ここでは、2008年7月の2冊(専門領域、隣接領域の本)をご紹介します。 |
伊藤淑子『社会福祉職発達史研究〜米英日三ヶ国比較による検討〜』ドメス出版、1996年
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内容
私が短大教員だった頃、はじめて援助技術の歴史を教えることになりました。なんとか授業資料を作成して話し出したものの、10分もしないうちにほとんどの学生が眠り始めたのです。後でリアクションペーパーを見たら、ほぼ「面白くない」のオンパレード。さすがにショックで落ち込みました。
そんな折に出会ったのがこの本です。日本の社会福祉職が生成して発展してきた過程で培われた独自性を明らかにし、今後の発展課題を展望し検討するために、アメリカ、イギリスの発達史を検討し比較しています。特に「第T章 創成期のソーシャルワーク〜アメリカとイギリス」では、慈善組織協会の活動や役割が詳細にわかります。
私はむさぼるようにこの本を読みました。そして、私自身が今まで知らなかった歴史を学ぶことの面白さを知ったのです。それと同時に「歴史を厚く語ること」の難しさを痛感しました。「ハッタリ」がきかないぶん、歴史は学んだことしか話すことができません。私のようにほとんど歴史を学んでこなかった者にとって、すぐには「分厚い授業」が行えないことも自覚しました。そして、この本を軸にしながら他の歴史の本でも勉強し、翌年には全面的に資料を作り直しました。
今でも、毎年歴史の話をする前に紐解く本です。そして、他分野の研究者から「福祉分野は研究らしい研究がない」と言われたときに、「この本がありますよ!!」と反論材料で示したこともある本です。
目次
序章 本研究の目的と方法 第1章
創成期のソーシャルワーク―アメリカとイギリス 第2章 アメリカのソーシャルワーク―精神療法への接近 第3章 イギリスのソーシャルワーク―コミュニティケアの中での発展 第4章
日本の社会福祉職―施設ケアの中での発展 第5章 米英日三カ国のソーシャルワーク発展の特徴 終章 結びにかえて
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湯浅誠『反貧困〜「すべり台社会」からの脱出〜』岩波新書、2008年
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内容
医療ソーシャルワーカー時代に、外国人労働者への福祉援助について学会発表した際に、鍵概念を「経済的・人間関係的貧困」としました。この本を読むと、それは「溜め」という概念で説明できることがわかりました。
公的セーフティネットの機能不全、貧困状態に至る背景にある「五重の排除」。すなわち、教育課程からの排除、企業福祉からの排除、家族福祉からの排除、公的福祉からの排除、自分自身からの排除。そして、多様な「溜め」がない状態。お金、家族、親族、友人、自分を大切にできるという精神…。
さらに、わずかながらホームレス支援に携わっていた私が、学生たちにホームレスの状態を説明する際に「好きでやっているのではない。なぜなら彼らには選択肢がないから」と話していたことが「貧困とは、選択肢が奪われていき、自由な選択ができなくなる状態」(p.74)との一文で、後ろ盾を得た気がしました。
岩田正美先生とともに湯浅さんも書いているように、「貧困とは常に『再発見』されるべきものである」(p.220)ことを痛感する1冊です。
目次
第T部 貧困問題の現場から
第1章 ある夫婦の暮らし
第2章 すべり台社会・日本
第3章 貧困は自己責任なのか
第U部 「反貧困」の現場から
第4章 「すべり台社会」に歯止めを
第5章 つながり始めた「反貧困」
終章 強い社会をめざして〜反貧困のネットワークを〜
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