2012年11月・12月の1冊 本文へジャンプ
今回は、ソーシャルワーカーのあり方を考える本を1冊だけ紹介します。


 秋山智久編『世界のソーシャルワーカー〜養成・資格・実践〜』、筒井書房、2012年


内容

 2012年11月・12月は、これまでにないくらい仕事に忙殺されており、何冊かの本は読むけれども単発に終わり、体系的な紹介ができるまでに至っていませんでした。そのため、今回本の紹介はやめようかと思ったのですが、いやいや「細く長く」でいいから続けるのが大事と思い直し、1冊だけ様々なことを想起させられた本を紹介することにします。

 この本を読んでいると、これまでの私のソーシャルワーカー&教師としての歴史を思い出すきっかけが、あちらこちらにちりばめられていました。
 まず、タイトルどおり世界のソーシャルワーカーの教育や資格要件について紹介してあるため、現在行っている、アメリカ・イギリス・日本のソーシャルワーカー養成教育比較の研究に役立つ記述がいくらかみられました。興味深いのは、あまり紹介されることがないオセアニアや南米のソーシャルワーカー資格についても触れていることです。各国の資格について調べたい時に、事典のように使える本だなと思いました。
 そして、それ以上に興味深かったのは、「第10章 日本におけるソーシャルワーカー資格」と「第11章 日本におけるソーシャルワーカーの課題と展望」の部分です。
 第10章では、始まったばかりの認定社会福祉士制度(私も2年間、制度の創設に関わりました)を含む社会福祉士の記述に加え、日本社会福祉士会初代副会長である秋山先生が知り得た「社会福祉士」資格制定過程における9つの秘話が載っています。例えば、「秘話(その二):なぜ「医療ソーシャルワーカー」は排除されたか」「秘話(その五):専門職より専門性が先―自治労の反対」など、なかなか面白い記載でした。また、2010年に改正され、2012年4月から施行となった精神保健福祉士法の一部改正案の内容、「医療福祉士法案」と「社会福祉士」の関係に言及した医療ソーシャルワーカーの資格についての記述など、押さえておいたほうが良い日本のソーシャルワーカーの資格制度のポイントが述べられています。
 第11章で琴線に触れたのは、「第5節 ソーシャルワーカー(団体)への提言とソーシャルワーカーの原点」です。そこには、「日本社会福祉士会設立宣言」の一部が載っていました。これを読んだ時に、私自身が出席した社会福祉士会の設立総会と全国大会を思い出しました。1993年の1月15日、みぞれ降る寒い八王子大学セミナーハウスに、全国から数百名の社会福祉士が集まり設立総会が行われました。その頃、病院のソーシャルワーカーをしながら、岐阜県社会福祉士会の理事(調査研究部長)を務めていた私は、この歴史的瞬間に立ち会わなければという思いで、会場に駆けつけました。仲間達の熱い思いが会場に満ちており、私もやる気に燃えて岐阜に帰っていったものです。
 その2年後の1995年1月19日、時あたかも阪神・淡路大震災の2日後に、第3回全国大会が長野県で行われました。その時、会場では震災が起こった直後に、このような会を開いても良いものだろうか、という議論が飛び交っていました。そのなかにあり、ある人がとてもクールな意見を述べたのです。「私達は阪神・淡路大震災の活動や教訓を、きちんと記録にとどめておかなければならない。そして、いつか社会福祉士の活動としての検証を行わなければならない」と。血気盛んな20代の私は、『なぜこんな冷めた意見が言えるのだろう』と内心じれったく思いました。でも、今になって振り返ると、その人の発言はこれからますます発展していくだろう社会福祉士会の本来的なあり方を予感させるものだったと思います。今でこそ、エビデンス・ベースドの実践が推奨されますが、まだそのような片鱗がない時期に、よくぞ冷静に実践の科学化を唱えたものだと思うのです。
 そんなことを、この部分を読んで思い出しました。そして、秋山先生が提唱されているソーシャルワーカー団体への「八つの提言」も的を射ていると思います。
 最後に、社会福祉士の原点に立ち返るために読み返したい、今でも色あせていない日本社会福祉士会の設立宣言を掲載し、本の紹介を閉じたいと思います。今でもこの宣言を読むと、20代の頃に熱望した社会と社会福祉士への、熱い思いがこみ上げてきます。


