今月の2冊・2009年6月 本文へジャンプ
2009年6月の2冊はソーシャルワーカーのジレンマと対処法についてです。


本多勇・木下大生・後藤広史・國分正巳・野村聡・内田宏明著
『ソーシャルワーカーのジレンマ〜6人の社会福祉士の実践から〜』 
筒井書房、2009年


内容

 ある日、1冊の本が私のもとに届きました。ほとんどの人とは会ったことのある若手研究者達によって書かれた本でした。
 「なぜソーシャルワーカーはハッピーに仕事をすることが難しいのだろう、なぜソーシャルワーカーはいろんな仕事のカベにぶつかることが多いのだろう、仕事を辞めたいと思ってしまう人がなぜ多いのだろう・・・・・・。私たちは、『理想(のソーシャルワーカーの業務)』と、現実に私たちソーシャルワーカーが置かれている(職場の中の)立場・しなければならない仕事とのギャップに、悩んでいる。『ジレンマ』を抱えている。」「そんな『ジレンマ』について、私たち自身の仕事の経験から、リアルにそして少し客観的な見方で、それがどこから来るものなのかを記述してみようと考え」て、この本が書かれたそうです(pp.2-3)。
 6人の実践分野が異なるため、それぞれの分野で感じたジレンマについて書かれている、これまでありそうでなかった本で、とても読みやすかったです。欲を言うと、エッセイなのか研究書なのか、もう少し性格がはっきりしていたほうが面白かったかなと思いました。
 そのなかにあり、「路上生活者支援におけるジレンマの構図とその意義」は、ぴたりとピントが合った写真のような出来栄えで、読み応えがありました。


目次

■はじめに……私たちが、なぜこの本を作ろうと考えたか  

■障害者領域でのジレンマ■■■
  障害者の生活を支えることと、施設という環境との間で 
   1 はじめに―自己紹介を兼ねて                          
   2 障害者の就労におけるジレンマ                         
   3 制度・政策におけるジレンマ                          
   4 利用者・家族と施設ソーシャルワーカーのジレンマ                
   5 障害者福祉の未来                               

■高齢者ケア領域でのジレンマ■■■
  おとしよりの集団生活と現実   
   1 はじめに―「高齢者福祉」の原点                        
   2 おとしよりは「死んでいく」=「死ぬ」前の最後の生活の場所は?         
   3 利用しにくい高齢者ケア施設                          
   4 要介護高齢者の在宅生活継続・復帰――「やる気と覚悟」              
   5 「介護保険」制度の現実                             
   6 「生活の継続性」とは何だろう――施設ケアの限界                 
   7 「トランスファーショック」とその支援                      
   8 在宅生活と施設生活――「集団生活」と「個人の自由」の相克           
   9 高齢者ケア施設ソーシャルワーカーのジレンマ                  
      高齢者ケア施設ソーシャルワーカーはどう仕事をしていくか            

■児童福祉領域でのジレンマ■■■
  草の根の子ども・子育て家庭支援 
   1 ジレンマの所在                                
   2 実践のなかでジレンマを超える                         
   3 おわりに                                   

■生活保護領域でのジレンマ■■■
  路上生活者(ホームレス)支援におけるジレンマの構図とその意義 
   1 はじめに                                   
   2 「支援」か? 「社会統制」か?                         
   3 生活保護をめぐるケースワーカーの論理と路上生活者の論理の狭間で        
   4 「自立」支援? 「依存」支援?                         
   5 ジレンマと向き合うこと                            

■医療領域でのジレンマ■■■
  今のところ、趣味と実益を兼ねて「社会福祉士」をやっています。 
   1 はじめに                                   
   2 大学卒業後の高齢者福祉現場における最初のジレンマ               
   3 資格取得や専門性の追求に対するジレンマ                    
   4 はじめての転職、そして福祉と医療のギャップ                  
   5 社会福祉士である私と、病院の職員である私との折り合い             
   6 専門性追求のために……                            
   7 医療ソーシャルワーカーである私と、事務職員である私との折り合い        
   8 ライフワークとしてのソーシャルアクション                   

■養成現場でのジレンマ■■■
  社会福祉士という職業につくまでのジレンマ 
   1 はじめに                                   
   2 社会福祉士養成・就職支援において生じるジレンマ                
   3 現場実習におけるジレンマ                           
   4 おわりに                                   

■ソーシャルワーカーのジレンマ再考■■■
   1 「価値」と「ジレンマ」                             
   2 なぜジレンマが起こるのか                           
   3 「マージナルマン」としての立ち位置                       
   4 「自分益」を第一に                               
   5 「ジレンマ」にうまく対処するために                       
   6 未来志向で、前向きに                             

●社会福祉士の倫理綱領■■■ 
   メンバー推薦「ソーシャルワーカーのジレンマ」によく効く図書 

■おわりに                             


ソーシャルワーカーの交渉術編集委員会編
『チームケアを成功に導く ソーシャルワーカーの交渉術』
日本医療企画、2006年


内容

 さてさて、そんな「ジレンマ」に日々苛まれるソーシャルワーカーですが、どのように対処すればよいのかは、様々でしょう。正面からぶつかる、逃避する、ひたすら耐え忍ぶ…。
 この本では、正面から問題に取り組み、積極的に周囲に働きかけるコミュニケーション手段である「協調的交渉」が、主題として取り上げられています。
 この本のタイトルを見たときに、とても新鮮な感じがしました。というのは、学校で面接技術は教えられても、これまであまり「交渉術」は教えられてこなかったのではないかと思ったからです。
 しかしながら、「交渉術」はこれからのソーシャルワーカーには、ますます必要になってくるでしょう。とりわけ、関係者間での利益が相反する複雑な問題に直面したときや、利用者の権利を代弁し擁護しなければならないときに、職場内外の関係者にいかに働きかけていくかが問われるからです。
 これからは、もっと幅広いコミュニケーション技術を教えなければと、自戒をこめて読みました。
 


目次

第1章 ソーシャルワークと交渉

第2章 交渉とは何か

第3章 事例で学ぶソーシャルワーカーの交渉術
     入職1〜3年のトラブル
     入職4〜6年のトラブル
     入職7年以上のトラブル

第4章 組織において求められる役割と交渉



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