今月は実践記録についての2冊です。
実践記録研究会編『方法としての実践記録〜医療ソーシャルワークの現場から〜』、相川書房、2003年
内容
(社)日本社会福祉士会の共通研修テキスト『社会福祉援助の共通基盤 下』(中央法規)で「社会福祉援助活動の記録」について書いた後に、全国で実践記録に関する研修講師を行う機会が増えました。研修の初めには、「実践記録を書くことについてどのように感じているか」を参加者に問いかけています。すると、これまで研修に参加した数百人のうち、「楽しい、記録を書くのが好き」と答えたのは一桁、あとの数百人は「面倒、負担」と答えました。
それほど記録に関しては多くの人が負担感を抱く一方で、「学校で記録についてきちんと勉強していない」と話す人達も多くいました。すでに「記録開示の時代」が到来しているにも関わらず、未だに記録が軽視されていたり、きちんと教えられていない状況を残念に思います。そんななか、今回は実践記録についての2冊を紹介します。
まずこの本は、1967年に東京医療社会事業協会による夏期研修会に集まった有志により発足した実践記録研究会での成果の集大成です。実践記録とはそもそも何なのか、実践記録にはどのような要素をもりこむべきか、そしてそれらを踏まえたうえでの実践記録の実例が掲載されています。なかでも「実践記録にもりこむべき8条件」(pp.7-8)からは多くの示唆が得られるので紹介しましょう。
@ワーカーは問題状況をどうとらえ
A相手にそれをどう伝え
B伝えられたことを相手はどうとらえ
Cそのとらえ方とそれにもとづく相手の動きを、ワーカーはどうとらえて次の段階に進もうとしたのか
D実践者に記録化を促す問題意識
E所属機関・職員の都合
F社会・制度状況ならびに医療状況(治療法・疾病観等)と所属機関・職員との関係
Gソーシャル・ワークあるいは社会福祉に関する何らかの理論についての自覚(理論が既存のものであるか否かを問わない)
実践記録について書かれた本はその後何冊も出版されていますが、この本は実践記録の原点を指し示した貴重な1冊だと思います。
目次
T 実践記録研究会の歩み
1.実践記録―その方法についての一考察
2.実践の記録化の経緯
3.「8条件・3状況」の具体化
U実践記録の実際
A 低肺者、この理解されざるもの
B−1 ある重症未熟児の死
C−1 ネットワーク援助を考える
V 当事者体験
1.生活史の受容ということ―個人的な「記録」を振り返って―
2.私の体験した結核事情
3.日本的家族介護を考える
4.就職するまでの私の25年
5.病の経験(1)―低肺機能者の立場から―
6.一つの近況
7.病の経験(1)―胃潰瘍患者の場合―
8.病床日誌
W 方法としての実践記録:その考察
坪上論文の掲載にあたって
1.実践記録からひき出した課題
2.学会報告とその後考えたこと―自己覚知・違和感・記録の条件―
3.時代状況と自己覚知―転向の観点から―
4.異質の人のとらえ方―人間理解の都合解析論的方法設定の試み―
5.意外だったこと
6.8条件―その順序の検討―
X 資料(年表)
佐藤豊道著『介護福祉のための記録15講』中央法規、1998年
内容
タイトルどおり15回の講義形式で介護記録の書き方が詳細に述べられている、私の現師匠の本です。
研修では、この本に書いてある「一読明快の記録」を目指すこと(p.56)を協調して伝えます。すなわち「読まれ、活用される記録であるためには、まず読みやすいように工夫されなければなりません。1回読んだだけで、その内容がわかる記録であることが必要」なのです。
また、この本では記録の3つのスタイル「叙述体」「要約体」「説明体」が、実例を伴って説明されており、具体的なイメージが持ちやすくなっています。
本書の発行が1998年と介護保険開始前であり、現在とは記録様式の違いがあるかもしれないこと、介護福祉とソーシャルワーク実践では記録方法が異なる部分もあるかもしれませんが、実践記録の基礎と考え方を学ぶためには最適なテキストです。
目次
1講 介護福祉の概念
2講 介護福祉における記録の意義
3講 介護福祉における記録の実際
4講 介護福祉における記録の文体
5講 介護福祉における記録の書き方の基本
6講 介護福祉における基本的な記録の書き方
7講 初期評価の記録方法
8講 介護福祉計画の記録方法
9講 実施の記録方法
10講 再介護福祉計画にかかわる実施過程の検討
11講 終期評価の記録方法
12講 条件設定による介護福祉記録の試み
13講 ホームヘルプ記録様式の改定の試み
14講 介護福祉における施設の記録様式と内容
15講 介護福祉におけるホームヘルプ記録様式と内容