今月の2冊・2008年11月 本文へジャンプ
今月は歴史上の人物に関する本の紹介です。

木原活信著『J.アダムズの社会福祉実践思想の研究―ソーシャルワークの源流 』1998年、川島書店

内容

 昔ドイツに行った時に、ドナウ川の源流を訪れました。それは、少量の湧き水が湧き出す泉でした。その泉の水が少しずつ集まり、やがて大河に育っていくのです。その泉と同じように、私達が今日学び活用するソーシャルワークの源流が、この本のなかに描かれていました。ジェーン・アダムズの社会福祉実践です。
 セツルメント運動の指導者として名高いアダムズの社会福祉実践思想の形成過程と社会福祉実践、日本における影響について論述された研究書で、執筆されたどんな本や論文を読んでも「凄い人だな、かなわないな〜」と感服させられる木原活信先生の本です。
 なかでも私が好きなのは、アダムズがどのようにして生まれ育ち、ハル・ハウスの設立に至ったのかについて展開されている第1部です。恵まれた家庭で生まれ、父親への強い思慕を抱いた少女が、やがて最愛の父を亡くしてモラトリアム状態に陥っていく。その後、スペインでの闘牛見物を楽しんだときに「自分の個人的な快楽のために残虐な行為を是認することは、少数者の贅沢や快楽のために多くの人びとの人間的な尊厳を奪うことであると自覚した」(p.35)アダムズは、モラトリアムな生活を終えシカゴにハル・ハウスを開設したというものです。
 そんな生身の女性が、ソーシャルワークの源流となる活躍をしたことに思いを馳せると、とても勇気づけられます。そして学生達に歴史の講義を行う際には、必ずもう一人、アダムズとは対照的な生い立ちのなかからケースワーク理論を体系化した、メアリー・リッチモンドの生涯もあわせて紹介しています。

目次

序論

第1部  J.アダムズの社会福祉実践思想の形成過程
第1章 パーソナル・ヒストリーに見る援助者の意識構造の形成
第2章 クエーカー主義の影響
第3章 慈善事業から博愛事業への変遷過程
第4章 博愛事業家から社会事業家への変遷過程

第2部 J.アダムズの社会福祉実践思想とソーシャルワーク
第5章 J.アダムズと革新主義時代
第6章 ソーシャル・ケースワークの形成におよぼした影響
第7章 ソーシャルワークの「媒介」の起源とJ.アダムズ思想
第8章 J.アダムズにおける「実践」の意味とソーシャルワーク

第3部 日本におけるJ.アダムズの社会福祉実践思想の受容と継承の過程
第9章 明治後期から大正前期におけるJ.アダムズ思想との接触と受容
第10章 1923(大正12)年6‐8月J.アダムズ来日の足跡をめぐって
第11章 大正後期から昭和初期におけるJ.アダムズ研究の展開
第12章 第2次世界大戦以降におけるJ.アダムズ研究の動向とその意味

結語


ブライアン・ソーン著、諸富祥彦監訳『カール・ロジャーズ』コスモス・ライブラリー、2003年

内容

 中高生のとき、世界史や日本史を学んだ時に名前と主な業績だけを知っていて、その行間をつなぐ活動を何一つとして知らない「有名人」がいかに多かったことでしょう。恥ずかしながら私にとってカール・ロジャーズは、つい最近までそのような一人でした。中高生レベルより、もう少し断片的な知識はありましたが…。
 今回、MSW仲間との勉強会で改めて「クライエント中心主義」について勉強し、副読本として読んだのがこの1冊です。晩年のロジャーズと一緒に世界的に活躍したブライアン・ソーンは、ロジャーズの生涯、理論、その影響を肯定的にも、比較的冷静なトーンで書いていますが、随所で深い愛情が垣間見られます。
 この本を読んでわかったことは、ロジャーズの仕事の影響力はとても大きな一方で、相当な批判や反論にさらされてきたことです。そして、その顕在的・潜在的な影響力は、私達が学び、教えているソーシャルワークのなかにも、かなり反映されているということでした。
 その理論を提唱した人の人間性や考え方がわかると、随分と理論への親しみが沸くものだと感じた1冊でした。

目次

第1章 カール・ロジャーズの生涯
第2章 ロジャーズの理論
第3章 ロジャーズの臨床実践
第4章 批判とその反論
第5章 ロジャーズの影響
補論 ロジャーズをめぐる対話



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