまされない〜

第1章 とある家族の物語
〜誰も知らない、老人ホームの落とし穴〜

第2章 落とし穴を避けるには
〜介護弁護士が教えるホーム選び五つの掟〜

第3章 『ヘルプマン!』と私
〜『ヘルプマン!』の名場面に見る、介護の可能性〜

最終章 介護弁護士として私が目指すもの
〜「おかげさま」に込めた思い〜

巻末対談 エンターテイメントとしての介護の可能性
〜介護弁護士 外岡潤×『ヘルプマン!』漫画家 くさか里樹〜



 舩後靖彦・寮美千子著『しあわせの王様〜全身麻痺のALSを生きる舩後靖彦の挑戦』、小学館、2008年


内容
 
 前回に引きつづき、今回も3冊目は難病を患った当事者の本を紹介します。舩後さんは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)であり、人工呼吸器をつけている全介助の男性です。ALSは身体中の筋肉が徐々に弱っていく神経の病気ですが、最後まで意識は保たれたままという、とても過酷な状況を迎える病気でもあります。
 舩後さんとの出会いは、一昨年に立正大学大崎校舎で文学部哲学科の田坂さつき先生がゲスト講師としてご本人を招聘された際に、その講演を聴きに行ったことでした。パソコンの読み上げソフトから流れる彼の生い立ちや病気への思いを聴いていると、抑揚の無い機械の声であるにも関わらず、彼の強い意志と心情が伝わってきて、心を鷲づかみにされました。そして今年も、また講演を聴きに行きました。舩後さんは現在、同じ病気に罹っている人への「ピアサポート」を生きがいにしています。
 この本では、舩後さんがバリバリのサラリーマン時代から、徐々に体調が悪くなって病気の宣告を受け、絶望し、引きこもり、そして生きがいをみつけて精力的に活動するまでの経過が、寮さんの文章と舩後さんの短歌によって綴られています。最初の頃、介護は日中は実母が、夜は働いている妻が行っていましたが、段々と妻の疲れがたまっていきます。なぜなら、人工呼吸器を装着したため痰吸引を数時間おきに行わなくてはならず、妻の睡眠時間は毎日2〜3時間だったからです。そんな時、主治医の今井先生はこう言いました。「奥さんはワン・オブ・ゼム(one of them)でなくちゃいけないよ。ご主人を支える大勢のなかの一人でなければいけないんだ。家族だけで全部やろうとするから、無理が来るんだよ」(p.178)。そして、本人と家族は転換点を迎えます。
 舩後さんは現在、ALS患者のピアサポートに留まらず、同じように徐々に身体が動かなくなる子どもの難病(異染性白質ジストロフィー)への理解を広めようと絵本を作成し、講演で読み聞かせてくれました。まだ出版予定はないようですが、これもまた強く心に響いたため、学生達にも伝えていこうと思っています。
 「俺らしく いまやれることやりぬいて 走り続けん いまこの瞬間を」舩後靖彦


目次

宣告
発病
少年時代
青春
就職
企業戦士
予兆
不安
失態
ALS
絶望
否定
怒り
受容
気管切開
胃瘻
提案
迷い
呼吸器
生きがい
いのちのメール
表現者
今井医師


現在
王様病
挑戦者


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