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                  | これまでに私が見た、一番綺麗で一番悲しい海の思い出です。 |  
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                        |  大学3年生のある日の夕方、私は一人で大学の裏山に登っていました。山を開拓して建設した大学の裏には、まだ小高い丘がそのままの状態で残っていました。大学からは数百メートル先の美浜の海がよく見えるのですが、裏山に登れば、もっと綺麗に見えるだろうと思ったからです。
 
 山の頂上に到達した私の目に飛込んできたものは、ひっそりと立つ碑でした。その碑には「ああ君、ここに眠る」と書いてありました。
 その碑は、私が入学する少し前に起こったバス事故で亡くなった人の名前が刻んであったのです。そのバスはスキーに行った学生と教員、運転手25人を乗せたまま、早朝の湖に沈みました。過酷な労働ゆえに、疲れがたまった運転手のミスにより、バスは湖に転落してしまったのです…。
 
 私が入学する数ヵ月前の出来事であり、乗っていた人達とは面識はありませんでしたが、その碑を見た時に急に人事ではないように思えました。
 その碑は大学の中でも、一番綺麗に海が見える場所に立っていました。海辺の遊園地も、遠くの町も、海に沈む夕日さえ、全て収まる場所でした。
 私はその光景を見た時に、もっと生きて福祉の勉強をしたかった大学1年生で亡くなった人たちと、その人のために一番綺麗な場所に碑を立てた仲間のことを考えると、悲しくて悲しくて涙が止まりませんでした。
 
 その日以来、私は考えることが増えました。生きるとは何か、よりよく生きるとはどんなことか、私がもしその人たちのためにできることがあるとすれば、それは何か…。
 今でも、裏山から見たオレンジ色に染まる一番綺麗な美浜の海を忘れません。そして、夢なかばで亡くなった学生たちが大学にいたことも。
 そして、今生きている自分は、より真剣に福祉を学ばなければと思うのです。
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