今月の2冊・2009年2月 本文へジャンプ
今月は対人援助職のストレスと対処方法に関する2冊です。


清水隆則・田辺毅彦・西尾祐吾編著『ソーシャルワーカーにおけるバーンアウト~その実態と対応策~』中央法規、2002年



内容

 程々ならば良い刺激となり、重すぎると心身に支障をきたす「ストレス」。「本質的に対象(対象者と問題)の理解とそのよきあり方、価値のジレンマ、また組織・制度との軋轢にストレスをうけやすい仕事である」(p.45)ソーシャルワークの仕事を行ううえでは、上手にストレスとつきあっていかなければなりません。
 ストレスが高じると「ストレスにより精神エネルギーが枯渇し、自分が苦しむとともに、利用者へのサービス水準が低下する」(はじめに)「バーンアウト」に陥ってしまいます。
 本書は、ストレスやバーンアウトに関する理論面、社会福祉士を対象とした調査結果、予防策を多角的に述べています。
 とりわけ興味深いのは、「第6章 社会福祉士のバーンアウト体験―バーンアウトを経験したワーカーの体験から―」です。福祉職であれば、誰もがどこかしらオーバーラップするような経験が何人かの事例にちりばめられており、バーンアウトが決して他人事でないことがわかります。 
 そして、バーンアウトの対処法がいくつか展開されていますが、最も心に響いたのは、現代社会や社会福祉において「『弱さ』あるいは『機能しないこと』が、援助者であるとか、利用者であるとかでなく、一人ひとりの人として、受け入れられる文化に変わる必要があるのではないだろうか」(p.114)という一節でした。


目次

第Ⅰ部 バーンアウトの理論
 第1章 バーンアウトという言葉
 第2章 ストレスが引き起こす諸問題
 第3章 ソーシャルワークとストレス
 第4章 バーンアウトの理論と調査

第Ⅱ部 調査—バーンアウトの現状分析
 第5章 社会福祉士のバーンアウト調査
 第6章 社会福祉士のバーンアウト体験—バーンアウトを経験したワーカーの体験から

第Ⅲ部 予防策—バーンアウトを避けるために
 第7章 ストレスの個人的予防
 第8章 組織的なサポート体制
 第9章 精神医学からみるバーンアウト症候群




水澤都加佐『仕事で燃えつきないために~対人援助職のメンタルヘルスケア~』大月書店、2007年



内容

 この本を通じて筆者が訴えかけるメッセージは、とてもシンプルで力強いものです。
 すなわち「あなたが今後も援助職をつづけ、人を助けていきたいと思っているなら、援助の対象者と健康な距離を保ち、境界線を引くこと、それからスーパーバイズを受けること、そしてなによりセルフケアをして、自分を大切にしてください。自分を大切にできる人こそ、人をも大切にできるのですから」(pp.133-134)ということに尽きるでしょう。
 また、様々なチェック・リストが掲載されており、活用できる本でもあります。例えば、「もえつき」の兆候チェック、共依存チェック、セルフケア20のチェック等々。
 十数年前、バーンアウト寸前でソーシャルワーカーを辞めた私ですが、一つだけ正の副産物がありました。それは、大きなストレスを感じたときには、ひたすらセルフケアに徹することの必要性を学んだことです。安全な場所でゆっくり過ごすこと、心地よい音楽や景色を観ること、気を遣わない人と会うこと、美味しいものを食べること、思いっきり小説の世界へ逃避すること、究極的には仕事から逃避すること…。
 そんな方法が間違いではなかったことを、改めて教えてくれた1冊です。


目次

1 なぜ援助職にメンタルヘルスケアが必要か
2 こんな症状がはじまったら
3 「もえつき」のプロセスをとらえる
4 何が原因なのか?
5 回復とセルフケア
6 援助専門職として必要なこと




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