ひたすら前進、また前進〜関門海峡での決意〜 本文へジャンプ
ここでは閉塞感を乗り越えた話をします。


その年の夏、私は一人で下関に来ていました。5月に日帰りで行った山口県が忘れられず、どうしてもまた行きたかったのです。
夏休みに2日間連続で休みがとれるのは1回きりで、その日を狙って一泊で行ったのでした。
 それほどその年は、仕事に追われていました。所属する職場で、組織を存続させるために不可欠な役割を担うことになり、その忙しさに戸惑いを感じつつも、自分の時間がとれないもどかしさと闘う日々でした。

目指すは関門海峡、海底トンネルを歩いて門司港まで渡る計画です。
 実は、普段は閉所恐怖症のためエレベーターすら平常心では乗れません。ある時は、船に乗って海上にいるときに軽いパニック障害に陥り、叫びそうになったこともありました。その時は、ひたすら深呼吸して自分を落ち着かせたのですが…。
 そんな私が海底トンネルに臨むのです。それも1キロ弱。

トンネルのなかは、一本道が真っ直ぐに伸びていました。果てしなく続く海底の道を見ていると、いろいろな思いが頭をよぎります。もし、歩いている途中で地震が起きたらどうしよう、何かのはずみで入り口も出口も塞がれてしまったらどうしよう…。
 もちろん渡らないという選択肢もあったのですが、とにかく前に進むしかないと思いました。だって、そのために山口までやってきたのですから。
そして、1キロ弱の道のりを黙々と歩きました。行き交う人やメンテナンスの人もいて、思ったより恐怖心は沸きませんでした。とにかく歩ききりたい一心だったのです。
 対岸に出てみると、そこには真っ青な海が広がっていました。今までの狭く暗い道とは異なり、広く明るい海でした。

ほんの些細な体験でしたが、その時自分が置かれている閉塞感のある状況も、前に進んだらきっと視界が開けるにちがいないと、日常生活とシンクロさせていたのです。
忙しい合間をぬって下関に行き関門海峡を歩いて渡ったことで、私はひとつの覚悟を固めました。
 とにかく目の前の仕事を腹を括ってやろう。たとえその仕事によって自分の時間が制限されるとしても、組織に所属しているかぎりは、誰かがやらなければならない仕事なのだから、と。

今も思い出す関門海峡は、快晴の空のもとキラキラと輝いている真っ青な海です。その光景を思うと、また頑張れる気がします。



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