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今回は援助職が書いた3冊です。


日浦美智江著『朋はみんなの青春ステージ〜重症心身障害の人たちの地域生活を創る〜』、ぶどう社、1996年

内容
 
 6月もすでに終わりかけている時期に、ようやく5月・6月の本紹介のページを更新することが出来ました。今回は、ソーシャルワーカーを含めた援助職が書いた3冊の本を紹介します。
 
 訪問の家「朋」とは、我が校の文学部哲学科の田坂さつき先生がご縁で、緩やかに関わらせていただくことになりました。今度、授業に施設長さんに来ていただきます。そこで、いろいろと「朋」のことを勉強するなかで出会った1冊ですが、何度も涙しながら読みました。
 理事長の日浦さんや障害児を持つお母さん達が、学校卒業後の我が子が地域で家族と一緒に暮らす居場所を創るため、奔走します。なかでも、第2号の作業所「朋」を作る際に、反対の声が上がっていた地域住民に対する説明会の場面では、思わず目頭を押さえてしまいました。「さまざまな質問が出ました。そのとき、一番後ろのほうからだったのですが、一人手を上げて、若い方、赤ちゃんを抱かれた方でした。その方が『施設ができたら、皆さんは散歩に出ますか、出ませんか』という質問をなさったのです」「私は思わず『さあ、困りました』と、立ち上がりました。本当に困ったのです。どっちを言ったほうがいいのかなって……。でも、私たちは当然、出たいと思っていましたから、その方の顔を見て、『出たいと思います』と申し上げました。そうしましたらその方が『どんどん出てきてください。そして、お友達になりましょう」とおっしゃってくださったのです」(p.93)。
 そうして地域の中に「朋」ができ、様々な活動が展開されていきます。きっと創られた方々は、辛かったことや悔しかった思いも沢山あったのでしょうが、この本からは前向きな力強さが伝わってきます。そして、第4章にあるように「共に新しい価値観を創る喜び」があることを、教えてくれるのです。
 学生の実習先としてもお世話になっている施設ですが、多くの学生に行って自分の目で「朋」を見てきてほしいなぁと、本を読んでますます強く思いました。



目次

プロローグ  いつかみんなと「Rejoice」と

1章  生を鮮やかに浮かび上がらせて

2章  青春の舞台を贈りたい

3章  舞台は地域へと広がり

4章  共に新しい価値観を創る喜び



吉岡隆編著『援助職援助論〜援助職が〈私〉を語るということ〜』、明石書店、2009年

内容

 読後の感想は「すごい、こんな赤裸々に自分を語れるなんて!!」というものでした。この本では、10人の援助職が自らの援助の原点や自己形成史について、包み隠さず本音を語ったものです。あたかも、自助グループのミーティングの場であるかのように。
 援助職といってもいろいろな人が書いています。臨床心理士、精神科ソーシャルワーカー、医師、大学教員。そして、内面の告白についても様々ですが、依存症にまつわる「当事者性」について語る人が多いように思いました。この援助職自身が「当事者性」について語る試みは、あるようで無かった新しいスタイルであり、このように1冊の本としてまとめられたことに敬意を表したいと思います。
 ただし、学部の1、2年生の学生には少し読み進めるには「しんどい」面があるかなと思いました。特に、自分自身の生育歴のなかで何らかの課題を抱えて福祉や心理系に進んできた学生(近頃は増えてきている気がします)で、未だ十分に自身の課題を認識していない場合には、刺激が強いかもしれません。自身の課題の認識や進路選択が明確になっている高学年の学生や、大学院生は読むと触発される面が多いのではと思いました。

目次

第1部 変えてゆく勇気を(吉岡隆)

