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今回は「伝える」ことについての本を紹介します。


 高室成幸著『伝える力』、筒井書房、2010年

内容

 私達は、日頃いろいろな手段で意思や感想、考えを他者に伝えています。ましてやソーシャルワーカーとなれば、伝えること、コミュニケーション能力が最大の強みでありこの伝える力を駆使して仕事をしています。
 伝える手段は、口頭だけでなく、文書やビジュアル素材の活用と様々です。また、伝える機会も多様で、面接場面、スタッフ間のやりとりや会議、研修会や報告の場等々挙げればきりがありません。どうすれば学生の「伝える力」を伸ばせるのかに問題意識を感じていた矢先に、うってつけのこの本を見つけたためご紹介します。
 まず、イントロダクションでぐっときました。自信をもって伝えるための「7ヵ条」で、第1条「思い」を伝える、第2条「共感」を伝える、第3条「問題意識」を伝える、第4条「意欲」を伝える、第5条「親しみ」を伝える、第6条「信頼感」を伝える、第7条「希望」を伝えるです。ソーシャルワークを含む対人援助の仕事をするかぎり、上記の7項目を伝えるのは必至でしょう。それぞれの伝え方の考え方が書かれてあります。例えば、第5条「親しみ」を伝えるでは、「親しさ」と「なれなれしさ」の距離感は違う、というように。
 さらにこの本の優れた点は、口頭のみならずレジュメや利用者、家族への資料作りという「資料」の作り方、パワーポイントや画像・写真・イラスト等の「見せ方」の勘所、スクール形式、グループワーク、ロールプレー方式等の研修会における「伝え方」の手法と、全方向に対応できるよう伝え方のポイントが盛り込まれている点です。
 根拠に基づくソーシャルワークが要求される現在、ソーシャルワーカーにはどれほど「伝える力」がつけられるかが問われていると思います。その意味で、かなり効果的な1冊なのではないでしょうか。



目次

プロローグ 自信をもって伝えるための「7ヵ条」
第1章 「伝え方」の基礎的考え方
第2章 「伝え方」の基礎的技術
第3章 対象者別の「伝え方」の勘所
第4章 テーマ別の「伝え方」の勘所
第5章 「伝え方」の組み立て術
第6章 「資料」の作り方
第7章 「見せ方」の勘所
第8章 研修会における「伝え方」の多様な手法
資料編 ムロさんの玉手箱


L・バブコック、S・ラシェーヴァー著、森永康子訳『そのひとことが言えたら…働く女性のための統合的交渉術』、北大路書房、2005年

内容

 タイトルに惹かれて買った本です。アメリカで、女性は男性に比べて昇級や昇進、よい職につくチャンスを求めようとしない、よい仕事をしてもその評価を求めない傾向があるそうです。その背景にはどのようなことがあり、どうすればより良いチャンスが得られるのかを、ジェンダー心理学と交渉術を織り交ぜながら書かれています。
 日本では、なかなか昇級や昇進にあたって交渉するという習慣が薄いので、読んでいてピンと来ない部分もあったのですが、社会のなかでのジェンダー役割やジェンダー規範が男女差に陰を落としている部分などは、「日本も同じだよな〜」と実感しながら読みました。先日読んだ、上野千鶴子さんの『女ぎらい―ニッポンのミソジニー 』(紀伊國屋書店、2010年、この本の紹介は別の機会に)の知識が裏付けとなり、スムーズに内容を理解することができました。
 そして、この本で書かれている「伝える力」は、サブタイトルに入っている統合的交渉術です。1個のレモンの分配について例示が載っていました。すなわち、シェフが2人でレモンが1個。一人はケーキ用のレモンの皮を、もう一人はマリネのためのレモン汁がほしいとしたら、一人がレモンを独占する単純な分配や、レモンを半分ずつにするという解決方法よりも、話合いにより分配した方が優れた結果が生まれる(pp.208-209)というものです。そして、女性の方が男性よりもこのやり方をよく使うという結果が紹介されていました。
 交渉の習慣は日本ではまだまだ少ないかもしれませんが、ソーシャルワークの場面では恒常的に行われていると思います。その方法を学ぶことも、また自らの力量を高める一助となるでしょう。


目次
序章 求めようとしない女性たち
1章 問題1・他人に認められるのを待っていませんか?
2章 問題2・自分の価値を低くみていませんか?
3章 問題3・人間関係を大切にしすぎていませんか?
4章 問題4・制裁を恐れていませんか?
5章 交渉不安の原因―その克服のために
6章 交渉結果が低い理由―その克服のために
7章 女性への厳しい制限―その克服のために
8章 女性のように交渉する―統合的交渉のすすめ
終章 家庭でも交渉を



N・ベントマン著、西尾祐吾監訳『アドボカシーの理論と実際〜社会福祉における代弁と擁護』、八千代出版、
1998年

内容

 この本を買って目を通した1998年は、まだ介護保険が始まっておらず「アドボカシーって何???」という状態でした。言葉だけは聞いたことがあっても、実際に制度や仕組みとして日本に根付いていない時代のなかでは、遠い国の出来事のような気がしていたのでした。
 しかし、今日では「アドボカシーとエンパワーメント」がソーシャルワークのかけ声になり久しく、権利擁護の仕組みと共にこの言葉が浸透してきました。そんななか再びこの本を見てみると、とても具体的なアドボカシーのスキルが紹介されており、「実践場面で使えるじゃないか」と今さらながら思うのでした。
 ここでのアドボカシーとは「クライエントの権利のために戦うこと」(p.212)であり、アドボカシーを行うアドボケイトの中心的スキルは、面接、主張、交渉、自己管理、法的リサーチ、訴訟(p,84)です。先程から登場してきている「交渉」のスキルについては、交渉に際しての準備で行うこと、実際の交渉で行うことのリスト(p.125)のみならず、練習問題までついています。やはりスキルは使えなければ意味がないのでしょう。
 この本の出版後にアドボカシーの本は多数出版されているようですが、原点に戻る際にはお薦めの1冊です。


目次
第1部 背景
 第1章 アドボカシーとは何か、そして、なぜ必要なのか
 第2章 原則
 第3章 アドボカシーの実践
第2部 アドボカシーのスキル
 第4章 序論
 第5章 面接
 第6章 主張および攻撃の建設的な用法
 第7章 交渉
 第8章 自己管理
 第9章 法的リサーチ
 第10章 訴訟
 第11章 アドボカシーの構造
 第12章 終章―これから


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