今月の2冊・2009年4月 本文へジャンプ
大学院の研究指導が始まる4月は、研究方法についての2冊の紹介です。


岩田正美・小林良二・中谷陽明・稲葉昭英編『社会福祉研究法〜現実世界に迫る14レッスン〜』有斐閣アルマ、2006年



目次

第1部 社会福祉研究とは何か
 第1章 なぜ,何を研究するのか
 第2章 現場の視点と研究の視点
 第3章 先人に学ぶ――研究レビューの進め方とレビュー論文の書き方
 第4章 研究の倫理

第2部 研究の設計と手順
 第5章 研究をどう設計するか
 第6章 仮説の構築と検証の手続き
 第7章 研究資料の収集と分析

第3部 研究事例に学ぶ
 第8章 量的調査データの実証分析
 第9章 インタビューによる質的研究(現場から)
 第10章 ミクロレベルの評価分析
 第11章 メゾレベルの評価分析
 第12章 計画研究
 第13章 問題を政策と結ぶ研究
 第14章 外国研究・国際比較研究


感想

 ここ数年、雨後の筍のように、社会福祉の大学院が続々と誕生しました。大学院を修了した後に、研究者への途を進むにせよ現場実践者になるにせよ、大学院在籍中にはきちんと研究方法を習得し、論文を書くという作業を行わなければなりません。
 そんな社会福祉研究のガイドラインになるのがこの本です。錚々たる研究者達によって多方面から研究方法について執筆されており、全国の院生の必読書といえるでしょう。
 とりわけ私自身が興味深く読んだのは「Lesson2 現場の視点と研究の視点 現場における研究の意味」(小林良二氏執筆)でした。「現場からの発信」の可能性が展開されており、社会人院生やこれから大学院に進もうという現場実践者、大学院には進まないけれども自らの実践に基づく研究を行いたいと考えている人達にとって、勇気づけられる章だと思います。
 とはいえ、現場実践と研究とは質的に異なる営みであること、研究には研究のルールや作法があること、そしてそれはなかなか奥深く、かつ醍醐味を伴うものであることが沁みてくる1冊です。
 それにしても目下の不安は、誕生しすぎた大学院のため「高学歴ワーキングプア」が増産されないかどうか…。しかしながら本筋から逸れるので、それについては別の機会に論じることにします。
 



佐藤郁哉著『質的データ分析法〜理論・方法・実践〜』新曜社、2008年



目次

第T部 質的データ分析の基本原理
第1章 7つのタイプの「薄い記述」
第2章 豊かで厄介な質的データ
第3章 定性的コーディング
第4章 脱文脈化と再文脈化
第5章 事例―コード・マトリックス

第U部 質的データ分析の実際
第6章 資料を整理する
第7章 コーディングをおこなう
第8章 分析の方向性をさぐる
第9章 概念モデルをつくる
第10章 報告書を書く

補 章 マトリックスの成長と進化


感想

 この本を読みはじめて、すぐに恥ずかしくなりました。何が?これまでの自分の研究が…。佐藤氏が整理した「7つのタイプの薄い記述」にけっこう当てはまるではありませんか。7つとは以下のとおり(p.6)。
@読書感想文型(主観的な印象や感想を中心とする、私的エッセイに近い報告書や論文)
Aご都合主義的引用型(自分の主張にとって都合のよい証言の断片を恣意的に引用した記述が目だつもの)
Bキーワード偏重型(何らかのキーワード的な用語ないし概念を中心にした、平板な記述の報告書や論文)
C要員関連図型(複数の要因間の関係を示すモデルらしきものが提示されているのだが、その根拠となる資料やデータがほとんど示されていないもの)
Dディテール偏重型(ディテールに関する記述は豊富だが、全体を貫く明確なストーリーが欠如している報告書や論文)
E引用過多型(「生」の資料に近いものを十分な解説を加えずに延々と引用したもの)
F自己主張型(著者の体験談や主観的体験が前面に出すぎており、肝心の研究対象の姿が見えてこない報告書や論文)
 こうなったら開き直って、これまでの失敗作を反面教師として教材で使いましょうかね。転んでもただでは起きない私でした。


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