今回は友人と一緒に見た海に沈む夕日の話です。 |
暮れも押し迫った頃、私たちは静岡の港町に来ていました。魚料理と全部屋から見える海を売り物にした温泉宿です。
久しぶりに会った友人と一緒に、電車に乗って、山道をバスに揺られてやってきました。
部屋についているお風呂からは、夕暮れの海が一望できます。館内アナウンスでこれから夕日が沈むことを聞かされ、友人はお風呂から、私は部屋の窓から夕日を見ました。
赤々と燃える夕日がゆっくりと海に沈み、水平線に消える瞬間まで光を放っていました。
沈んだ後は残照が空を照らして、夜の帳と消え残る昼の明るさが交じり合い、えもいわれぬ色の空が広がっていました。
そんな夕日と空の色を眺めていると、また一緒に旅ができて本当に良かったと、心から感動がこみ上げてきたのです。
というのも、その人は数ヶ月前に大きな手術をしたばかりで、まだ病気の治療中でした。
私にとっては十年以上も前から仲良くさせてもらい、まるで東京の姉のように慕っている人でした。
彼女の病気の報せを聞いた時、毎年のように悲しいことが起こっていたのを知っていただけに、「なんて人生って不公平なんだろう」と、涙が出て止まりませんでした。柄にも無く真剣に、彼女の無事を神様に祈りました。
けれども、どんな状況にあっても、いつもその人は周りの人から愛され、プロとして仕事をこなし、前向きでした。いつもいつも、彼女の存在全体が私を励ましてくれたのです。
今もその人は病気と闘っています。でも、時々は一緒にご飯を食べたり、おしゃべりをしたりもします。そしてまた、治療が終わったら一緒に旅ができると信じています。
あの日見た夕日のように、何度も何度も輝く瞬間を味わうために、きっと私たちは生きているのだと思います。
そして生きていれば、そんな瞬間に出会えるのだということを教えてくれた旅でした。
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