今月の2冊・2008年12月 本文へジャンプ
今回は修正版グラウンデッド・セオリーに関する2冊です。


横山登志子『ソーシャルワーク感覚』弘文堂、2008年

内容

 今回は2冊とも同じ出版社からの本ですが、けっして弘文堂のセールスマンではありません。たまたまこのところ熟読した文献が修正版グラウンデッド・セオリーを活用した研究であり、それが弘文堂から出版されていたということです。
 さて、横山さんが提起する「ソーシャルワーク感覚」、すなわち「ソーシャルワークという援助行為に関する行為者自身の意味づけや身体感覚」(p.36)は、どの分野であれソーシャルワークを行っている人が体感していることなのでしょう。言葉にすると掬いきれないけれども、言葉にしないともやもやしたままずっと潜在化してしまうであろう「感覚」の実態を、修正版グラウンデッド・セオリーという方法を使い、見事に照射しています。
 研究方法論の面からも学ぶところが多く(とりわけ、p.109の質的データの内的・外的妥当性と信頼性確保の方法など)、説得力のある1冊に集約した力量はさすがです。とても刺激を受け、参考になりました。
 何度か私の研究も引き合いに出していただき、ただただ感謝です。いつか私も、横山さんの研究を先行研究として参考にしながらオリジナルな研究成果を発表するので、その時まで待っていてくださいね。それがこの本を読んだ今の、横山さんへの伝言です。


目次

第1章 ソーシャルワーク感覚とは
第2章 ソーシャルワークの援助観
第3章 援助観をつくりだす現場と経験
第4章 PSWの援助観生成プロセス
第5章 結果の考察—先行研究との比較からみたオリジナリティー
第6章 ソーシャルワーク教育への実践的応用にむけて


木下康仁『ライブ講義M-GTA  実践的質的研究法』弘文堂、2007年


内容

 もしかすると横山さんの前に紹介するのが木下先生への礼儀だったのかもしれませんが、ソーシャルワークのみならず看護や心理等、様々な対人援助サービス領域での研究に木下先生が提唱された修正版グラウンデッド・セオリーが活用されていることから、「図と地」でいえば「地」として扱わせていただきました。
 さて、読後の感想は「とてもわかりやすく頭の整理になるけれども、実際にやってみなければわからない」というものでした。木下先生が一項目ずつ丁寧に解説されていて、本当に講義を聴いているような感覚になれました。また、本当の講義と違い、わからないことがあれば何度も前に戻って読むことができ、こんなテキストもいいなぁと思いました。ただし、やはり自分でデータを集めて概念の生成をしてみないと、この本の真髄は伝わらない気がしました。
 私がこの研究方法に惹かれた理由は、特に「うごき」を説明する理論を生成する方法であること、従来のグラウンデッド・セオリーと異なりデータを切片化せず、文脈依存性を大事にする点です。人を基点とする対人援助領域での研究は、常に動いているフィールドが対象となり、文脈次第で多様な状況が生み出されます。そんな「動的」な現状に切り込むこの方法は、人間関係のダイナミクスが感じられる時間が好きな私の志向性と、マッチするのでしょう。
 これからこの方法を活用して、自分の研究テーマに迫ることを企てている今日この頃です。


目次

第1部 M‐GTAの分析技法
1-1 GTAのタイプ別特性;M‐GTAにおける分析の考え方
1-2 M‐GTAにおける分析の考え方
1-3 M‐GTAの基本用語
1-4 M‐GTAにおける比較のレベル
1-5 M‐GTAに適した研究
1-6 M‐GTAで生成するのはどんな理論か
1-7 M‐GTAにおけるインターラクティブ性
1-8 分析上の最重要点
1-9 M‐GTAにおけるデータと概念の関係図
1-10 質的データと分析の関係
1-11 研究テーマの設定
1-12 分析テーマの設定
1-13 分析焦点者の設定
1-14 M‐GTAにおけるデータ
1-15 概念生成モデル
1-16 分析ワークシートの作成
1-17 分析のまとめ方
1-18 現象特性
1-19 理論的飽和化と結果図・ストーリーライン

;第2部 分析例:高齢夫婦世帯における夫による妻の介護プロセスの研究
2-1 研究の概要
2-2 インタビュー・ガイド、分析テーマ、分析焦点者
2-3 最初の分析ワークシートの立ち上げ
2-4 ワークシート2の立ち上げ
2-5 1人目のデータ分析と概念相互の関係の検討
2-6 2人目のデータ分析へ
2-7 中心的概念の検討過程~概念16の生成をめぐって~
2-8 中心的概念の検討過程
~概念17から修正概念17へ~
2-9 中心的概念の検討過程~概念16と修正概念17の関係からコアとなる修正概念2へ~
2-10 中心的概念の検討過程~コアから新たなサブ・コアへの生成~
2-11 フォーマル理論への感触
2-12 現象特性
2-13 概念の生成と調整の結果一覧
2-14 おわりに




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