<日本社会福祉士会 設立宣言>

新しい時代は、新しい人を必要とする。
今日わが国は、新しい価値基準を求めて流動化している国際社会の中で、国民がかつて経験したことのない不確実な時代と社会に突入し、次のあるべき社会の姿を模索している。

時代展望の不透明性、自然破壊、飢餓と飽食のアンバランス、戦争・暴力といった地球規模の問題から、市民社会における排他的利己主義の浸透、「無関心」による非人間化の進行、機械文明への過度の依存、個人生活における精神性・倫理性の低下、人間関係の希薄化、といった諸問題を、国際 社会もわが国も抱えている。

加えてわが国では、超高齢社会を目前に控え、出生率の低下と労働力不足、家庭及び地域の養護力・介護力の弱体化や、又市民性と権利意識の未成熟などの諸問題を抱え、さらに多様化した生活様式と価値観の中で「真の豊かさ」を見失っているという状況がある。

こうした状況にあって、社会と家族及び個人を、地域と生活の両面から支えていこうとする社会福祉の課題は大きく重い。それは、平和と人権と人格の確立を心から願い、全ての人々に温かいまなざしをむける人間尊重の思想を根本に置き、労働能力のみで人間を見ないという「有用性からの解放」の視点に立って、全ての人々の変化と発達の可能性を信じ、全人間的な視点から社会福祉実践を行うことを目標とする我々社会福祉専門職の課題でもある。

我々社会福祉専門職は、全ての人々のより人間らしい「生活の質」(QOL)をめざした生存権と生活権の保障を基礎とし、住宅・労働・教育・保険・医療などの分野と連携しつつ、人々の社会生活上の基本的ニーズの充足を試み、社会的、インテグレーション(統合)と、あらゆるところでのノーマライゼーションの推進・達成を図り、そして「人間尊重」を第一義とする平和で人間らしい生活を営むことができる福祉社会の実現のために、援助を必要とする人々を支えようと努力する。

こうした時代の状況と課題の中で、国家資格「社会福祉士」が、社会の要請に応じて、1987年5月26日、「社会福祉士及び介護福祉士法」(法律第30号)によって法制化され、5年が経過した。

そしてその合格者数は、1960名に達して、我が国最大の社会福祉専門職(ソーシャルワーカー)の団体となることが予測されている。その社会福祉士は、前述したような世界と我が国の種々の課題への対応、並びに社会福祉の増進と向上に貢献することを、自らの責務として自覚する。

社会福祉士は、社会と制度の改革を基盤に、人と環境の相互作用の中に生じる社会的、障害を中心的課題として、社会資源の活用と改革を行いつつ、次のような援助を行いたいと願う。

我々社会福祉士は、援助を必要としている人々の共感的理解と受容を「傾聴愛」をもって行い、それらの人々の変化と可能性に対する信頼を持ち、当事者の「対処能力」の強化を支援し、その自立を側面的に援助し、全ての人々の自己実現への努力を援助する。

「社会福祉士」は、我が国の社会福祉にとって不可欠な存在として育ちつつある。
この資格の重要な意義は、「援助を必要とする人々の生活と人権を擁護すること、そのために社会的発言力を強化すること」にある。またわれわれは、専門ソーシャルワーカーのサービスを高度で公平なものと保証するためにも、公的資格を有効なものとして生かさなければならない。

従って、この資格を持つソーシャルワーカーの組織である日本社会福祉士会の目的は、「ひとびとの要求に答えることのできる社会福祉専門職団体としての専門性と実力の向上」にある。又全てのソーシャルワーカーが安定して実践を行うことができるためにも、その社会的地位の向上を図り、保険・ 医療・教育等の関連分野の専門職と連携しつつ、社会福祉専門職の中核として社会福祉士が団結することが、急務となってきている。

我々「社会福祉士」は、次のように願う。
我々は闘う、全ての人々のより良き生活のために。
我々は憎む、非人間的な社会を。
我々は愛する、全てのかけがえのない人々を。
我々は援助する、謙虚な心と精一杯の努力をもって。
そのために我々は、明るい、さわやかな、実力を持った、柔軟で民主的 な専門職集団を結成したいと心より願う。

ここに我々「社会福祉士」は、自ら負わされた課題と役割の重大さを深く 認識し、先に述べた願いを果たす決意をもって、「日本社会福祉士会」の設立を宣言する。

1993年1月15日
日本社会福祉士会

 



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