プロローグ ぼくはなぜ援助職になったのか

第1章 「できない」とは言えないと思っていたころ

第2章 相談関係は試し合い関係
 
第3章 ぼくを見捨てないでください
 
第4章 ターニングポイント

第5章 自分を大切にできなければ、他人も大切にできない
 
第2部 自分と向き合うということ――9人のマイストーリー

STORY1 大嶋栄子(ソーシャルワーカー)
 たび重なる患者さんの再入院に直面し、無力感におそわれたあのころ。一生懸命に関わったのになぜなのか。その理由がわかるまでには、たくさんの失敗と時間が必要だった

STORY2 伊波真理雄(精神科医)
 医師を目指したのは医師の家庭に生まれたから。「人を助ける仕事」と考えたことがなかった自分を変えた、アルコール依存者との出会い

STORY3 村井美紀(元精神科ソーシャルワーカー/教員)
 親の期待を裏切れないという思いで選んだ福祉の道。精神科での挫折体験から自分自身の課題と向き合い、いまは学生から学ぶ日々

STORY4 奥西久美子(臨床心理士)
 日々クライエントと向き合うなかで、自分自身にも向き合う。苦しくても向き合うほうが結局は自分を楽にする

STORY5 引土絵未(ソーシャルワーカー)
 援助者自身の当事者経験が援助の源になることを教えてくれた「治療共同体」の実践。自分の経験や感情を分かち合うことが誰かの勇気につながることを願う

STORY6 村田由夫(ソーシャルワーカー)
 自分の力でドヤ街の人たちは救われる。そんな思い込みをうち砕いた「アル中」さんの回復と自助グループ

STORY7 後藤恵(精神科医)
 両親や教会から遠く離れ、宗教的ではない生き方をしようと決めて歩んできたつもりが、相似形のようによく似た場所にたどり着いていた

STORY8 綿引美香(表現アートセラピスト/カウンセラー)
 家庭崩壊で傷ついた心を救ってくれた演劇。ドラマセラピーを学ぶために留学したアメリカで表現アートセラピーに出会い、その可能性に魅了された

STORY9 箱崎幸恵(母子・女性相談員)
 自己形成史をつづることで、子ども時代の自分と向き合い、当事者性に気づいてから、私の考え方、生き方ははっきりと変わった


菊池かほる著『これがMSWの現場です』、医学通信社、2010年

内容
 
 2008年10月に引き続き、菊池かほるさんが再び登場です。2回目だっていいのです。だって、我が校の偉大な卒業生なのですから。
 今回の本は、前作の『病院で困った時、何でも相談してください。〜医療ソーシャルワーカーというお仕事〜』より、随分と世相を反映しているように思いました。平均在院日数の短縮、医療過誤、クレーム対応、成年後見制度、疼痛コントロールと緩和ケア等々、取り上げられている事例が病院をめぐる劇的な情勢の変化や、医療ソーシャルワーカーをめぐるジレンマの構図という、より複雑化・多様化した医療機関と医療ソーシャルワーカーの業務内容が描き出されています。
 この間、私は多くのベテランソーシャルワーカーのインタビュー調査で東 奔 西 走するなかで、本当に忙しくなっている病院の現場について改めて知りました。私が働いていた20年近く前とは雲泥の差があり、仕事の仕方自体が180度変わっていることも実感しました。
 そんななかで、菊池さんのように数十年にわたって現場を担って来られた人が実感をこめて執筆される本は貴重であり、我々研究者には出せない味があることをつくづく感じています。この本も、医療ソーシャルワーカー実習に行く学生には必ず読ませたいと思っています。

目次

第1章 医療ソーシャルワーカーとはどんな仕事か

第2章 医療ソーシャルワーカーにとって必要な知識・価値観・マナー等について

第3章 医療ソーシャルワーカーになる方法

第4章 医療ソーシャルワーカーの365日─いくつもの物語をみつめて(受け入れられない突然の不幸/引き取り手のない遺体/患者を病院に押し付ける家族 ほか)

巻末資料(医療ソーシャルワーカー業務指針

医療ソーシャルワーカー倫理綱領)



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