今月の2冊・2008年8月 本文へジャンプ
ここでは、2008年8月の2冊(専門領域、隣接領域)を紹介します。


J.ミルナー/P.オバーン著、杉本敏夫/津田耕一監訳『ソーシャルワーク・アセスメント~利用者の理解と問題の把握~』ミネルヴァ書房、2001年


内容

 私たちは旅行に行く時に地図を利用することがあります。そして、その地図は目的によって異なります。例えば大洋を航海する時、地平線が見える大陸を横断する時、手軽に観光地をまわる時、同一の地図よりも用途にあわせた地図のほうが使い勝手がいいでしょう。
 ソーシャルワーク援助もそれと同じ。どのような問題、どのようなニーズに対応するのかで、活用する理論やアプローチ方法が異なります。この本では、アセスメントを行う際の6つの主要な理論やアプローチ、すなわち「地図」を紹介しています。それぞれにユニークな名称がついており、ついついその世界に引き込まれてしまいます。
 とりわけこの本の優れた点は、それぞれのアプローチを事例に即して紹介しているだけでなく、長所と短所の双方を記載している点です。それゆえに、各アプローチの有効性と限界がわかりやすく、また、1つのアプローチのみならず複数のアプローチを組み合わせる必要性も伝わってきます。
 この本を読んで、どれくらい大学教育でこれらの「地図」について教えることができているのかを振り返ってみると、大学1年生を対象とした社会福祉援助技術総論ではほとんど触れておらず、かつ限界があると思いました。やはり大学院の授業で、より詳細な「地図」の使い方を教える必要があると思います。


目次

第1章 ソーシャルワークにおけるアセスメントの意義
第2章 伝統的実践の成り立ちと周辺領域との関係
第3章 これまでのアセスメントの評価と新しいアセスメントの枠組み
第4章 各理論を理解する—マップ選び
第5章 反抑圧的実践—天気図
第6章 システムズ・アプローチ—世界マップ
第7章 精神力動アプローチ—海洋マップ
第8章 行動変容アプローチ—陸地測量部のマップ
第9章 課題中心アプローチ—便利な旅行者用マップ
第10章 解決志向型アプローチ—海洋探検家のマップ
第11章 最終的判断
第12章 結論




土居健郎『新訂 方法としての面接~臨床家のために~』医学書院、1992年


内容

 精神科医の土居健郎先生の名著です。精神科臨床のための心得を記した本ですが、ソーシャルワーカーにとっても含蓄の深い内容であり、面接の際のスタンスを学ぶにはうってつけの1冊です。
 とりわけ私が感銘を受けたのは、第3章で「わからない」感覚を保持することは決して楽なことではないと、詩人のJohn Keatsの「negative capability」について述べた一節です(p.36)。「不確かさ、不思議さ、疑いの中にあって、早く事実や理由を摑もうとせず、そこに居続けられる能力」のことで、詩人にとって必要不可欠能力であると同じくらい、面接者にとってもこの能力が必要であろうとしています。そして、「わからない」から「わかる」への運動は一回限りのものではなく、何回か繰り返されることはいうまでもないといいます。まるで、研究のプロセスそのものではありませんか。
 臨床で迷った時、何度も噛みしめるようにして読みたい1冊です。さらに、神田橋條治先生の『追補 精神科診断面接のコツ』(岩崎学術出版社、1994年)を一緒に読むと、より深く面接について学べます。


目次

第1章 方法としての面接
第2章 面接をどう始めるか
第3章 「わかる」ということ
第4章 面接の進め方
第5章 「ストーリ」を読む
第6章 見立て
第7章 家族の問題
第8章 劇としての面接
第9章 面接とケース・スタディ
[付] 臨床的研究の方法論




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