今月の2冊・2009年8月 本文へジャンプ
今月は調査手法に関する本を紹介します。


佐藤郁哉『フィールドワーク 増補版〜書を持って街へ出よう〜』、新曜社、2006年

内容

 この8月は、私にとっては調査月間です。各地に飛び回り数件のインタビュー調査を行う予定を組んでいます。すでに2件が終わって現在データ起こしの最中で、今回はかなり精密な記録を作るため一言一句聞き逃すまいと、地道な作業をしています。そんなこともあり、今月は調査手法の本を紹介しましょう。
 2009年4月の2冊でも紹介した佐藤郁哉先生の本には惹かれるものがあり、ついつい買ってしまいます。今から10年前にこの本の初版を読んだ時に、いくつか印象に残った箇所がありました。例えば「分厚い記述」。「見たままの姿を一枚の写真のように記録するという程度を越えない『薄っぺらな記述』(thin description)とは違って、『分厚い記述』は、人びとの発言や行動に含まれる意味を読み取り、それを書きとめてい」くものです(増補版p.111)。この言葉が頭のどこかに残っており、いつも「分厚く記述したいなぁ」と思いつつも、なかなか実現できず…。
 また、「対象を調べること」と「対象を通して調べられること」(p.117)。調べられる事例の数は少なくとも、対象を通して調べられる項目の数が多い事例研究のあり方が述べられており、当時質的研究に取り組んでいた私は、なぜだか嬉しくなった覚えがあります。
 まだフィールドワークを行ったことはありませんが、いつの日かぜひともチャレンジしてみたい魅力的な調査法です。


目次

Tフィールドワークとは何か?
フィールドワーク・ルネッサンス/野外調査/現場/野良仕事/カルチャー・ショック/民族誌/アンケート・サーベイ/ルポルタージュ/恥知らずの折衷主義

Uフィールドワークの論理
定性的調査(質的調査)/理論の検証と理論の生成/概念/仮説/分厚い記述/事例研究/サンプリング/信頼性と妥当性/トライアンギュレーション

Vフィールドワークの実際
文献調査/参与観察/異人/インフォーマント/第三の視点/見える世界/インタビュー/モノグラフ

Wハードウェアとソフトウェア
分類と配列/フィールドノーツ/定性的コーディング/ファイル/QDAソフトウェア/テープレコーダ(ICレコーダ)/カメラ/フィールド日記・フィールド日誌/マナーとエチケット



谷富夫編『新版 ライフヒストリーを学ぶ人のために』世界思想社、2008年


内容

 やはり10年ほど前に初版本を読んだ時に、ライフヒストリー法とはなんて面白い手法なのだろうと思いました。現代社会の異質化、生活世界の多元化が進む中で、その現状の一端を個人の内面から読み解く手法であり、まさにその個人の生活史という「対象を通して調べる」ことができる、広がりを持った手法だからです。
 そして、異文化を対象として内面からの理解しようとするとき、より効果が発揮できる方法と謳われていることを裏付けるがごとく、本書のなかには様々な状況にある人達のライフヒストリーが綴られています。沖縄出稼者有り、在日韓国・朝鮮人有り、都市下層の寄せ場に住む人々有り…。いずれも迫力のある内容ばかりです。
 なかでも「10高度医療に見られる生と死―患者のケースヒストリーより」などは、医療現場で活躍するソーシャルワーカーにとっても実践研究の参考になるのではないでしょうか。
 以前、ソーシャルワーカーの生活史を捉える調査研究に数年間取り組んでいましたが、またいつかその原点に戻りたいなぁと、今回改めて本を開いて思いました。


目次

はしがき

I ライフヒストリーで社会を読み解く
 1ライフヒストリーとは何か
 2ライフイストリーの可能性

II 越境者のライフヒストリー
 3沖縄出稼者と定住―異文化接触と同化過程
 4在日韓国・朝鮮人の「世代間生活史」―ある家族の階層移動

III 都市的世界のライフヒストリー
 5都市下層と生活史法
 6文化住宅街の青春―低階層集住地域における教育・地位達成
 7企業家と地方都市―石橋正二郎の生活史

IV 性・民族・医療とライフヒストリー
 8ライフヒストリー研究におけるジェンダー
 9在日コリアンの子どもたち―生活史調査に見る仲間形成
 10高度医療に見られる生と死―患者のケースヒストリーより


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